デジタル機器とのマッチングにも優れたステレオ・リミッター/真空管マイクプリ

MANLEYSLAM!

レコーディング/ミックスの現場でデジタル環境が主流となっている現在、より大きなレベルで録音/再生させるためのリミッター的な機材やプラグインを数多く見かけます。今回はプロの間でも評価の高いMANLEYから発売された、マスタリング・クオリティのマイクプリとリミッターをステレオで内蔵したSLAM!をチェックしましょう。なぜリミッターにマイクプリ?というある種、異色の組み合わせも気になるところです。

録音からマスタリングまで行える
充実した機能群


SLAM!とは“Stereo Limiter And MicPre”の略で、基本構成は以下のようになっています。
●各チャンネルに2種類のリミッターを採用
●DI機能も備えた真空管マイクプリを搭載
●オプションでカード型AD/DAコンバーターを内蔵可能
●さまざまモードを備えたメーター表示なお、電源は大きめの外部電源ユニットを採用し、極太端子で接続するタイプなのですが、熱対策という面で逆に安心感があります。では、各機能を紹介しましょう。まず各チャンネルに2種類用意されているリミッターは、アタック/リリース・タイム固定でRatio 10:1のサイドチェーン付きのElectro Optical Limiterと、新しいFETドライバーを用いたアタック/リリース・タイムともプログラム式で設定できるFET Limiterの2種類があります。Electro Optical Limiterはどちらかと言えばUREI 1176などのコンプ的要素で使用し、録音時に威力を発揮するリミッターで、FET Limiterはピークを抑える要素の強い作りになっています。次に12AT7管と6414管を各2本使用したマイクプリは100Hzハイパス・フィルターを備え、PADもないゲイン幅が広いものになっています。マイクプリには今や一般的になったDI入力ですが、SLAM!は入力インピーダンスが2種類から選択でき、入力の標準プラグを奥までと、半分挿し込んだときで変わるのです。なお、残念ながら今回はチェックできなかったのですが、オプションで用意されている24ビット/192kHzに対応したカード型AD/DAコンバーター、ADC/DAC(オープン・プライス/市場予想価格290,000円)は、AESとS/P DIFに対応し必要十分な仕様のもので、リア・パネルにはあらかじめ専用のスロットが用意されています。

音が太いマイクプリ
リミッターのかけ録りも可能


では早速、マイクプリ部を男性の歌録りで試しましょう。音を聴いての第一印象は“とにかく音が太い!”ということ。NEUMANN M149やBRAUNER VM1などのマイクを数本使って試しても、ハイファイな特性で有名な某社のマイクプリの音が軽く感じてしまうほどです。音が太いといってもヌケが悪いわけでなく、どちらかと言えば高域が強調されて嫌なこともあるマイクの欠点を上手に補っているというニュアンスの音です。本機はどちらかと言えばリミッター中心の機械でマイクプリ部はオマケ程度なのかなと思っていたのですが、全くそんなことは感じさせない良いキャラクターに仕上がっていると思います。さらに、Electro Optical Limiterでかけ録りも試したのですが、これも良くできています。日ごろはマイクプリの後に1176でリミッティングをしているのですが、SLAM!1台だけですべて完結できるのです。周りの人の反応も良く、そのままOKテイクとしてCDにできるレベルだと言えます。また、このElectro Optical Limiterにはフィルターが付いており、この値の変化によってリミッターのかかり具合が変わるのもうれしいところです。歌録りに最適だと思われる設定もあり、アタック/リリース・タイムやレシオを変えられない状況でも、使えることには正直驚きました(もちろん曲調や声にもよるとは思いますが)。Electro Optical Limiterの音のキャラクターは、クセがなくナチュラルな印象で、5dBほどかけたくらいではかかっているのが判別できないくらいです。歌以外の楽器でも、つまみ1つで手軽に調整できるわりには幅広く使うことが可能で、何にでもかけたくなるほどです。

アナログ的な要素が強く
フレキシブルに使えるリミッター


次に、ミックス時のマスターにSLAM!をインサートして使ってみましょう。日ごろ私がよく使っている同社のStero "Variable-Mu" Limiter Compressorと比べると高域がちょっと落ち着いており、良い意味で低域が膨らんでくれるように感じます。マイクプリと同様に、いわゆる太くなったという印象で、好みが分かれる部分でしょう。ただ、Electro Optical Limiterは、薄くかける分には良いのですが、ちょっとでも深くかかるとパラメーターが固定ということもあってバウンドが激しくなります。この辺りはMANLEY特有のキャラクターです。一方、質感の違うFET Limiterの方はいかにもリミッターという感じで、良いキャラクターをしています。かかり方としてはナチュラルなものから歪む感じまで幅広く対応でき、ジャンルを選ばず使用できるでしょう。特に歪んだ感じは柔らかく、アナログ感もあって結構使えるなと思います。アタック・タイムも速いモードにするとピタッとレベルも止まってくれるし、少ないパラメーターのわりには、何にでもフレキシブルに対応できます。また、デジタル機器でミックスした際に高域のチャラチャラした感じが嫌いな人も本機を挟むことによって上手にまとめられるでしょう。もっと書きたいことはあるのですが、SLAM!は1ページでは語り尽くせなくらいさまざまな要素を持つ機器です。メーター類もかゆいところに手が届き、久々にこだわりのある逸品に出会った気がします。とにかく、SLAM!の特徴を一言で表すなら、クリア/スムース/ファットで、しかもウォームなサウンドというところでしょう。値段が高めなのが唯一惜しいところなのですが、デジタル機器とのマッチングも良いし、1度体験してみてください。ぜひ私も欲しい1台です。
MANLEY
SLAM!
オープン・プライス(市場予想価格:710,000円)

SPECIFICATIONS

■入出力端子/チャンネル・イン(フォーン/XLRコンボ)×2、チャンネル・アウト(フォーン、XLR)×2、Hi-Z入力×2、DAC(フォーン)アウト×2、サイド・チェーン
■周波数特性/5Hz〜60kHz
■入力インピーダンス/2kΩ
■最大出力レベル/+32dBu
■出力インピーダンス/200Ω
■全高調波歪率/0.05%以下(@1kHz)
■外形寸法/482.6(W)×88.9(H)×304.8(D)mm
■重量/11.3kg(本体)