ドイツのクラフトマンシップ溢れるハンドメイド真空管マイクロフォン

BRAUNERVM1

最近の低価格コンデンサー・マイクの種類・機能の高さにはとても驚かされていますが、今回レビューするBRAUNER VM1は、それらとは価格帯も含めて全く違うコンセプトで開発された真空管マイクです。開発からわずか3年後の1998年、アムステルダムAESショーにおいてベスト・マイクロフォン賞を受賞しているという、本機の実力はいかに!

高級感漂うデザインと手触り
付属品一式が収納可能なケースも付属


BRAUNERは、ドイツ国内でビンテージ真空管マイクのエキスパートとして高い評価を得ていたディルク・ブラウナー氏によって、1995年に設立されました。まず外観ですが、シルバーで手触りも良く、適度に重量感のある高級感漂うデザインです。細身の円筒形で、上部の編み目の細かいメッシュの奥にカプセル・ユニットが納められています。真空管はPHILIPS 5840。開発当時はEF806S管(TELEFUNKEN製)が使われていたそうですが、ブラウナー氏の望むサウンド・カラーや均一な品質を保つのが難しかったので、現在のPHILIPS製になったとのこと。指向性は無指向性から双指向性まで変更できます(カーディオイド/スーパーカーディオイドなども設定可能)。指向性切り替えは専用の電源ユニット(117V)でコントロールでき、−10dBのパッドも付いています。マイクと電源、専用ショックマウント、ウインド・スクリーン、ケーブル類などの付属品すべてを格納可能な専用ケースも付属しています。マイク本体にショックマウントとウインド・スクリーンを装着すると、かなり大型のマイクのようになり、見た目から受けるイメージも大きく変わります。面構えもすごく立派になり、かなりかっこいいですよ!

低域・高域ともにレンジが広く
SN比にも優れたクリアな音質


それでは、実際に音を出してチェックしてみましょう。まずはVM1とNEUMANN U87の聴き比べ。使用したマイク・プリアンプはNEVE 1073です。入力感度はおよそ10dB程VM1の方が大きく、SN比についても断然優れていて、全くの静寂が実現されていました。最初はストレート・ボイス(話し声)でチェック。オン/オフ、張り気味の声やささやき声などでテストしてみました。中域での表現力の差は思ったほど違いは感じられませんでしたが、中高域では違いが出ました。VM1の方が若干抜けが良く感じられ、音像がクリアに聴こえます。また、オン・セッティングのウィスパー・ボイスでは、明瞭度の違いも出ました。VM1の方が抜けが良く、近接効果も少なかったです。次にスタジオでアコースティック・ギターやピアノなどの生楽器を録音してみました。今回も比較対象はU87で、マイクプリはFOCUSRITEのコンソールのヘッド・アンプです。まずギターでは、コード弾きでも音が濁らず、抜けも良好でした。ピアノではU87よりも、低域・高域共にレンジの広さが感じられました。ギター、ピアノ共にオン・セッティングで強く弾いたときの、真空管回路独特のサウンド・カラーは良いですね! より倍音が出て、はじけるような印象的なサウンドになります。最後にウッド・ベースでもチェックしてみましたが、低域での表現力は濁らず、抜けも良く、U87よりも数段いい感じでした。全体の印象としては、ボーカルやソロ楽器などの録音で主役になるマイクとして、とてもお薦めできるものだと思います。レンジも広く、SN比も良いので、現在のハイビット/ハイサンプリング・レートのデジタル・レコーディングの環境でも、実力を存分に発揮できるスペックです。ドラムのオーバートップやピアノなどでステレオ・セッティングも試してみたかったのですが、価格的にもなかなか2本以上はそろえられないでしょうね。また、このくらいのしっかりした作りの機材になると、時間が経つ、つまり通電時間が長くなると、機材の暴れが減ってきて、音が音楽的にまとまってくることがあります。そういったことが起こるのは、パーツや設計などがきちんとしているからで、名機と言われるビンテージ機器の多くもそのような作りになっているのです。安い機材やデジタル機器ではこうした楽しみも持てませんが、本機は3年後、5年後、10年後が期待できるマイクになるでしょう。VM1は、すべてディルク・ブラウナーさんの手によるハンドメイドだそうですが、ものすごく丁寧な作りだと感じました。伝統あるドイツの職人魂が感じられます。これから5年後、10年後、もちろんそれ以上長く付き合える、そんなマイクです。皆さん、そう考えるとこの価格は安いですか? 高いですか?

▲左が本体にショックマウントとウインド・スクリーンを装着した状態。右が電源ユニット

BRAUNER
VM1
660,000円

SPECIFICATIONS

■自己雑音レベル/13dB A
■SN比/85dB
■感度/28mV/Pa
■指向性/連続可変(単一、双指向、無指向、スーパーカーディオイド、ハイパーカーディオイド)
■周波数特性(本体)/20Hz〜28kHz、40Hz〜22kHz(−3dB)
■周波数特性(アンプ部)/5Hz〜130kHz
■最大音圧レベル/148dB
■外形寸法(本体)/40(φ)×215(H)mm
■重量(本体)/760g