宅録からプロの現場にまで幅広く使える万能ダイナミック・マイク

BENSON AUDIO LABSBA30

例えば宅録初心者が最初に購入するマイクは100人中90人がダイナミック・マイクだろう。また耐久性も良くライブやステージで一番使用頻度が高いのもダイナミック・マイクだ。今回は初心者からプロフェッショナル・ユースまで対応可能なダイナミック・マイクBENSON AUDIO LABSのBA30をチェック、試聴してみた。

ライブでも扱いやすい
ヌケが良く音圧のあるマイク


BENSON AUDIO LABSのダイナミック・マイクのBAシリーズはBA15、BA25、BA30からなり、今回紹介するBA30はシリーズでは最高峰に位置する製品である。スペック、価格帯ともに、このクラスのダイナミック・マイクの定番と言えば、やはりSHUREのSM57、SM58が比較の対象となるだろう。そこで今回のチェックでは上記製品との比較を試みた。まず、パッケージはジッパー付きキャリング・バック。またGLIPCLIPスタンド・アダプターも付属している。マイク全長は160.2mm、重量は270gで形状、重さもSHUREのSMシリーズに近く、これといった個性はないが、つかみ心地は少々太めでハンドマイク時には安心感がある。指向特性は単一指向性(カーディオイド)で、軽量ダイアフラムや磁性体素材にビンテージ・アルニコ・マグネットを採用し、感度は−54dBmで周波数特性は50Hz〜15kHzをカバーする。メーカーのカタログ上には“特異なキャラクターはなく、非常に使いやすいマイク”と表記してあるが、私は個人的に良い意味で“クセ”はあるように思えた。周波数特性50Hz〜15kHzというスペック通り、ダイナミック・マイクにしては非常にヌケは良い。特に中低域の印象は良く、SM57とSM58の中間の音色といったイメージだ。出力インピーダンスも500Ωなので当然音圧もあり、ライブなどで長いケーブルを使用するときでも音はやせず、PA的にも扱いやすいマイクと言えるだろう。ブリティッシュEQの父(!?)ジョン・オーラム氏もこのマイクを大推薦をしている。知らない人のために解説しておくと、ジョン・オーラム氏とは、マイク/ライン・プリアンプ“Octasonic”や“Trident S80”などで知られるORAM社の社長であり、その昔はイギリスのギター・アンプ・メーカーの老舗“VOX”のアンプの設計にもかかわっていた。また、ポール・マッカートニーのアンプ・テクニシャンとしても活躍した著名人なのだ。

打楽器のレコーディングに適した
低音域の引き締まったサウンド


実際にいろいろと試してみることにしよう。まずはボーカルからだ。SM58と比較してみることにする。使い慣れたところもあるが、SM58は非常にフラット。なので、何の疑いもなくミキサーのヘッド・アンプ・ゲインもいつもの位置に設定して、という具合でまずチェック。次に同じ状態でBA30に差し替えてみたところ、上下の周波数のレンジは広がった感じがあり、間違いなく一皮むけた音色だった。また音色もさることながら、メーター上のレベルも約1dBほど上がった感がある。レンジが広い分、ボーカルのリップ・ノイズなどが気になるが、逆に声量の弱い女性ボーカルやマイク・テクニックがうまく使えるボーカリストには扱いやすいマイクだろう。次にアコースティック・ギターで試してみた。ギターのサウンド・ホールと19フレットの間くらいにマイキングし、サウンド・ホール寄りにマイクを向け、ギターからの距離はおよそ30cm弱……という感じで、普通にセッティング。ストローク系のプレイに関しては、カッティング時のザクザク感がコンデンサー・マイクで録ったときにも似ており、低音弦の感じも非常に良い。各弦の音はバランス良く拾えるが、“低音”という部分では、少々詰まった感じがあるがダイナミック・マイクにしてはよく出ている……どうやら私は10万円台のマイクのチェックと勘違いしているようだ!?今回はプロダクション・スタジオでドラム録りもあったのでチェックしてみた。このマイク、実はドラム、パーカッションなどの打楽器に非常に向いているのでは?と思うほどマイクのノリが良かった。特にスネアの音色は良い。今回チェック用に渡されたマイクは1本だったのでトップとボトム両方では試せずトップのみだったが、非常にブライトで低音域も締まった感じがある。ロック寄りでSM57に飽きた人にはお薦めだろう。タムの音色も思ったより良い。単一指向性なので当然ながらマイキング次第で非常に深みのある音色が拾える。逆に他のパーツの音を拾いにくいマイキングもできるだろう。機会があれば一度タム全体をBA30でマルチマイクのレコーディングをしてみたいものだ。最後にエレキギターでも試してみた。本来私はギターの録りはSM57党(自分の音のみです)なのだがBA30もなかなか良い。今回試したギター・アンプのキャビネットはMARSHALL JCM800。スピーカーに対してマイクの位置は近め、遠めともに良いキャラクターで、モニターした音はSM57に比べローエンドが強い感じで、SM57とSENNHEISER MD421を合わせたような感じだ。ギンギンに歪んだ音色も良いがクランチ系の軽い歪みの音色は特に表情が分かりやすく録れた。クリーンの音色は少々ハイファイ気味な感じも受けられたが印象は良い。全体的な感想は、音色はウォームでナチュラル、とにかくソースを選ばないマルチダイナミック・マイクという感じで、EQに頼らなくても感触のいい音色のマイクだ。高出力でありながらアンチフィードバックも達成しているし、初心者からプロフェッショナルまで対応できるだろう。価格も手ごろなのでこれから“まず1本買いたい!”という方にはぜひお薦めだ。
BENSON AUDIO LABS
BA30
16,800円

SPECIFICATIONS

■指向性/単一指向
■周波数特性/50Hz〜15kHz
■感度/−54dBm
■開回路感度/2.0mV
■出力インピーダンス/500Ω
■サイズ/39.5(φ)×160.2mm
■重量/270g