フレキシブルなルーティングが魅力の96kHz対応デジタル・ミキサー

YAMAHA01V96

いやー、何だかすごいことになってますねぇ。YAMAHAのデジタル・ミキサー。去年から今年にかけて一体何種類目?という勢いで、飛ぶ鳥落としてます。もちろん、同社が時代とリンクしながら成熟させてきたデジタル・ミキサーの歴史あってのたまものでしょうが、このところの猛ラッシュには驚きです。過去に2台の02Rをカスケード+01Vを使用という歴史を持つ僕も、昨今は“DAWにはビンテージ・マイクプリ+アナログ卓”という風潮に流されていました。ところが、本誌レビューで02R96を体験してからというもの、その操作性と音質の向上ぶりには“目鱗”状態でして、間近に迫ったプライベート・スタジオ大改装の際にどうしようかとふかーく悩み中だったりします。そんな僕に追い打ちをかけるように頼まれたのがこのレビュー。かなりマジにお届けします。

LAYER機能により
64chのフェーダー制御が可能


さて、01V96の写真を見て“あれ?、こんなん先月も載ってなかったっけ”と感じたあなた、結構正常です。01V96はその大きさやフェーダーの数(チャンネル・フェーダー×16+マスター・フェーダー×1)、ノブやボタンのレイアウトなどもかなり同社のDM1000に似ていて、違いといえばやや平面的なデザインにした感じですね。でーは、01V96がDM1000の廉価版かというとこれがまた違った方向性で作られているなっていうのが第一印象。もちろん、基本的な仕様はDM2000〜02R96〜DM1000といった流れを汲む心臓部を持ち、24ビットAD/DA、96kHzサポート、最大110dBのダイナミック・レンジを確保という僕が02R96で驚かされた質感の新世紀仕様。DM1000と大きく異なる点は本機の入出力の仕様です。その構造は、12系統のマイク/ライン入力(48Vファンタム電源搭載、XLRとTRSフォーン)+4系統のライン入力(TRSフォーン)を軸に、この価格帯では驚きの12系統の入力すべてに装備されたアナログ・インサート端子(TRSフォーン)、ステレオ・アウト/モニター・アウト用に独立した出力(それぞれXLRとフォーン)、テープ・イン/アウト等に活用できる2TRイン/アウト(RCAピン)、S/P DIF(コアキシャル)の入出力とADATオプティカルも標準で装備、さらに01Vからの伝統を受け継ぐ自在にルーティング可能な4つのOMNI OUTも健在で、もちろん、さまざまな種類の入出力を追加できるMiniYGDAIカードも1基搭載可能(最大で16系統の入出力を追加可能)というものです。しかも01V96では、これらの入出力を扱う際、LAYERという機能で16本のフェーダーが扱う信号を簡単に切り替えられます。LAYERは、インプット1〜16、インプット17〜32、MASTER、そして外部機器リモート用のREMOTEという4つの階層からなり、計64チャンネルのフェーダー・コントロ−ルを可能にしているのです。このスペックでまず僕が感じたのは、自宅などの小規模スタジオ・システムで、フレキシブルなルーティングの中枢を担う司令塔、ということでした(もちろんキーボーディストがライブで使用することなども考慮されているとも感じましたが)。そこで、今回はあえて概略的なスペック説明は必要最低限にとどめておいて、本機ならではの特色、使い勝手を説明したいと思います。

パッチ・ベイ要らずの
自由度の高い内部ルーティング


01V96のフレキシブルさ、現場感の強い仕様の現れの一つが、先に紹介した12系統のマイク/ライン入力すべてにインサート端子が装備されている点でしょう。僕は現在も02Rを使用していますが、そのオプション・スロットすべてにアナログ・イン/アウト仕様のカードを挿して使用しています。その理由は、初代02Rには8つのインサート端子しかなかったことを懸念したため。というのも、インサート端子の数が少ないと、僕のようにボーカルなどの生モノはもとより、シンセもサンプラーも必ずといっていいほど外部エフェクター機器を通しての色付け&加工を楽しみながら作っていくタイプの音楽家には、使い勝手が今ひとつよくないのです。そこで、オプションのアナログ入出力用カードで、BUS/ダイレクト・アウトをAUXと併用して、非常にシンプルなアナログ信号のやりとりを可能にしたわけです。ところが、01V96には最初から12ものインサート端子が用意されており、しかも今後は96kHzというハイスペックなデジタル・レコーディング・システムとビンテージ機器を併用したサウンド・メイキングの在り方は、ますます必要不可欠になると感じていたので、01V96のこの仕様はかなりうれしいものでした。さらにおいしいのは、インサートするポイントが選べる点。各チャンネルEQの後、もしくはEQ+コンプの後にもインサートできますし、プリ/ポストフェーダーなども選べることは非常に大事。また本機では内部ルーティングにより、インサート・アウトをさまざまな端子から出力できます。各種のアウトプット・チャンネル(ステレオ・アウト、バス・アウト1〜8、AUXアウト1〜8)それぞれから独自にインサート・アウト可能なのです。つまり、インサート・イン/アウト、アナログ入出力端子、ADAT端子、OMNI OUT端子、オプション・スロットに挿したカードの入出力端子などを使って、外部エフェクターとパッチすることで、それぞれの信号を自由な発想で外部に取り出し加工できます。これはプロ機器からコンパクト・エフェクターまでを自由に混在させたいイマドキの音楽制作にはホントうれしい仕様です。さらに、内部ルーティングの自由度の高さも本機の司令塔としてのフレキシビリティを高めています。例えば、後述する内蔵エフェクトのインサートまで自由自在。同社のAWシリーズ・ユーザーには理解しやすいかと思いますが、01V96には1〜16(初期状態でインプット端子の1〜16が立ち上がる)、17〜24(同様にADAT INの1〜8)、25〜32(同様にオプション・スロットの1〜8)の各8チャンネルずつのインプットと、1〜4のステレオ・インプット(同様に内蔵エフェクト1〜4のアウトプット)、2TRデジタル・インプットがあるのですが、それぞれ自由なルーティングが内部で組めるようになっています。これはもはや“パッチ・ベイって何?”というほどの自由さ。通常の使用法でしたら、手持ちのシンセやコンピューターのオーディオ・インターフェースのアウトから、CDやMDに至るまでをつなぎっぱなしで作業が進められます。内蔵エフェクト4系統の返りまでもを自由にパッチできちゃいますから、スタジオどころかライブでの司令塔としても、そーとー便利です。例えば“この曲はバック・トラックをチャンネル1/2にペアで立ち上げ、内部エフェクトのロング・ディレイへの送りをチャンネル3に、その返りを隣のチャンネルに”なんて設定しておけば、あなたのパフォーマンスの自由度も簡単にUP! あとはあなたの頭のルーティング次第というわけです。

DAWソフトを自在に操る
充実したリモート機能


さらに、この価格帯まで突入しながらも、DM2000、02R96などで話題のエディター・ソフト、Studio Manager(Windows/Macintosh)もきちんと同梱されている点も本機のうれしい“司令塔ぶり”でした。このエディター・ソフトは、01V96のTO HOST端子(USB)を介して外部コンピューター上から、01V96のエディットやデータの管理ができるものとして認識されているようですが、やっぱり司令塔として素敵なのはDIGIDESIGN Pro ToolsやSTEINBERG NuendoといったDAWソフトのフィジカル・コントローラーになっちゃうってところですね(もちろん、コンピューターのディスプレイ上から、例えばSelected Channel Module Windowなんかを開けば、大画面で非常に細かいエディットをスピーディに行えたりするメリットも大きいんですけど)。設定方法もシンプルで、USBで01V96とコンピューターを接続したら、数ステップでDAWソフトのリモート・コントロールが有効になります。例えば、Pro Toolsのオーディオ、MIDI、マスター、AUXなどの各トラックを、01V96のREMOTE LAYERでコントロール(レベル、パン、ソロなどなど)をコントロールできるのです。もちろん、各チャンネルにプラグインを割り当てたり、プラグイン・パラメーターの操作も可能。さらに、01V96のディスプレイには、Pro Tools各チャンネルのメーター(クリッピング/ピーク・ホールド切り替え可能)も表示されますし、選択したパラメーターの数値を本機のパラメーター・ホイールでスクラブ/シャトル操作できます。さらにさらに、02R96譲りのUSER DEFINED KEYS(167種類の機能の中から、任意のものを8つのボタンに割り当て可能なショート・カット機能。リモート・コントロール関係は54種類用意)で、DAW RECやDAW PLAYなんかを割り当てておくと……そう、トランスポート関係も01V96で操作できてしまうわけです。つまり本機は、これまでコンピューター上の画面で操作することがトレンドとされていた常識を一切ひっくり返し、ミキサーと向き合ったまま、そこに立ち上げたシンセやサンプラーなどのバランス/質感を作りつつ、DAWの操作(もちろんバランス/パン/ミュートなどからプラグインによる質感調整まで)を自由自在に行える正しい司令塔になっているのですよ。

最大4系統の内蔵エフェクトには
秀逸なプログラムを満載


ここまで盛んにエフェクトを含めた外部機器とのやりとりについて語ってきましたが、もちろん最大4系統(44.1/48kHz時、88.2/96kHz時は2系統)まで使用可能な内部エフェクトもそのアサインの自由度とともに秀逸です。以前01Vを購入した動機として、02R以上ともいえるエフェクト・バリエーションの豊かさに引かれたということもあったくらいなのですが、01V96にも好みなエフェクトがそろっています。特にディレイ系とフェイザー系、オート・パンなんかは非常によくできたプログラム。コンピューター・ベースでは重くなりがちなリバーブとディレイをセットした上で、そのほかにも2種類のエフェクトを確保できメモリーまで可能という環境は、日々異なったプログラムを行う僕にはとても好都合です。先ほども触れたように、内蔵エフェクトを各チャンネルへ任意にインサートできますので、特殊なことをしない限り、十分内部エフェクトだけでまかなえそうです。さらに、僕たちにデジタルならではのきめ細かいQによるイコライジングの有効性を教えてくれたお家芸ともいえるEQも、他機種と同様の4バンド仕様となっています。このEQに新しく追加されたTYPE IIも個人的印象ではよりナチュラルなアナログ感がありました。限られたスペースゆえ、独断で01V96ならではの特色と感じた部分だけをピックアップして書いてきましたが、もちろん、新時代を感じさせる高品位のヘッド・アンプを代表とするアナログ部分や各チャンネルに用意されたゲートやコンプといったダイナミクス系、BUS1〜8がサラウンド・バスとしても機能する20バス構成、一度覚えてしまえばどの機種もマニュアルなしで直感的にいじり倒せる設計といったものすべてがそろっての世界的ヒット商品なのは間違いのないところ。そろそろ、モニター・スピーカー前のミキサーとコンピューターのディスプレイを入れ替えようかと考えていた僕のムードが一気に揺らされてしまいました。今、僕の狭い頭の中では“どうよ、これでもまだマウスで音楽作るの?”って問いかけがパンニングしまくってます。

▲リア・パネル。STEREO OUTなどの入出力端子に加え、TO HOST端子(USB)やMiniYGDAIカード用スロットなどを装備

YAMAHA
01V96
250,000円

SPECIFICATIONS

■内部処理/32ビット(アキュムレーター=58ビット)
■サンプリング周波数(内部)/44.1/48/88.2/96kHz)
■フェーダー/100mmモーター・ドライブ・フェーダー×17
■ダイナミック・レンジ/110dB(DA)、106dB(AD+DA)
■アナログ入力端子/CH INPUT 1〜12(XLR、TRSフォーン)、CH INPUT 13〜16(TRSフォーン)、CH INSERT IN 1〜12(TRSフォーン)、2TR IN L/R(RCAピン)
■アナログ出力端子/STEREO OUT L/R(XLR)、OMNI OUT 1〜4(TRSフォーン)、MONITOR OUT L/R(TRSフォーン)、CH INSERT OUT 1〜12(TRSフォーン)、2TR OUT L/R(RCAピン)、PHONES(TRSフォーン)
■デジタル入力端子/2TR IN DIGITAL(S/P DIF、コアキシャル)、ADAT IN(オプティカル)
■デジタル出力端子/2TR OUT DIGITAL(S/P DIF、コアキシャル)、ADAT OUT(オプティカル)
■その他の端子/TO HOST(USB)、MIDI IN/OUT/THRU、ワード・クロック・イン/アウト
■オプション・スロット/MiniYGDAI×1
■外形寸法/150(H)×540(D)×430(W)mm
■重量/15kg