24ビット/192kHz対応A/Dを搭載したモバイル2chマイクプリ

GRACE DESIGNLunatec V3

今やハイサンプリング・レート対応は当たり前となっている感さえあるが、現実にはマイクプリやADコンバーターのアナログ回路が、そのスペックを十分に生かすだけの性能を持っていない製品が多いのも事実だ。そんな中で今回は十分に期待のできるスペックを持つ、GRACE DESIGNの2chマイクプリ、Lunatec V3を試聴してみよう。

名機Lunatec V2を踏襲しつつ
192kHz対応A/Dを新たに搭載


さて、このLunatec V3は、従来のモデルLunatec V2の改訂版。2chのマイクプリという基本は踏襲しながら、新たに最高192kHzのハイサンプリング・レートに対応したADコンバーターが内蔵されている。また、ANSRというGRACE DESIGN独自のディザリング・アルゴリズムも搭載された。これは、24ビットの分解能を生かしたまま16ビットに変換することを目的としたものだ。ハイサンプリング時のデジタル出力は、デュアルAESのダブル・ワイヤーと、ダブル・スピードのシングル・ワイヤーの双方に対応している。接続先の機器がまだダブル・スピードに対応していないので、現実的にはPro ToolsなどへデュアルAESでの受け渡すことになるだろう。今回の試聴もそれで行った。ワード・クロックはアウトのみを装備。できればインも付けてほしかったところだ。また、本機は内部のジャンバー設定によって、ライン・レベルの入力にも対応する。従ってミックス・ダウン時などに、単体ADコンバーターとして使用することも可能となっている。フロント・パネルには、10dBステップで11段階のゲイン切り替えと10dB幅のトリム、−6/−12dBのハイパス・フィルター、ファンタム電源、さらにADコンバーター用のピーク・メーター(ホールド機能付き)も備わり、必要にして十分だろう。特に操作パネルが少し奥まっているのが気に入った。誤って触ってしまう確率が大幅に減るからだ。また、サンプリング・レートの変更ボタンは、0.5秒間押し続けることで機能するようになっていて、これも誤操作によるトラブルを未然に防いでくれる。

原音に忠実で透明感のある音
オプションでバッテリー駆動にも対応


試聴用の音源にはピアノなどのアコースティック楽器を選び、マイクはSCHOEPS、レコーダーにはDIGIDESIGN Pro Tools | HD+192 I/Oを用いて、24ビット/96kHzおよび192kHzでテストした。FOCUSRITE ISA430や192 I/Oをリファレンスとしながら、生音との比較も行った。まずは192 I/Oのアナログ入力につないで、マイクプリ部のみのテスト。このクラスともなると、マイクプリの音質差はさすがに微妙な違いしか見いだせない。生音と比べれば、ADコンバーターを経過している分だけ若干の堅さが見いだせるものの、Lunatec V3の音質は十分に原音に忠実であり、素直と言えるだろう。次に、192 I/OとAES/EBUで接続して、ADコンバーター部も含めてのテストを行なった。AD/DAのマッチングや相性もあるので、DAに何を選択するかでLunatec V3には不利に働くかとも思われたが、結果は決してそうではなく、非常に高い次元の勝負となった。一言で言えば、Lunatec V3は高域の透明感と低域の重量感を併せ持った“仕事で使える”音。相当高い周波数まで取り込んでいるようで、それなりのモニターで聴けば、このレンジの広がりが透明感や生々しさに貢献しているのが分かった。また、本機の大きな特徴として、オプションでバッテリー駆動が可能であることも挙げておきたい。バッテリーのDC電源は、AC電源のようにハムの原因になるものが全く含まれていない。マイクプリの電源回路はもとより、ACケーブルからのハムの混入も防ぐことができるわけだ。一般にマイクプリは他の機器に比べ、大幅にゲインを増幅するので、最も電源の影響を受けるところと言ってもいいだろう。ADコンバーターを使用しないで単純なマイクプリとしてのみ使用する際は、AD回路に供給される電源をカットさせ、消費電力を40%カットすることができる点もうれしい。本体そのものがコンパクトな上、バッテリー駆動が可能になったため、野外のロケ現場での活用できるし、ステージ上に置いてリモート・マイクプリとして使用しても、演奏家や聴衆が気にならないセッティングが容易になるだろう。ホールや出先のレコーディング・スタジオで、電源事情が悪く苦労した覚えがあるが、そうした悩みからも解消されそうだ。私は、かねてよりリモート・マイクプリの有効性を伝えてきた。マイクとマイクプリとの間のケーブルを短くして、ライン・レベルにしてから長く引き回せば、ノイズを減少できるからだ。本機のようなAD内蔵のマイクプリならばデジタルで回線を引き回せるので、一層ピュアなサウンドを求めるには最適なものと言えるだろう。
GRACE DESIGN
Lunatec V3
オープン・プライス(市場予想価格264,000円前後)

SPECIFICATIONS

●ADコンバーター部
■ダイナミック・レンジ/111dB(44.1〜192kHz、A-weighted)
■周波数特性/20Hz〜82kHz(+0.1dB/−0.4dB@192kHz)
■クロストーク/−117dB以下
●マイクプリ部
■周波数特性/6Hz〜250kHz(±3dB@60dB)
■クロストーク/−109dB
■最大出力レベル/+27dBu(バランス)、+21dBu(アンバランス)
■インピーダンス/1,600Ω(入力)、5kΩ(出力)
●共通項目
■外形寸法/210(W)×43(H)×127(D)mm
■重量/1.1kg(本体)