デュアル・サーボ・ゲイン方式を採用したコンパクトな真空管マイクプリ

PRESONUSTube Pre

PRESONUSといえばAcousti-QやDigimax、Blue Maxなどのマイクプリやコンプなどを作っているアメリカのメーカーです。今回は発売間もない同社の新製品Tube Preを紹介しましょう。このコンパクト・サイズのマイクプリであるTube Preはとにかく軽く、本体重量はたったの2.3kg。こんな軽くて平気?というくらいなのですが……比較の意味もこめてスタジオの定番であるSSLのヘッド・アンプ(最近のSSLはヘッド・アンプにコンデンサーを使用していませんが、今回はコンデンサーを採用しているGシリーズを使用)と、マイクも定番のNEUMANN U87 AIを使ってチェックしていきましょう。

プリアンプ部に真空管を採用し
広いダイナミック・レンジを実現


Tube Preはデュアル・サーボ・ゲイン方式を採用し、プリアンプ部にキャパシティ(コンデンサー)を使用していないので、このクラスの製品にしてはダイナミック・レンジが広く、中音の辺りが多少スッキリしています。コンデンサーを使用していないメリットとしては、本体の電源および真空管による発熱がコンデンサーの電気の蓄積効率に変化を及ぼすことがないので、マイクプリの動作が安定化することが挙げられます。まずはTube Preの操作子を紹介しましょう。フロント・パネルにはファンタム電源スイッチやフェイズ反転スイッチ、−20dB PADスイッチ、80Hzランブル・フィルター・スイッチ(ローカット・フィルターの意)、ゲイン・コントロール・ノブ、そしてドライブ・コントロール・ノブがあります。そしてリア・パネルにはマイク/楽器用の入出力端子(XLR、1/4フォーン)を1系統ずつ備えています。各ノブについて解説すると、ゲイン・コントロール・ノブは3〜48dBの可変幅を持っています。ノッチ式ではないので、レコーディングなどの第一セッションをノッチ式特有のガリ・ノイズの心配も無用です。バック・ライト付きVUメーターによる確認でも一瞬の+3dBを超える過大入力でもあまり歪みは感じられません。次にドライブ・コントロール・ノブですが、これは0〜20dBの範囲で真空管によるサチュレーション(飽和)効果を加えられるというものです。Tube Preで使用されている真空管は12AX7型(ECC83型)ですが、これを交換することで自分好みのサチュレーションの音色を引き出すことができるのです。例えばTELEFUNKENやMULLARDなどに交換すれはハイファイな感じにすることもできるし、TOSHIBAなどに交換すればナチュラル系になるといった具合です。ただ、取り外しは多少の手間が必要で、天板や底板のネジを2個ずつ外し、リア・パネルにあるキャノン横のネジを4つ外さなくてはいけません。真空管は接触が悪くなってしまうことがあるので、このデザインは接触不良による故障を少なくするためのものでしょう。

音に深みを与える
ドライブ・コントロールが魅力


フロント・パネルにあるファンタム電源スイッチをオンにすれば、コンデンサー・マイクも駆動できます。一般的にファンタム電源を使用する場合、ケーブルの種類や長さによってボソボソしたノイズが発生することがあります。しかしTube PreはCANAREのケーブル(20m)を使用したチェックでも全く問題はありませんでした。さらに、フェイズ反転スイッチもあるので、ヘッドフォンが逆相になっているときにも調整することができます。また、エアコン・ノイズ対策に80Hzランブル・フィルター・スイッチを備えています。すごくナチュラルなためカットしている帯域が分からないほどですが、低音ノイズが気になる場合にはONにしましょう。なお、リア・パネルにある楽器用の入力端子(1/4フォーン)はハイ・インピーダンス仕様なので音質を変えることなく音圧を上げることができます。その際に活躍するのがVUメーターですが、かなり反応が早いので、歪みそうなニュアンスが2つのノブの間にあるクリップのLEDと共に手にとるように分かるでしょう。では実際に使用してみた感想です。まずは歪まないくらいゲインを上げて(一瞬なら全く構いませんが、ピークで+3dB以内)、そこからドライブ・コントロールを右に回していくと全体の音量がかなり上がります。そのため再度ゲインを絞って再びドライブ・コントロールを右に回すという作業を繰り返すことが必要です。Tube Preの後にコンプレッサーを使用して、ピーク補正&音圧調整をすれば上記のこともすんなりこなせます(録音レベルが真っ赤になって歪むのは好ましくないですからね)。使用していて特に感じたことなのですが、このドライブ・コントロールがとても良く、ミックス時にも使いたいくらいです。最近ではアナログ・テープを使用しないことが多いので、この効果は特に有効でしょう。音に対する深みなどを与えられるので、単体では少しかかり過ぎかなと思っても(使用する楽器の具合にもよりますが)、パワーを感じさせるこの効果に必ずや虜になってしまうでしょう。今後、ラインでこのドライブ・コントロールだけを使えるようなるなら、5,000円くらい価格が上がってもいいと思いました。総評としては、さすがにSSLの方が値段も高いし音が良いのは当たり前なのですが、パーソナル・レコーディング・システムを築く上で、またコストをふまえた上で考えれば、このTube Preで全く問題ないと言えるでしょう。実際、筆者自身もDIGIDESIGN Digi001で出張レコーディングをすることがあり、Digi001のマイクプリも安定していて好きなのですが、コンプレッサーを使って歌を録ることができません。やはり、一瞬のピークをやわらげてあげるためにもコンプが必要になってくるのです。しかし、このTube Preさえあればコンプレッサーもつなげられるので、もっとボーカリストが歌いやすくなるはずです。なんといっても、Tube Preはとても軽く、本体も小さいので持ち運びに便利ですから。
PRESONUS
Tube Pre
29,800円

SPECIFICATIONS

■周波数特性/10Hz〜50kHz
■入力インピーダンス/1.3kΩ(XLR)、1MΩ(1/4フォーン)、ファンタム48V付き
■入力ノイズ/−94dB
■出力インピーダンス/510Ω
■入力コネクター/XLR(2番ホット)、1/4フォーン
■全高調波歪率/0.05%(0dB)/10%(10dB)
■外形寸法/137.5(W)×43.75(H)×137.5(D)mm
■重量/2.3kg