マイクプリ/コンプ/EQなどを2Uにまとめたモノラル真空管プロセッサー

TL AUDIO5051

TL AUDIOのIvoryシリーズが回路の見直しと新機能の搭載によりIvory2シリーズとなった。今回はその中からモノラル真空管プロセッサー5051をチェックしていこう。真空管コンソールという大技で我々のド肝を抜いた同社だけに大きな期待が持てそうだ。

12AX7A真空管を3本採用し
計6系統の回路に活用


フロント・パネルを見れば分かるように本機は入力部、コンプ、ノイズ・ゲート、EQ、出力部と多機能なプロセッサーだが、ツマミも適度な色分けで機能ごとに分かりやすく配置されており、とても使いやすそうな印象を受ける。丸型のVUメーターは妙なレトロ感を強調することなく、柔らかな印象を与えている。両サイドのスリットは放熱用で、左スリットの下にはHi-Z端子、右スリット下には電源スイッチがある。さて、使用されている真空管は12AX7A(ECC83)で、1本につき2回路を扱えるので、本機の場合はこれが3本、つまり6系統の回路に真空管が使われているということになる。資料によれば、その場所はプリアンプの後とコンプレッサーに1回路ずつ、EQに4回路となっている。では、各部を詳しく見ていこう。入力部には4系統ある入力端子を選択するセレクター、−30dBのマイク・パッド、90Hzローカット・フィルターがある。そして、ゲイン・コントロールで真空管をオーバードライブさせることが可能で、その様子はDRIVEとPEAKのLEDインジケーターで確認できる。コンプはスレッショルド/レシオ/メイクアップ・ゲインが連続可変、アタックとリリースは4段階切り替え、HARD/SOFTを選択するKNEEスイッチ、バイパス・スイッチという構成になっており、同社の5021と同様の回路を採用している。ノイズ・ゲートはスレッショルドのみだが、ゲートが閉じているときはインジケーターが点灯する。同社のEQ-1を踏襲したというEQセクションは4バンド、LFとHFはシェルビング・タイプ、LMとHMはQ幅が0.5のピーキング・タイプだ。それぞれの可変幅は±12dB、中心周波数は各バンドとも4ポイントのプリセットで、LFが60/120/250/500Hz、LMは250/500/1k/2.2kHz、HMは1.5k/2.2k/3.6k/5kHz、HFは2.2k/5k/8k/12kHzとなっている。大きくオーバーラップした数値から見ても、このEQは分かりやすい音色変化で積極的な音作りを狙っているようだ。また、EQをコンプの前に配置することもできるので、音作りの範囲はさらに広がるだろう。なお、出力部にはイン/アウト/ゲイン・リダクションのメーター表示切り替えスイッチ、−∞〜+15dBまでのアウトプット・ゲインがある。リア・パネルにはマイク入力(XLR)、ライン入出力(XLR、フォーン)、コンプのS/CHAINインサート、本機を2台でリンクせさて使用するためのLINK端子がある。ライン入力はアンバランスで、−10/+4dB、バランスで+4/+18dBのレベル切り替えができるので、ほかの機器とのレベル・マッチングは全く問題ないだろう。なお、今回のバージョン・アップで24ビットS/P DIFデジタル出力カード(DO2:19,800円)がオプションで装着可能となり、デジタル機器との直結も可能になった。

小規模スタジオから宅録まで
直感的に幅広い音作りが可能


では、実際に使用した感想を報告しよう。Hi-Z端子にエレキギター(FENDER JAPAN Stratocaster)を直結してみる。パリッとはしているが柔らかいサウンドで、しかも倍音もしっかり出ていて貧弱な感じはないのですぐに使える音だ。コンプやEQで面白いように音が変わるので、結構ハマってしまう。次は小編成バンドのモノラル・ミックスを本機に通してみよう。機能を総動員するとナチュラルな感じから、昔のレコードのようなレンジが狭く歪みっぽいサウンド、そしてディストーション・ハードコア状態まで、スルスルと作り出せる。続いては、バンドのボーカル録音。ミックス時のボーカル・トラックに本機をもう1度通す予定で、マイクはSHURE SM58を使用し、プリアンプのみの素音で録ってみた。声の太さは十分だが、バックが高音圧なので多少埋もれ気味となってしまう。しかし、ミックス時のコンプやEQ処理で問題はすぐに解消。同じバンドのソロ・ギターの録音では、出音の高域が強調されていたので、コンプでピークを抑え、EQで250Hzを少し持ち上げて同時にピックアップの位置を変更してもらうことで即座に納得できるサウンドにできた。加えて自分の声でも実験してみた。かなり遊んで“結構イイ声じゃん”などとも思ったりしたが、小さな声にコンプやEQなどを強くかけるとやはりサ行などで高域にピークが出る。この価格でそこまで望むのは無理とは分かっているが、ディエッサーが欲しいなとつい思ってしまった。最近は本機のようにマイク入力から音作りまで行える機材が増えてきたが、デザインや機能、操作性、コスト・パフォーマンス、そのどれをとっても本機は相当イイ線をいっていると思う。小規模スタジオなら“少し歪んだ声やラジオ・ボイスにしてほしい”といった要望にも即応えられるし、宅録派ならば希望の音を作るのに液晶画面と格闘しなくても感覚的にツマミをいじるだけでいい。よほど変わったことをするのでなければ、本機を導入しても後悔することはないだろう。
TL AUDIO
5051
82,000円

SPECIFICATIONS

■入出力端子/XLRマイク入力、XLRライン入出力、RCAピン入出力、Hi-Z入力、LINK端子、S/CHAINインサート端子
■周波数特性/10Hz〜40kHz
■プリアンプ・ゲイン/+16〜60dB
■最大入力レベル/+26dBu(XLR/RCAピン)、+10dBu(フォーン)
■最大出力レベル/+26dBu(XLR/RCAピン)、+12dBu(フォーン)
■歪率/0.2%@0dBu
■外形寸法/483(W)×88(H)×200(D)mm
■重量/6kg