さまざまなプロダクションに対応する多機能デジタル・ミキサー

YAMAHADM1000

私のデジタル・ミキサー歴は非常に古く、ライブなどで楽曲ごとのシーケンスのレベルやエフェクトの再現性を求めるためにYAMAHAのデジタル・ミキサー第1号機DMP7の所持に始まり、後継機種DMP11や02Rなど、数多くのデジタル・ミキサーに触れてきた。現在自宅では卓上をコンパクト化するために01Vを所持、コンパクトなデジタル・ミキサーには非常に興味がある。昨年、YAMAHAはDM2000の音質と性能はそのままにチャンネル数などをダウンサイジングした、国産デジタル・ミキサーの最高峰と言っても過言ではない02R96を発売し、デジタル・ミキサー界においては、クオリティ、話題共に去年はYAMAHA一色だった感があった。そして今回発表されたDM1000も、やはりDM2000、02R96直系の音質と多機能をコンパクトなサイズに凝縮した多目的コンソールである。

柔軟性&拡張性ある
インプット/アウトプット・パッチ


大きさは200(H)×565(D)×430(W)mmと同社03Dと01Vの間といった感じの非常にコンパクトなサイズでラック・マウントも可能な仕様となっている。DM1000というモデル名ではあるが外観は02R96をダウンサイジングしたように思える。内容も02R96とチャンネル数以外はほぼ同じスペックだ。DM2000、02R96同様心臓部にはYAMAHAオリジナル・カスタムLSI“DSP7”を搭載し、このサイズでありながら、24ビットAD/DA、96kHzで最大48チャンネルのミックスが可能で、96kHz動作時でもチャンネル数の制限なくミックスをすることができる。アナログ入力(マイク/ライン)数は16チャンネルで、それぞれ別に+48Vファンタム電源の供給が可能。ADATカードやサード・パーティ・カードを装着するためのMini-YGDAIスロットが2基、デジタル・ステレオ入出力が2系統、用途によってルーティングを自由にアサインできるオムニ・イン端子が4系統、オムニ・アウトが12系統も装備されている。ここで気が付くのが、本機にはステレオ・アウトやコントロール・ルーム専用のアウトが装備されていないことだ。モニターなどを含むすべてのアナログ・アウトプットはOUTPUT PATCHのページで任意のオムニ・アウトにアサインするのだ。一見不便そうに思えるかもしれないが、これは非常に便利な機能だ。例えばバス回線を使い、マスター・レコーダー(ステレオ・アウト)の回線を使わないリズム・レコーディングなどでは、どちらかというと各ミュージシャン用のモニターの単独回線数の確保が必要であったりする。そんなときは不要なオムニ・アウトのアサインをAUXセンドに設定してやれば良いわけだ。絶えず場所が変わったりするライブ・レコーディングにも威力を発揮するだろう。また、それらのルーティングの設定を32種類記憶できるので複数現場の掛け持ちにも便利だ。02R96に装備されてない機能で非常に便利なポートが4系統のオムニ・イン端子だ。オムニ・アウト同様、すべてのチャンネルのインサート・インプットや空いているチャンネルのインプットにアサインできる。これによりマスター・チャンネルを含む任意のチャンネルにアナログのアウトボードなどを使用することが可能なのだ。非常に自由度の高い仕様になっていると言える。また、すべてのアナログ入出力端子はXLRバランス型のみとなっている。DM2000、02R96では原音に忠実という意義で“トランスペアレント”という言い方をされた、新開発の高品位ヘッドアンプの音色が非常に評価されたが、DM1000のヘッドアンプもその印象は一緒だった。恐らく同じ内容の高品位ヘッドアンプの回路を使っているのだろう。オムニ・イン/アウトを含むすべてのアナログ入出力に24ビットのAD/DAコンバーターを採用することでダイナミック・レンジは110dB。SACDやDVDなどの忠実な再現性を求められる状況にも対応する仕様だ。タッチ・センス対応のムービング・フェーダーはチャンネル・フェーダー16本プラス、マスター・フェーダー1本。ストロークは100mmでフェーダーの重さや動きも含め02R96と同じ仕様だ。レイヤーは6つあって、チャンネル1〜16、17〜32、33〜48、DIGIDESIGN Pro ToolsやSTEINBERG NuendoなどのDAWをコントロールするためのREMOTE 1、2とAUXやバスなどのマスター・レベルを設定するMASTERに分かれる。選択した各レイヤーのボタンが点灯するので今どのチャンネルのエディットをしているのか見失うことはないだろう。

直感的かつスムーズに操作できる
チャンネル・モジュール


チャンネル・モジュールの各機能を見ていってみよう。EQは既におなじみの4バンド・デジタルEQで、LOW、LOW MID、HIGH MID、HIGHと分かれてはいるが、4つのバンドはそれぞれ21.2Hz〜20kHzまでカバーし、±18dBブースト・カットする。HIGH MIDとLOW MIDはパラメトリックになっていて、HIGHとLOWはシェルビング、LPF/HPF、パラメトリックの切り替えが可能になっている。本体右上のイコライザー・セクションのQカーブのエンコーダーのツマミを右いっぱいに回すとシェルビング、左いっぱいに回せばバンド・パスフィルターになる。EQのポイントと、かかり具合が微妙に違うTYPE-1、TYPE-2の切り替えもなかなか面白い。02R(Ver.1)時代から同じ操作方法だが非常に分かりやすいデザインで直感的に作業ができる。また、このセクションのディスプレイ・ボタンを押すとページが切り替わりチャンネルの入力とバスやAUXの出力のアッテネーター調整(−96〜+12dB)が可能となっている。ページの切り替えはパネル下のファンクション・キーでも可能だ。またエディットしたEQのデータはライブラリーとして200までストアすることができる。本体左上にあるDISPLAY ACCESSのDYNAMICSボタンを押すと、独立したゲートとコンプレッサーのダイナミクス系のコントロールができるようになっている。ダイナミクスのページは4つあり、まず最初はゲート。THRESHOLD、DECAY、RANGE、HOLD TIMEのパラメーターの他にKEY INのソースを選択するダイアログがある。通常のチャンネルのソースの他にAUX(1〜8)も選択することが可能になっている。設定したパラメーターは、2ページ目で128までライブラリーとしてストアすることができる。3ページ目はコンプレッサーのエディット・ページ。THRESHOLD、RATIO、RELEASE、OUT GAIN、ATTACK、KNEEのほかにPOSITIONというダイアログがあり、本体右のシャトル・ダイアルを回してコンプレッサーをプリEQかプリフェーダー、ポストフェーダーのどこに配置させるかを選択するのだ。ゲートのときと同様に、128までライブラリーとしてストアすることができる。

作業効率をアップさせる
使い勝手の良いユーティリティー


チャンネル・モジュール的にはこのほかにDISPLAY ACCESSのセクションにφ/INSERT/DELAYというボタンがあり、1ページ目のPHASEではチャンネルの信号の位相を切り替える(フェイズ・スイッチ)。2ページ目のINSERTではコンプレッサーやオムニ・イン/アウト端子や内蔵エフェクトのインサートが任意に設定できる。コンプレッサー同様にインサートもプリEQかプリフェーダー、ポストフェーダーのどこに配置させるかを選択することが可能となっている。2〜4ページまではすべてのチャンネルのディレイだ。チャンネル・ディレイとは言え、サンプル単位での設定も可能なディレイ・タイムはなんと904.2msecもあるのだ。しかもディレイ・タイムを設定するディレイ・スケールは通常のmsec表示のほかにメーター、フィート、フレーム、テンポ・タイムでの表示ができるのも非常に便利である。フィードバックとミックス・バランスは変えられないがバスとAUXとステレオ(マスター・アウト)の出力系にもディレイが装備されている。DISPLAY ACCESSでVIEWを選択すると選択したチャンネル・モジュールの情報をディスプレイで確認することができ、チャンネルほぼすべてのエディットをすることが可能で、直感的にエディットをするならむしろこの画面で作業をするのも良いだろう。また、VIEWのモードでは、チャンネルのデータをライブラリーとして128までストアすることができる。内蔵エフェクトは4系統装備されており、DM2000や02R96同様に高品位な空間系リバーブやディレイのほかに、リング・モジュレーター系やディストーション、インサートものとしてもアンプ・シミュレーターなどを装備している。また今回はチェックできなかったが、サラウンド用のエフェクターも実装で発売になる。DM1000は非常にコンパクトな作りではあるが、本格的なサラウンドの編集も可能になっているのだ。よく見ると、ディスプレイ右横に小さなジョイスティックあるのが分かるだろう。3.1、5.1サラウンドのほかにバックサラウンドを加えた6.1サラウンドの制作もできるのだ。数え出したらきりが無いくらい、便利な機能を持つDM1000だが、その中でもユーザーが任意にアクセスしたいモードに即座にジャンプできるUSER DEFINEDはかなり使い勝手が良い。本体右下にある12個のスイッチなのだが、例えばオート・ミックスの書き込みをする際のRECと再生のPLAYをアサインしておけば、DISPLAY ACCESSにいちいちアクセスしなくてすむので手間がかなり省ける。そのほかにも、シーン・メモリーやEQなどの設定をリセットしたいときはイニシャルになっているメモリーを呼び出す設定にしておけばよい。ENCODER MODEではチャンネル・フェーダー上部にあるエンコーダー・ツマミがPANとAUXセンド・レベルなどをボタン1つで使い分けることが可能だ。この辺の便利なユーティリティを使いこなせるようになれば作業効率は非常によくなるだろう。本当にこのサイズでよくやるな〜と思うほどの多機能ぶりだが、オート・ミックスについての機能も充実している。02R96と全く変わらない操作方法と性能になっているのだ。基本的にタイムコードに対してスレーブでしか対応しないが、MTCもしくは、SMPTEタイムコードを受信して書き込み、再生を行う。書き込み可能なモードはフェーダー、チャンネルのオン・オフ、PAN、サラウンドPAN、AUX、AUXのオン・オフ、EQの各パラメーターなどである。

同梱のエディター・ソフトで
PC上でのエディットが可能


DM2000や02R96にも付属されていたが、DM1000にもエディター・ソフトのStudio Manager(Windows/Machintoshハイブリッド版)が同梱されている。このソフトはDM1000のTO HOST端子を介し外部PC上からのエディット、データ管理を行うためのアプリケーション・ソフトだ。オートメーション以外のすべてと言ってよいほどのチャンネル・エディットが、PCレベルでかなり細かく行える。例えばチャンネル・モジュールの本体では即座に確認することができないAUXのそれぞれのセンド・レベルやPANの定位などのそれぞれの設定状況がPC画面上でひと目で確認でき、それらのエディットが可能となっている。任意のチャンネルのゲート、コンプ、EQはもちろんのこと、ルーティングやチャンネル・ディレイなどすべてのパラメーターの確認やエディットがDAW上のプラグイン・エフェクトのエディットのように行える。ソフトウエア上でデータの書き出し、読み出しを行うのでスタジオ間のLANやインターネットでのデータ共有が可能となるわけだ。とにかくコンパクト! 廉価ではないがこのサイズでこの性能と多機能は非常に良い。02R96を導入したいが場所が狭くて……とか考えてる人はDM1000にアナログ・カードを入れて使うというのもアリですね。

▲リア・パネルには接続端子類に加え、Mini-YGDAIスロットを2基搭載

YAMAHA
DM1000
本体:600,000円
メーター・ブリッジMB1000:105,000円
サイド・ウッドパネルSP1000:35,000円

SPECIFICATIONS

■内部処理/32ビット/58ビット(アキュムレーター)
■サンプリング周波数(内部):44.1kHz/48kHz/88.2kHz/96kHz
■フェーダー/タッチ・センス対応100mmモーター・フェーダー×17
■チャンネル構成/インプット・チャンネル×48、バス・アウト×8、AUXセンド×8、ステレオ・アウト
■I/O/バランス型XLRマイク/ライン入力×16、バランス型XLRライン入力×4、バランス型XLR出力×12、2トラック・デジタル入力×2、2トラック・デジタル出力×2、Mini-YGDAIスロット×2
■内蔵エフェクト/4系統
■周波数特性/20Hz〜20kHz@+4dB(48kHz時)、20Hz〜40kHz@+4dB(96kHz時)
■ダイナミック・レンジ/110dB(DA)、106dB(AD+DA)
■外形寸法/200(H)×565(D)×430(W)mm(本体のみ)
■重量/20kg(本体のみ)