扱いやすく癖のないナチュラルな音質のロシア製コンデンサー・マイク

LOMOMC103

今回のレビューはなんと、旧ソ連で第二次世界大戦後唯一のマイク・メーカーであったLOMOが復活し、新たな設計により開発したMC103というコンデンサー・マイクです。

小口径ダイアフラムを使用し
内部アンプは完全ディスクリート


自分はこのメーカーの名前をマイク・メーカーとしては初めて耳にするのですが、日本で最も有名なロシア製コンパクト・カメラのメーカー、LOMOのグループ会社であるとのことです。ここのカメラ自体は一時期、よく雑誌などで取り上げられていたので、ご存じの方も多いと思います。詳しくは分かりませんが、LOMOのLはどうやらレニングラードを意味し、Oはオプティカル(光学)を意味するようです。ちなみに、カメラで有名なLOMO自体は、レンズ関係を中心にいろんなものを作っているようで、おそらくロシアでは大きな企業なのでしょう。今回のレビューで取り上げるのはMC103ですが、ほかには19a19という1960年代当時の設計で、1970年代後半まで作られていた真空管式マイクのリバイバル版も作っています。しかも、これはレプリカではなく当時の設計開発主任自らが手掛ける同スペックでのリバイバルで、オールドとほぼ変わらない仕上がりであるとのこと。機会があればそちらもぜひ試してみたいマイクです。さてMC103ですが、定価は62,000円という比較的手の届きやすいものであるにもかかわらず、スペック的には単一指向性で、ファンタム電源仕様(48V)のディスクリート増幅コンデンサー・タイプ、内部アンプ部は完全ディスクリート、それにトランス出力というなかなかのものです。ダイアフラムに小口径のフラット・タイプを使用しているのも特徴となっています。実際手にすると、質感、重量、作りなどはまったく申し分なく、むしろ何となくビンテージのような風格があるくらいで、量産されている冷たい感じがまるでありません。資料によると1つ1つを手作りで仕上げているということですが、実物を見ると、なるほどハンドメイドだなと感心します。

オンマイクでも近接効果が少なく
繊細な高域が好印象


それでは実際に使用してみた印象を報告しましょう。最初に試して感じたのは、とてもおとなしく癖のない音質だということです。分かりやすいように他のメーカーと比較して表現すれば、NEUMANNやAKG、SCHOEPSというよりは、SONYやSANKENのマイクに近いといえるのではないでしょうか。例えば、アコースティック・ギターで試した場合、マイキングにあまり左右されることなく原音を忠実に拾ってくれます。これは何を意味するかと言うと、コンデンサー・マイクにしては珍しく近接効果が少なく、また指向性が極端ではないことを表しているのだと思います。つまり、非常に使いやすく音に癖を持たせない、堅実なマイクであるということです。ということは、自宅録音をする人やあまり録音に関して経験値の多くない人、さらには録音という行為自体にはそれほど興味は無いけど、デモを作るのであれば、やはりなるべくいい音にしたいと思っている人にはうってつけのマイクだと思います。何しろ、この価格でこんなに簡単に、なおかつこんなにナチュラルに音を拾えるマイクはそうは存在しません。例えば、この価格はAKG C451クラスだと思いますが、C451よりもはるかに使いやすくナチュラルです。C451は近接効果によって生じるブ−ミーな難しさがありますが、このMC103は癖がなく、その分マイキングも楽です。それが実際のレコーディングに合うか合わないかは別にしても、とても優秀なマイクだと感じました。(もちろん、C451にはC451の良さがあり、明るさがありますが)。セッション中、実際にコーラスのダビングに使用してみましたが、男性の声よりはファルセットや女性コーラスに向いている感じがしました。これは中低域の粘りに若干の物足りなさを感じたためです。しかし高域の繊細さは素晴らしいと感じました。また、こういったボ−カル・ダビングのときに感じたのも、やはりマイキングのしやすさです。かなりのオンマイクでもしっかりとしていて、音像も離れているときよりも色気を感じました。これも指向性のパターンによるものだと思います。これこそが扱いやすさを手伝っている大きな要因なのでしょう。そのほかスネアの収録にも試してみたのですが、結果からお伝えすると、このMC103は打楽器にも十分使える優等生でした。ただし、最初は想像していた音と反してボタッとした抜けの悪いサウンドが耳についてしまったので、いろいろと試して分かったことは、MC103はイコライジングをすると見事に生まれ変わるということです。つまり、イコライジングの仕方に応じて、どんな風にでも変化してくれるのです。なるほど、アコースティックを意識したナチュラル・サウンドが売りの正直なコンデンサー・マイクなんだと感心しました。要するに、本当に味付けをしない優等生なマイクなのですね。今回は試せなかったのですが、おそらくこのマイクは管楽器なども得意とするのではないかと思います。とにかくオンマイクで、思った通りにレコーディングできることが大きな利点のマイクだと思います。
LOMO
MC103
62,000円

SPECIFICATIONS

■タイプ/フルディスクリート増幅コンデンサー式
■指向性/単一指向
■周波数特性/20Hz〜20kHz
■入力感度/10mv/Pa
■ファンタム電源/48V
■サイズ/40(φ)×180(H)mm
■重量/170g