ステレオ録音に便利な機能を搭載したクリアな音質の2chマイクプリ

TRUE SYSTEMSP2 Analog

今回試聴するのはアメリカからやってきたTRUE SYSTEMSの2chマイク・プリアンプ、P2 Analog。各部品にはミリタリー・スペック(軍規格で高性能)のものが使用されているとのことで、妥協の無い設計理念がうかがえる。セールス・コピーには“クリスタル・クリアで、色付けのない素直な音質”とあるが、果たして実際の音色はどうなのか。また、M/S(ミッド/サイド)デコーディング機能も搭載しているとのこと。気になる点は多々あるが、まずは概要から順に見ていこう。

極めて低ノイズでクリアな音質で
あらゆるマイクやソースに対応


本機のフロント・パネルはご覧のようにシンプル。マイクプリのコントロール部分はファンタム電源、位相反転、ハイパス・フィルター(40Hz/80Hz)、ゲイン切り替え(パッドではなく2段階ゲインで、リボン・マイクなどの小出力マイクにも対応できる)の各スイッチと、メインのゲインつまみ。その右側にM/Sデコーディング機能のセクションがある。また、DI端子(アンバランスのみ)はフロント側にあるので、ラックに組み込んでもギターなどの楽器をフロントから入力できる。リア・パネルには、XLR端子でのインプットと、XLR端子とTRS端子でのアウトプット、電源コネクターに加え、ハム・ノイズやグラウンド・ループに対応できるようにグラウンド・リンク・ターミナルもあり、シビアなセッティングの求められるプロ・スタジオにとってはありがたい。今回は試聴期間を長く取れたので、多くのマイクでテストすることができた。ダイナミック・マイクはSHURE SM57、SM58、SENNHEISER MD421、コンデンサー・マイクはFET系のNEUMANN U87、KM84、チューブ系ではNEUMANN U47、M49、SONY C-800Gを用意した。まずはU87で女性ボーカルを録ってみることにした。セッティングを済ませ、電源を入れて各つまみやスイッチをいじってみた。マイクプリ部分のスイッチ類を押すと、“カチッ”という音がする。これはリレー・スイッチを使用しているため。通常リレーはこのようにシグナル・クリック音がするが、本機ではシグナル・パスを極限まで短くしているので、出力信号への影響はほとんど無い。このリレー接点には金メッキ処理がされているとのことだ。録音待機時にゲインを上げてもノイズは極めて少なく、聴感上ではゲインを最大にするまでノイズを感じられなかった。今まで当たり前だった待機ノイズがウソのように少なくなり、初めてU87本来のマイク・ノイズを聴いたような感触で、本当に驚いた!取りあえず1コーラスだけ歌ってもらったところで、“クリスタル・クリア、色付けの無い素直な音質”というセールス・コピーを思い出す。実にクリアだ! ただし“ハイファイ”という意味ではなく、出音は少しリミッターがかかったような感触となり、聴きやすい印象になる。17kHzより上の部分がうまい具合に抑えられており、400Hz辺りの芯の部分が出ている。プレイバック時に外部のEQで1.2kHzと20kHzをほんの少し上げ、輪郭と明るさを加えてみたが、これだけでミックスのボーカルEQ処理が終わってしまうほどの良いボーカルが録れた。ノイズが極端に少ないので、後処理もほとんど要らないほどだ。何よりも歌っていた本人が“とても気持ちよく歌える”と言っているのだから、この言葉以上の解説は要らないだろう。チューブ・マイクも前述の3種類を試してみたが、ポップ・ガードを装着したにもかかわらず、使用していないかのような音像と息遣いまでも表現することができた。続いてアコギをKM84で録音してみたが、ガット・ギターでは指に触れる音が細かく表現できる。前述のリミッター感がとても気持ち良く、ゲインを通常よりも少し下げて、単体リミッター無しで録音してもとても良かった。スチール弦では指でのアルペジオは良いが、コード・ストロークだと生々し過ぎて別の工夫が必要か?とも思った。続いてSM57とMD421を使ってのエレキギターのアンプ録りと、SM58での男性ボーカルも試したが、どれもきれいに録音することができ、マイクやソースを選ばず、オール・ラウンドで使えるモデルだと感じた。全般的にクリアなので、少しローファイな感じで録音するには、次段にリミッターなどのアナログ機器を接続したりすると良いかもしれない。

M/Sデコーダーに加え
位相確認用メーターも搭載


本機のM/S機能についても1日ががりでいろいろと試す。昔はモノラル/ステレオ放送が混在していたため、その互換を取るために考えられた素晴らしい録音方式なのだが、セッティング(位相の確認)に時間がかかるし、若手のエンジニアにその技術が十分に伝承されてないこともあってか、最近ではプロの現場でもあまり行われなくなってしまった。しかし、クラシックやストリングス/アンサンブル系などの録音には最適な録音方法なのだ。今回は2本のギターを、アンビエンスを得るためにスタジオの外の廊下でM/S録音してみた。本機ではM/Sデコーダーに加えて、LEDで2つのチャンネルの位相差を表示する機能も搭載されていて(これはX-Y録音でも有効)、非常に便利だった。ただし、このディスプレイはあくまで目安として、自分の耳で判断して音作りを行ってほしい。操作中にひとつ気になったのは、アンプ部分の各チャンネルのスイッチ(4個ずつ)が左右対称になっていること。例えば、両チャンネルのゲイン切り替えを押すつもりが、ch2はファンタム電源を入れてしまう……といったミスを起こしがちなので、注意が必要だ。シンプルでクリアな音質の本機を使う際には、シビアなマイク・セッティングが求められるだろう。きちんとしたセッティングができれば、自分だけの音が作れるようになるし、定番になる機材にシンプルなものが多い理由はそこにもあるのだと思う。その上、M/S録音も容易に体験できるので、もし本機に触れる機会があるのなら、今までやってみなかったマイク・セッティングにも挑戦してみていただきたい。
TRUE SYSTEMS
P2 Analog
298,000円

SPECIFICATIONS

■ゲイン/3.5〜52dB(マイク:ローゲイン・モード時)、15.5〜64dB(マイク:ハイゲイン・モード時)、−16〜32dB(DI:ローゲイン・モード時)、−4〜44dB(DI:ハイゲイン・モード時)
■最大入力レベル/+15dBu
■最大出力レベル/+31dBu(ハイゲイン・モード時)、+27dBu(ローゲイン・モード時)
■入力インピーダンス/5.5kΩ(マイク)、2.5MΩ(DI:インピーダンス変更可能)
■SN比/132dB(20Hz〜30kHz、Rs=0Ω)
■スルー・レート/40V/us
■クロストーク/−132dB
■全高調波歪率/0.0008%(20Hz〜30kHz、+26dBu、100kΩ)
■外形寸法/445(W)×45(H)350(D)mm
■重量/3.3kg