トランス出力によるバランスのとれた出音とミキシング機能が魅力の1chプリアンプ

SPECK ELECTRONICSMicPre 5.0

今回はアメリカ西海岸のSPECK ELECTRONICS社から届いたマイク・プリアンプMicPre 5.0のご紹介。既に同社のEQ、Model ASCを試聴した方も居るだろうが、本機はそのASCと組み合わせてチャンネル・ストリップとして使用できる。近年、コンピューターのインターフェースに直結できるデジタル・プリアンプが数多く発売される中、久々に注目すべきアナログ・プリアンプが登場して、何だかうれしくなる。早く音を聴いてみたいが、順番に説明していこう。

大型コンソール並みの多機能を誇る
コントロール・セクション


ボディはハーフ・ラック・サイズで省スペース。フェイスはSSLかFOCUSRITEを思わせるデザインで、とてもスッキリと見える。よくある軽量なハーフ・ラック機と違い、ずっしりとアナログっぽい重みが何ともありがたみを感じさせる。スペックを見ると、かなりいろいろな機能を持っているようなので、どんどん説明していこう。インプットは主にマイク用のXLR入力と、インストゥルメンタルが直接挿せるDI回路付フォーン入力(マイク/DIは前面スイッチで切り替え)。ともにバランス入力となっている。ヘッド・アンプ部分は1ch仕様なのでアウトプットはXLRのバランス・モノ・アウトになる(ほかにステレオ・ミックス機能があるが後半で説明)。続いてコントロール類だが、+48Vファンタム・スイッチ、ヘッドは5dBステップでトータル70dBのゲイン・レンジを持っているのでどんなマイクでも十分に対応できる。トリムで微調整も可能だ。大入力の場合も−20dBのパッド・スイッチで対応できるし、フェイズ・スイッチも備えている。ここまでは、大型卓のヘッド・コントロール部分となんら変わりなく見事に充実している。さらにハイパス・フィルターが付いているので、マイクが拾う余計な低音をカットしたり、ライン入力のベースやギター、シンセの場合も気に入らない低音をあらかじめカットして録音しておくことができるので、とても便利なツマミだ。アウトプット・レベルの確認には、VUメーターを採用している。我々エンジニアにはありがたいが、10セグメントのLEDで見なければいけないので僕もちょっと戸惑う(さすがに針式はムリだったか)。まして、日ごろピーク・メーターに慣れている人は、卓(入力)側のメーターで見た方が良いだろう。さて、ここまでざっとコントロール系を説明したところで、次は音を聴いてみることにしよう。

複数台のカスケードに対応し
本機だけでもミックスが可能に


プリアンプの音を素直に試聴するため、あえて次段のUREI 1176はつなげたまま、いつもと同じ環境でテストを行う。まず何も音を出さない状態でノイズを確認したが、非常に低ノイズで驚いた。この上にマイクや他セクションのノイズが重なってくるのだが、初段でローノイズに越したことはない。聴感上は、まずノイズに悩まされる心配は無いだろう。早速マイク入力をしてみたが、芯があり、輪郭がぼやけることもない。ハイパス・フィルターもシンプルで使いやすく、それ自体で音がやせることもない。ラインにおいても同様で、ベースやギターの弦の響きもよく伸びており、存在感もある。まだここまでの間に解説していないボタンを操作すると、何やらほかの同価格のプリアンプとの差が良い方に感じられたのだが、果たしてその秘密は何だろう? 以下に、その要因と思われるセクションを挙げてみた。
①パネル中央左のアウトプット・ボタン
②右側のMIXと書いてあるセクション
③裏パネルのOSPボタンこれらの意味が最初は僕にもよく分からなかった。それでも普段は取扱説明書などには目もくれず、各ツマミとボタンに格闘する僕だが、このページでは読者のためにちゃんとスペックをチェックしなければならない。でも説明書は英語じゃん!(涙)こんなとき、僕はまずシグナル・ダイアグラム(音の入口から出口までの信号経路を表した地図のようなもの)を見るのだが、これなら英文の説明書を読むより簡単だ。まず僕が一番注目したのはアウトプットにトランスが使われていることだ。このトランスの種類でキャラクターの違いが突出するので出音には重要な部分である。①のボタンはそのトランスをキャンセルしアクティブ出力に切り替えるスイッチだ。トランス出力では少しコンプがかかったようになり、低域から高域までバランス良く出力される。アクティブ状態では奥行きとメリハリが良く感じられる。②のミックス・セクションは、本機の最大の特徴とも言える(ただし単体ではあまり意味がない)。これは、専用のリンク・コネクターで複数の本機の音を1台のミックス・ステレオ・アウトから出力できるという優れもの。例えば本機を2台つなげて、ステレオ・サウンドを本機のL/Rアウトだけでそのままレコーダーや卓に入力することができる。さらにEQなどをインサートすることも可能。パンやボリュームも設定できるので、自分の手元ですべてがコントロール可能となる。つまりミキサーが不要になるのだ。ライブや野外の録音などでもミキサーを持って出る必要がなくなる。残念ながら、今回は単体での試聴だったので十分チェックできなかったが、これはかなり使えそうな機能だ。③のOSPボタンは、プリアンプそのままの音を出力できるボタン。AVALON DESIGNの製品などに見られる機能で、必要の無いセクションを一瞬のうちにキャンセルできる。単純に本機のプリアンプ+トランス音だけを使いたい場合は常にONにしておいた方が良いだろう。デジタル分野がある限り、この先どんな時代でも必ずアナログという言葉は見え隠れ存在し人々に伝承され続けるだろう。せめて音楽にだけはその温かい表情をいつでも見せてほしいと願う。今後もこのような良きアナログ機が作られ、我々に興味を持たせ続けてほしいものである。本機をいじりながらそんなことを感じた。
SPECK ELECTRONICS
MicPre 5.0
140,000円

SPECIFICATIONS

■入力インピーダンス/4.6kΩ
■高調波歪率/0.002%
■最大入力レベル/+18dBu(パッド無し)、+30dBu(20dBパッド挿入時)
■最大出力レベル/+28dBu(アクティブ・アウトプット時)、+24dB(トランス・アウトプット時)
■周波数特性/10〜200kHz(+0/−3dB)
■外形寸法/216(W)×203(D)×44(H)mm
■重量/2.27kg