現代のパーツでNEVE 1073のプリアンプ部を再現した高級1chマイクプリ

GREAT RIVERMP-1NV

NEVE社の1073プリアンプ/EQは今さら説明の必要が無いほど、世界中のエンジニアたちを魅了するビンテージの名機ですが、今回紹介するMP-1NVはその1073のプリアンプ部を現代に再現した機材です。ご存じの通りNEVEはイギリス製なのに対し、このMP-1NVはメイド・インUSAですから、そのサウンドの違いは非常に興味深いところです。またNEVE 1272(1073のプリアンプ部だけのモジュール)を使ったプリアンプはいろいろなメーカーから各種リリースされていますが、今回のMP-1NVは昔のモジュールを使ったモデルではなく、現在のパーツのみで設計され、しかも完全ハンドメイドで組み上げられているそうです。ではこのMP-1NVの機能、キャラクター、実際の使い勝手などをチェックしていきましょう。

必要十分な入出力端子
入力インピーダンス切り替えも可


大きさはいわゆるハーフラック・サイズで、奥行きは225mmと少しだけ長め。見かけ以上にずっしりと重い(2.8kg)です。恐らくシャーシや中の基板のパーツではなく、電源やオーディオ回路のトランスなどに大型タイプのものを採用しているからでしょう。フロント・パネルは濃いブルー(ネイビー・ブルーかな)で、黒い大小のツマミとグレーのスイッチが機能的にデザインされています。見た目では1073などのビンテージ機材の雰囲気はなく、どちらかと言うと優等生&まじめな面構えです。入出力端子はリア・パネルにまとめられており、XLR(+4dBバランス)入出力が1系統とフォーン(−10dBvアンバランス)出力が1つ。またTRSフォーンのインサーションも1系統用意されています。一方、フロント・パネルにもハイインピーダンスの楽器入力を1つ用意。入力ゲインは5dBステップの大型ノブ(最大ゲインは60dB)と約−22dB〜+10dB可変(ノンステップ)の小型ノブでコントロールします。そのほかPHANTOM(+48Vファンタム電源)とPOLARITY(フェイズ)スイッチ以外に、マイク・プリアンプには珍しくIMPEDANCE(1,200Ω/300Ωのインピーダンス選択)、LOADING(出力トランスへの付加の有無)の2つのスイッチも付いています。仕様を見て分かる通り、モノラル設計で入出力メーターを搭載。至ってシンプルな構成となっています。

野太さ&存在感のある
サウンド・キャラクター


それでは、実際にマイクを本機につないで音をチェックしてみましょう。まずはボーカルのチェック用に、ダイナミック・マイクSHURE SM57&SM58と、高出力コンデンサー・マイクの真空管ビンテージ・マイクTELEFUNKEN U47 Tubeを用意し、本家1073とプリアンプ部の比較を行いました。最初に機材自体のS/Nの違いですが、想像通りMP-1NVの勝ちですね。最近のハイサンプリング/ハイビットのDAWの環境でも、かなりの実力を発揮してくれそうな極低ノイズでした。さて実際の音ですが、内部に1073のプリアンプの基板が入っているかのような印象を受けるほど、1073に非常に近いサウンド・キャラクターです(もちろん1073自体に個体差はありますが)。MP-1NVの方が少しだけ低域が締まっている印象はありますが、恐らくブラインド・テストでの判断は難しいのではないでしょうか。ちなみに我が家には1073のモジュールが数本あるのですが、その中でも一番気に入っているモジュールと本機のサウンドを聴き比べたところ、判断に迷うほど似ていて大変驚きました。ちなみに、今回のチェック時に比較対象の1073が接触不良(よくあることですが)で音が出なかったり、低域がゴッソリ無い“シャリシャリ”音になってしまうトラブルがありました。このように1073はメンテナンスも含めて十分に扱いに気を配らなければならない製品だということを考えると、厄介なメンテナンス・トラブルから解放してくれるMP-1NVの存在価値は非常に高いと言えるでしょう。“新品の1073ってこんな音だったのかな?”と想像したりしてしまいます。さて、お次は最近DAW環境のスタジオでよく使われているAMEK 9098DMAのプリアンプ部とMP-1NVを、ボーカルとアコギの両方で比較してみました。当然ながらキャラクターの違いは結構あり、特に中域/低域のキャラクター&情報量に大きく差が出ました。MP-1NVの方が“粘った野太さ”“楽器・歌の存在感”がより強く感じられましたよ。もっとも、チャンネル単価で2倍以上価格の違う製品なので、一概にどちらが優れているとも言えないのですが。最後に、本機のそのほかの特徴をざっと挙げてみましょう。まずリア・パネルに付いているアンバランス出力ですが、アンバランス機器の接続やレイテンシー回避のためのモニター用回線に使うなど、いろいろな使い道が考えられます。もちろんインサートの入出力も持っているので、外部EQやコンプの併用も可能です。最近のDAW環境での使い勝手も考慮に入れた設計コンセプトがうかがい知れますね。なお、今回はインピーダンスの違うマイクでのチェックはできませんでしたが、ミスマッチ・セッティングの状態でもヌケは少し良くなり、ギターのカッティングなどで使えそうです。また、LOADINGスイッチをオンにすると、パンチのあるトランス・サウンドから、繊細でより空気感があるキャラクターに変化するのも魅力です。もっとも、ガラリと質感が変わるわけではなく、ひそかに、そして微細に変化します。この辺りは設計者の“遊び心”でしょう。今回チェックしたMP-1NVは、コンパクト&シンプルながら、予想以上の実力の高さに驚かされました。設計/製作スタッフの熱意、意気込み、プライドが伝わってきます。ボーカルやアコースティック楽器の録音には特にお薦めです。現在のシステムにご不満なあなた! これは要チェックですよ!
GREAT RIVER
MP-1NV
300,000円

SPECIFICATIONS

■入出力端子/マイク・イン(XLR)、Hi-Z(フォーン)、ライン・アウト(XLR)、パッチ(TRSフォーン)、−10dBvアウト(フォーン)
■入力インピーダンス/300Ω/1,200Ω(スイッチ切り替え)
■外形寸法/218(W)×225(D)×44(H)mm
■重量/2.8kg