NS-10M Studioの後継機を目指した新世代のスタジオ・リファレンス・モニター

YAMAHAMSP10 Studio

YAHAMA NS-10M Studio(以下、10M)が製造中止になった現在、新たな定番と成りえるモニター・スピーカーを待ち望んでいるのは、皆さん同じだと思います。私も、各社から新製品が発売されるたびにほとんどの機種を試聴してきました。その結果いろいろなスピーカーを買うはめになり、現在10M以外のスピーカーも使用していますが、いまだに10Mを手放せないのも事実です。そんな中、同社から10Mの後継機として開発されたMSP10 Studioが発売されました。パワード・モニター仕様で、サイズも一回り大きくなっています。さて、どんな製品なのか、早速チェックしてみましょう。

バイアンプ構成のアンプ内蔵
豊富なトーン調整も搭載


本機は2ウェイ・バスレフ型パワード・スピーカー。10Mの後継機として既に発売されていたMSP10を、細部にわたり徹底的に見直し、新時代のスタジオ・リファレンス・モニターを目指したのがこのMSP10 Studio(現在、MSP10は発売されていません)です。まずはパワー・アンプ部から見ていきましょう。120W+60Wのバイアンプ構成を採用し、電源スイッチも含め、コントロール類はすべてリアに装備されています。マスター・ボリュームにあたるSENSIVITY(入力感度)ツマミのほか、音色をコントロールするスイッチも豊富に用意。TRIMスイッチのLOWでは、低域を0/−1.5/−3dBの3段階で減らすことができ、同じくHIGHでは高域を+1.5/0/−1.5dBと増減できます。また、LOW CUTスイッチも別にあり、ユーザーの環境に合わせて低域および高域の出方を自由にコントロールできます。

ワイド・レンジかつフラットで
優れた位相や定位感を表現


それでは実際に音を聴いてみましょう。今回は10M、MSP10と聴き比べチェックしてみました。まず結論から言うと、本機は素晴らしいスピーカーです。音はワイド・レンジかつフラットで、位相特性や定位感もかなりのもの。10Mを現代的にワイド・レンジにして、分離感を良くした感じです。中でも一番改善されているところが中低域。かなり下まで音が伸びて量感も増していますが、10Mのようにダンゴ状態にならずキックとベースが分離し、音像は聴き取りやすくなっています。例えば、10Mでは、ROLAND TR-808のキックの下や超低域のシンセ・ベースの下がバッサリ聴こえなくなり、経験を元に想像して音作りをしていました。しかし、本機なら安心して超低域の音作りができます。このように本機の方が断然レンジが広いため、中域の張った10Mとは、一見別モノにも聴こえます。しかし、中高域の音の出方やバランスは10Mと同感触です。また、MSP10と比べてもかなり改善されており、MSP10がオーディオ的でハイファイであったのに対し、本機は高域の出方やエッジ感がより10Mに近いものになっています。まさにスタジオ・モニターとして使いやすい音作りと言えるでしょう。さて、このようなワイド・レンジなスピーカーでは時として、中域の張りが無い、低域がダブついて見えにくい、リバーブ感が分かりづらい、ボーカルで“サ・シ・ス・セ・ソ”の子音が出過ぎる、歪んでいるのが分かりづらい等、悪い点も多くみられるのですが、本機には全くその傾向はみられず、すべてクリアされています。試しに仮のミックスもしてみましたが、長時間使用しても耳が疲れず、とにかくバランスが取りやすいスピーカーです。さらに指向性が広く、本機の位置や、耳とスピーカーの高さ違いでの音色変化はとても少なくなっています。設置場所をいろいろ変えてみたとき、低音がフラットに伸びているため、量的に多めになることもありますが、中低域までかぶる音ではなく、あくまでダンピングが良く分離感があります。さらにTRIMスイッチで低域の音量を自由にコントロールできるので、特に問題になることはありません。本機のサイズは、10Mと比べ、一回り大きくなっています。私の場合、どちらかと言うと“サイズが小さくて低域がダブつかず、高域がうるさくない”ことを大前提にモニター・スピーカーを探してきましたが、本機を聴くと“ある程度大きくないと、この素直で分かりやすい音は出ないのだな〜”とあらためて考えさせられました。そのほか、MSP10ではバスレフから出る空気がとても多く、風が顔に当たるのをうっとうしく思っていましたが、本機では気にならない量にまで減っています。また、メーカーによると製品の固体差やパーツ交換で音色のバラツキが出ないように徹底した品質管理を行っているとのこと。正直、私も製品のバラツキには苦労してきましたので、その辺りも非常にありがたいでしょう。このように欠点の少ないMSP10 Studioですが、唯一改善していただきたいのは、電源コードが本体に直付けされ取り外しできないこと。ただしこれには理由があり、いろいろ実験した結果、インレット・プラグではこの音が出ないからだそうです。この音を維持できるなら今後、インレット・タイプに変更していただきたいものです。10Mに替わるモニタース・ピーカーは何を購入しようか迷っている方も大勢居ると思います。そんな人に本機はぜひ聴いていただきたい製品です。価格は同社の従来製品より若干、高めに設定されていますが、このような正確なモニターは、きっとあなたの救世主になることでしょう。
YAMAHA
MSP10 Studio
110,000円(1本)

SPECIFICATIONS

■形式/バイアンプ2ウェイ、バスレフ型パワード・スピーカー
■スピーカー・ユニット/LF:20cmコーン(4Ω)、HF:2.5cmチタン・ドーム(8Ω)
■周波数特性/40Hz〜40kHz(−10dB)
■出力音圧レベル/110dBSPL (軸上1m)
■SN比/98dB以下(A weighting)
■外形寸法/256(W)×420(H)×329(D)mm
■重量/20kg(1本)