新旧さまざまな機能を盛り込んだPA用の多機能型総合プロセッサー

DBXDriveRack PA

米DBX社より、その名もDriveRackPAと銘打たれたサウンド・システムの総合コントローラーが発売された。同社のオリジナル技術を多く搭載した極めてコスト・パフォーマンスの高い製品に仕上がっている。あまりに多機能なので、信号の流れに沿って解説していく。

1/80octのノッチ・フィルターで
自動的にハウリング・ポイントをカット


●I/O部
24ビット/48kHzのAD/DAコンバーターを使用し、最大入出力レベルは+20dBu、ダイナミック・レンジは100dBを確保。インプット・レベルを−10dB基準にも切り替えられ、DJミキサーなどにもレベル・マッチングが可能。音を濁らす遠因となるチャンネル間のクロストークは120dBと優秀、デジタル式の強みだ。●グラフィックEQ
1/3oct、28バンド、左右独立およびリンク可能というスペック。デジタルEQの特徴である、固有の色づけ等を伴わない極めて正確な動作をする。優れたアナログEQの音楽的な色づけとは感覚が違うが、本機のEQはこれはこれで良し、と見た。●AFS(アドバンスド・フィードバック・サプレッサー)
本機の最大の売りである自動ハウリング抑圧機。同社が"オートマティック"ではなく"アドバンスド"と銘打ったのは、最狭1/80octという、とても急峻なノッチ・フィルターを12系統持つ点によると思われる。フィルターの幅は、広い方は1/5oct(スピーチ・モード)から、狭い方は先述した1/80oct、Q=116(ミュージック・ハイ・モード)まで設定可能。このフィルターは固定式でも使用できるし、ライブ・モードという自動追尾型にも設定できる。ライブ・モードの場合、ハウリングしそうな周波数を見つけるとフィルターのポールが動き、そのポイントをカットしてくれる。いくら1/80octというニードル・フィルターでも、12個所も穴を開けられたらたまらない人には、フィルターの数の制限ができることを付け加えておく。
さて、このライブ・フィルター、まさか本番中にわざとハウらせるわけにもいかないので、大スタジオでチェックしてみた。非常にうまく動作するのだが、さすがに機械にはフィードバック奏法をしているエレキギターと、マイクとスピーカーの間で起こっているハウリングの判別は難しいようで、フィードバック音の帯域をカットしようとしてしまった。ただしこの機能、ミュージカルのようにオペレーターの目の届かないところにあるモニター・スピーカー前を、マイクを付けた役者さんが横切るようなとき、あるいは場面転換で音場が変わるような現場などには有効だろう。そして驚くべきことに、これらのフィルターは5秒〜60分を経過すると自動的に解除する設定すらできる。我々が普段やっているのと同じく、ほとぼりがさめたころに少しずつ戻していくテクニックを、機械が自動でやってしまうのだ。●サブハーモニック・シンセサイザー
DBX社の特許技術の1つで、原音に含まれる55〜110Hzの成分から、28〜55Hzを作りだし、低音の増強を図る機能。しっかりしたサブウーファーと組み合わせれば、とても役に立つ。●コンプレッサー
同社160と同等、いやそれ以上の機能を持つ。DBXではオーバー・イージー(ソフト・ニー)回路が売り物だが、そのソフト・ニーからハード・ニーまでを10段階で設定できる(160は切り替え式)。レシオも1:1〜∞:1までほぼ連続可変で、ナチュラルからハード・コンプまで幅広い音作りが可能。

価格帯に見合わない
手抜き無しのAD/DAが◎


●クロスオーバー・セクション
最大でステレオ3WAY(LCDでは2×6と表示)から、フルレンジ・システムにサブウーファーをモノで加える場合に使用される2×3モードまで設定可能。マニアックだが、フィルターの特性は通常のバターワース・タイプ(表示はBW)と、レンクウィッツライリー(LR)タイプを選択できる。スロープ特性もBWは6/12/24dB/oct、LRタイプは12/24dB/octから選択可能。さらに、各バンドにフルパラメトリックEQまで付いている。特に高域のEQは、CD(コンスタント・ディレクティビティ)ホーンの指向角度に合わせた補正に有効。●ピークストップ・リミッター
スピーカー・ユニットを、瞬間的な過大入力から守るために有効。これも3バンド独立で内蔵。●タイム・アライメント・ディレイ
スピーカー・ユニットの振動板の前後の位置を電気的に合わせる機能。例えばミッドハイにホーン・タイプを用いて、サブウーファーにバスレフ・タイプを使用した場合、ウーファーに対してホーンからの音は少し遅れることになる。この位置をディレイで見かけ上そろえることで、空間で合成される音の波形はより正しくなる。最大ディレイ・タイムは10msecなので、3.4mまでの補正が可能。距離を数字で入力しての設定もできる。●RTA(リアルタイム・アナライザー)&PA WIZARD
フロントに測定用マイク入力があり(+15Vファンタム電源付き)、使用中にスペアナ表示が可能。さらにピンク・ノイズ・ジェネレーターを内蔵しており、EQのオート・チューニングもできる。本機で出力したノイズを測定用マイクで拾えば、システム全体がフラットな特性になるようにEQを自動調整する。ただし、メーカーもマニュアルに注意書きしてあるように、これを過信してはならない。現場は無響室ではなくて、複雑な反射音場なのだから。
また本機には6メーカー45機種のスピーカーの特性データが入っていて、組合せに応じたベスト・チューニングがメモリーされている(PA WIZARD)。CROWN社のアンプのデータも入っているが、これは入力感度の違いを加味してシステム・チューニングするということらしい。もちろんユーザー・メモリーのスペースも同等にあり、プロテクトも可能だ。あまりに多機能なので足早になったが、これだけの機能を単体機でそろえるとしたら、本機のコスト・パフォーマンスの高さを納得してもらえるだろう。スピーカーやアンプの正しい知識を持つ人にはお薦め、そうでない人には、くれぐれも使っているスピーカーに不適切なプリセットを呼び出してしまわないように......。この価格なのにAD/DAに手抜きは無しで、◎。
DBX
DriveRack PA
85,000円

SPECIFICATIONS

■入力インピーダンス/>40kΩ
■出力インピーダンス/120Ω
■最大入力レベル/+20dBu
■最大出力レベル/+20dBu
■AD/DA/24ビット
■サンプリング周波数/48kHz
■ダイナミック・レンジ/110dB A-weighted、>107dB unweighted
■周波数特性/20Hz〜20kHz、+/-0.5dB
■チャンネル間クロストーク/>110dBmin、120dB typical
■外形寸法/483(w)×44(H)×150(D)mm
■重量/2.4kg