人気アナログ・シンセ・メーカーが送る個性派2chコンプレッサー

STUDIO ELECTRONICSC2S

いやはや、コンプというのは難しいエフェクターです。録りやミックスにおいて、必ずといっていいほど使われるものでありながら、これほど使いこなすのが難しいものはほかに無いと、僕は常々思っています。コンプにはレベルを均一化して聴きやすくするという本来の役目もさることながら、積極的な音作りの道具という面もあります(むしろこっちの方が重要かも?)。この点に関しては、使いこなしはもちろんのこと、機種選びもポイントになってくるので、日々理想のコンプを探してる方も多いでしょう。しかし、世に出回っている膨大な製品の中から探し出すのは、選択肢が多い反面、大変なことでもあります。

さて、今回のC2S。ステレオのコンプであります。何やらいろいろと秘密がありそうです。一体どんな音を聞かせてくれるのでしょうか。

1176を意識した
パラメーター&サウンド


このC2Sを製造しているのは、STUDIO ELECTRONICSというメーカーです。アウトボードのメーカーとしては、聞き慣れないメーカーです。しかし、同社はアナログ・シンセで有名なメーカーで、MidiminiやSE-1といった製品を送り出しています。特にMidiminiは“ラック・マウントできるMIDI付きのMinimoog”という触れ込みで、あっという間に定番になった名機です。その同社がシンセで培ってきたアナログ技術を用いて開発したのが、このC2Sです。本機はFETタイプのステレオ・コンプですが、最大の特徴は、コンプの定番、そして名機であるUREI 1176を元に、各部に独自の改良を加えた設計になっていることでしょう。具体的な改良点は、まず出力段です。後期の1176にはクラスAB回路のものが採用されていましたが、本機ではNEVE 1272タイプのクラスA回路が出力段に使用されています。また、トランスも1272と同様のスペックのものが採用されています。また、アウトプット・ツマミは故意に歪むまで調整可能になっており、そういった使い方の場合にこの設計は効果的だと思います。僕も迫力のある音で録りたいときに、NEVEのプリアンプなどを若干歪ませたりしているので、本機の音には期待が持てます。入力部にも工夫がされていて、アッテネーターをトランスの後に配置することによって、トランスをフルにドライブし、効率を良くする配慮もされています。本機は1176を基本に設計されただけあり、フロント・パネルに並んでいるパラメーターも、見た目こそ違いますが、ほとんど同じと言っていいでしょう。スレッショルドのパラメーターは無く、インプット・レベルでコンプのかかり具合を調整して、アウトプット・レベルで出力を決める方式も1176と同様です。レシオは4:1/8:1/12:1/20:1が選べ、数値が上がるほどレシオと連動して、スレッショルドも高くなっていきます。そのほかにsquashというモードがありますが、これは有名な1176のレシオ・ボタン全押しのサウンドを再現するものです。このレシオ・ボタン全押しは、派手につぶれた独特なサウンドで、ほかのコンプではなかなか真似ができないものです。このsquashモードだけでも本機に期待する人は多いのではないでしょうか。また、レシオのツマミにoffというポジションがありますが、これはコンプレッションをバイパスするモードです。本機にはこれとは別にバイパス・スイッチがありますが、レシオ・ツマミのoffはインプット/アウトプットを経由するモードで、バイパス・スイッチは完全なハードウェア・バイパスになります。チャンネル1/2のパラメーターは共通ですが、リンク・スイッチも装備されています。この場合、コントロール信号が共通となり、両チャンネルのアタックとリリースが左チャンネルのみで一括してコントロールできるようになります。ただし、インプット、アウトプット、レシオに関しては、リンク時も両チャンネルは独立しているので、ステレオ・ソースを扱う場合には注意が必要です。入出力端子はXLRとTRSフォーンで、共にバランス接続に対応しています。リア・パネルにあるTerm/Untermというスイッチは、出力インピーダンスを切り替えるスイッチです。本機の後に接続される機器に合わせて、インピーダンスを選択できるわけです。この辺りにも細かい配慮が感じられます。

レシオのsquashモードによる
過激な音作りも可能


実際のサウンドで一番気になるのは、やはりオリジナルの1176との相違でしょう。キック、スネアやドラム・ミックス、ギター、ボーカルなどさまざまなソースを使ってチェックしてみましたが、深くかけたときのつぶれ具合や、通したときの音色変化など、かなり1176に近いと言えます。どちらかというと後期や再生産タイプより、初期の1176に近いと感じました。ただ本機特有の音もあり、特にアタックとリリースを最速に設定したときは、1176の同じ設定よりも一段早い動作になるようです。特にリリース側においてその傾向を強く感じました。特に印象に残ったのは、ドラム・ミックスとベースに深くかけたときのアグレッシブなサウンドです。さらにレシオをsquashモードにすると、過激さが倍増されます。歪ませたときの音色は個人的には1176よりも気持ち良く、なめらかに感じました。この辺りは出力段の設計が影響しているのでしょう。また、ボーカルにかけたときのパワフルな感じも良かったです。2チャンネル仕様なので、それぞれのチャンネルをシリーズで接続し、コンプ2段がけも試してみましたが、声を張ったときに奥まることもなく、強くかかったときも立体感を残してくれるので、この使い方は効果的だと思いました。全体的な音の印象は、ハイファイな音ではありませんが、これでしか出せない音を持つ、しっかりとキャラクターのあるコンプだと感じました。もちろん、レベルをそろえて聴きやすくするというベーシックな使い方もできますが、もっと積極的な音作りのために使った方が、本機の実力を発揮できると思います。こういうコンプは一台持っていて損はないはず。コンプを積極的な音作りの道具として考えている方には特にお薦めです。
STUDIO ELECTRONICS
C2S
348,000円(予価)

SPECIFICATIONS

■入出力端子/XLR、TRSフォーン(バランス)
■外形寸法/483(W)×44(H)×360(D)mm(突起物を除く)
■重量/6.0kg