独自の理念で開発された"新しいビンテージ"の音がする真空管マイクプリ

A DESIGNS AUDIOMP-2

最近、常々感じていることがある。それは適材適所ということだ。F1カーが最速を誇るからと言って、急いでお買い物に行くときにF1カーで出かけても、かえって遅くなるどころか駐車場の入り口で立ち往生するのがオチだろう。機材も目的に合わせた選択をするべきだ。高価な物がすべての面で安価な物を凌ぐということはないし、新しい物が古い物より優れていると限ったことでもない。その一方で貴重なビンテージ物が常にいい音を出してくれるわけでもないのだ。言葉やお金で判断すべきではない。本質を見失うことなく選択してほしい。さて、今回レビューさせていただくのは、A DESIGNS AUDIOのMP-2というすべてチューブを使用しているマイクプリだ。この機器の本質を見極めつつレビューさせていただくことにしよう。

こだわりのアンティーク・デザイン
論理的かつぜいたくな内部回路


まず外観に圧倒される。思わずケースから出す手を止めて眺めてしまうくらいアンティークなルックスだ。半世紀前の1950年代にタイム・スリップしたような感覚のデザインで、VUメーターやトグル・スイッチなど、1つ1つのパーツにこだわりを感じる。しかしながら、つや消しのブラック・パネルに整然と収まった姿は、今日のバランス感覚を満たしてくれているから不思議だ。早速サウンド・チェックを......と思ったところ、シャーシを傾けると内部で何やら音が聞こえる。心配になり天板を外すと真空管が抜け落ち転がっている。そういえば昔、ギター・アンプの真空管が抜け落ちないようにするための改造をした記憶がある。持ち運ぶ方は十分に気を付けていただきたい。もっとも、設計者もユーザーも本機をPAで使用するなど、考えてもいないだろうけれど......。この出来事のおかげで、たまたま内部を入念に眺めることになったのだが、非常に凝った作りに驚かされた。また極めて論理的に作られていることも納得できた。電源部には、外形寸法を抑えて太く巻かれたトロイダル・トランスが採用され、それが側板に立てて取り付けられている。普通なら大きく巻いて底板に寝かせて固定するところだが、こうすることで内部サーキットや入出力コネクターから最も距離を稼げるばかりか、トランス周りにできる磁界の影響も与えにくくなるわけだ。また、大きなJENSEN製のトランスが2つ目に入る。これは入力段に使用しているもので、いかにもぜいたくな作りをしていることがうかがえる。

ハイエンドのこもりも少ない
真空管そのもののサウンド


"ビンテージ系"として発売されている機器のほとんどが、古いNEVEなどを模倣した製品であるのに対して、MP-2は独自の理念に基づき新しく開発された完全真空管マイクプリである点が大きく異なる。ファンタム電源も備えているし、出力インピーダンスを600Ωと10kΩに切り替えられる機能も新しく、バーサタイルな使用が可能となっている。また、サーキット的にも負帰還ゼロで設計しながらも歪率0.08%を実現していたり、オリジナルなトランスやコンデンサーまで開発しているとのことで、その徹底ぶりには脱帽する。入力コネクターは、XLRとフォーンの両方に対応したコンボ・ジャックを採用しているため、DIとして使用することが可能だ。またその際には、入力インピーダンスがアップする設計になっているようで、バランス時が1.4kΩ、アンバランス時が100kΩになるとのことだ。実際にエレクトリック・ベースをダイレクトに入力してみたが、最新のベースにもかかわらずビンテージ・サウンドになった。ただし、ベースやギターのピックアップ・サーキットのインピーダンスは250k〜500kΩが多く、本機はやや低めな設計になっているため、より情報量を求めるなら、バッファーをかませてから入力することをお勧めする。しかし、このビンテージな風合いが気に入れば、それはそれでいいだろう。ローインピーダンスでのマイク入力時も、サウンドはまさに真空管そのものでウォームだ。しかしながら、いわゆるビンテージ物にありがちなノイズも目立たないし、ハイエンドのこもりも少ない。ピアノなどで試してみたが、外観やサーキット設計通りの"新しいビンテージ"サウンドだと言える。さらに、最新のコンデンサー・マイクとのペアで使用しても、全くその価値を失わないクオリティだ。とはいえ、帯域のワイド・レンジさを求めるなら、この機器の選択は少々違うかもしれないが、60kHzまで伸びた落ち着いた高音域や、もたつきのない低音域、さらにはナチュラルなチューブ・サチュレーションは、ぜひ聴いてみる価値があるだろう。なお、私の愛用マイクの1つにRCA 77DXというリボン・マイクがあるのだが、本機の最大ゲインは46dBで、これにはいささか小さいことは否めない。メーカーはまだ新しい会社ながら、こうしたことに対応したオプションを用意してくれるとのことで、その姿勢に好感を持った。出力レベルの低いマイクで使用することを考えている方は、購入時に相談してみてはいかがだろう。最新のマイクプリがワイドレンジ&ローノイズと多機能を追い求める傾向の中で、しっかりと自分のサウンドを見極めている姿勢には好感が持てた。適材適所で使用したなら大きな力となるだろう。
A DESIGNS AUDIO
MP-2
248,000円

SPECIFICATIONS

■周波数特性/20Hz〜60kHz
■入力インピーダンス/マイク入力1.4kΩ(DI時は100kΩ)、フェイズ&ファンタム48V付き
■入力ノイズ/−120dB
■出力レベル/最大+22dB
■出力インピーダンス/600/10kΩ切り替え可能
■入力コネクター/コンボ・ジャック(XLR/フォーン)
■全高調波歪率/0.08%
■外形寸法/482(W)×89(H)×254(D)mm
■重量/8.16kg