確固たるサウンド・デザインが魅力のマルチ指向性真空管コンデンサー・マイク

GROOVE TUBESGT67

創作意欲を広げてくれ、楽器をよく理解し、楽器に寄り添ったコンデンサー・マイクです。数多いセッションの中、つい時間の浪費を恐れ、冒険をせず、自身の定石にしたがってマイクを選んでしまうのですが、本製品のレビューを通じ、それは大きく間違っていることを再認識させられました。さて、今回のレビューは真空管コンデンサー・マイクGROOVE TUBES GT67です。GROOVE TUBESのマイクを使ったことは、ほんの数回しかなかったのですが、こんなに色気があり、主張の強いマイクだとは思いませんでした。

音圧感があり明確なサウンド
中高域には色気のある独自カラー


まずはビジュアルですが、従来のラインナップ製品の円筒型から、いわゆるNEUMANN系(U67、U87)のような曲面的なデザインになっています。大きさはちょうどU87を9割程度にした感じでしょうか。オーソドックスな言い方ですが、“なるほど真空管のコンデンサー・マイクだな”という、デザイン、重さ、質感です。もちろんパワー・ユニットは別に用意されており、専用のケーブルも付属しています。仕様としては、3μのエバポレイティッド・ゴールド・ダイアフラムを搭載。指向特性はマルチパターンになっており、単一指向性、双指向性、無指向性がマイク本体の切り替えスイッチで選択可能です。また、単一指向性に関してはスーパー単一指向性のスイッチがパターン切り替えのものとは別に装備されています。そのほか、75Hzで12dB/octのローカット・スイッチと、10dBのパッドも装備されてます。では、チェックに入りましょう。今回チェックできたのは時間とセッションの関係上、ボ−カル、アコースティック・ギター、歪み系のエレキギターの3パターンです。さて、試してみてですが、とにかくずば抜けて素晴らしかったのが、ハードな歪み系エレキギターのサウンド。“よくぞ、この音圧を良く理解し、そしてアンプに騙されずに明確に拾ってくれる”と正直、感心しました。歪み系のギター・サウンドはアンプそのものの音より、そのアンプの鳴っている部屋の鳴りが大きく影響するため、いざマイクで拾うと、思ったよりこぢんまりしたサウンドになりがちなのですが、このGT67はエンジニア要らずと言えるほど、安易に高レベルのマイキングを可能にしてくれます。特に素晴らしく感じたのは、双指向性にして比較的オンマイクで狙ったサウンドです。通常だと2、3本のマイクで成り立つようなサウンドが、1本のGT67で表現できるのです。筆者はギターを録る場合“音圧感、音色、ピッキングのニュアンス、ダイナミクス感”を4要素に考えているのですが、そのすべてを表現しています。ただ、やや中高域がキツイ感じがします。しかし、まったく嫌味ではなく素晴らしい主張に感じられました。特にピッキングの表現の素晴らしさと、音圧に負けない、6本の弦の分析能力は素晴らしいという一言に尽きます。さらに言えば、コード弾きの中でのハンマリングや、コード弾きの中でのフィルなどの表現力やスピード感の表現は“得意中の得意”といった感じでした。また、前述した主張ある中高域のサウンドは、ほかの指向性パターンにも感じられることでした。双指向にした分、近接効果が無くなり低域の不足を感じましたが、EQや補助のマイキングで十分カバーできる範囲です。

明確なサウンド・デザイン
ロックな音質で仕上げ上手なマイク


さて、次はアコースティック・ギターですが、恐らくGROOVE TUBESのサウンド・デザインそのものだと思うのですが、やはり中高域に癖があり、原音忠実とは異なった感じです。しかし、それは賛否両論で、筆者は非常に色気のあるサウンドと感じられました。端的に言えばロックな音です。若干のコンプレッション感やエッジの立ち方は、まさに“仕上げ上手なマイク”だと思います。また、低域の暗さにやはりロックを感じます。そのサウンドからは、明らかにNEUMANNやAKGとは違う主張が感じ取れます。NEUMANN U67、U87、AKG C451、C414のサウンドは、原音には近いと思いますが、マイキングは非常に繊細で難しいと言えます。しかし、このGT67はハッキリと色が考えられたサウンド・デザインなため、ある意味、明確な“GT67のサウンド”を簡単に得られると思います。ボーカルのサウンドに関しても、好き嫌いはあると思います。コンプレッション感があり、ガッツのある“味”にも取れるし、低域の暗さが“深み”にも感じられます。実際、このマイクは人見知りをしてボーカリストを選んでしまうと思います。これは知られた話で、あのビンテージ・マイクAKG C12や、古いジャズ・アルバムのジャケットなどでよく見かけるNEUMANN M49などは、人見知りがとても激しく、マッチングが合えばこの上なく素晴らしく、そうでなければ2度と巡り合わないというくらいはっきりしています。そんなことがあるからエンジニアをやっていて、それが楽しみであったり、仕事であったりするわけですが……。GT67について最後にまとめると、とにかくハードなギター・サウンドは素晴らしい、と言えます。多くの楽器でチェックできないのが残念ですが、それだけ良いと思えるサウンドを得られるのですから、好き嫌いはあるもののマッチングが良ければ、とても素晴らしいマイクだと思います。
GROOVE TUBES
GT67
120,000円

SPECIFICATIONS

■周波数特性/20Hz〜20,000Hz(±1.5dB)
■感度/35mV
■最大入力音圧レベル/130dB、147dB(パッド)[共に1kHz、THD 1%]
■外形寸法/50(φ)×195(H)mm
■重量/600g
■付属品/専用パワー・モジュール、ショックマウント・ホルダー、キャリング・ケース