独自のパッシブ・ラジエーターで低域を制御する小型パワード・モニター

MACKIE.HR624

今回チェックするMACKIE. HR624はFOSTEX NF-1Aとほぼ同じサイズのパワード(アンプ内蔵)モニター。最近各社からこのサイズ/価格帯のモデルが続々と発表されており、かなり選択肢が豊富になってきた。プロだけでなくアマチュアまでもが自宅録音用のメイン・モニターとして考えるスタンダードな製品ラインとなりつつあるようだ。

配置に応じて低域を調整できる
Acoustic Spaceスイッチを搭載


本機の最大の特徴は、内蔵の大型パッシブ・ラジエーターによってコントロールされる豊かな低域のキャラクターにある。他社製品の多くはダクトを用いたバスレフ構造によって低域の後方放射を処理しているが、本機では内部背面に6×9インチの楕円形パッシブ・ラジエーターを採用。これがウーファーの動きに合わせてピストン運動することで、うまく低域を処理している。故に本機の低域キャラクターは、このラジエーター独自のサウンドになっていると言えよう。スピーカー構成は17cmウーファーと2.5cmドーム・ツィーターの2ウェイで、クロスオーバー・ポイントは3kHz。ウーファーに100W、ツィーターに40Wという2つのパワー・アンプでぜいたくに駆動している。入力端子はXLR、TRSバランス・フォーンに加えてRCAピン・ジャックも装備しており、インプット・レベルも無段階に調整できるので、大抵のソースにそのまま対応できる。また、リア・パネルには幾つかのスイッチ類が用意されているので、これらを順に見てみよう。●Acoustic Space
一般的にはスピーカーを背面の壁に近づけると低域が増え、さらに左右の壁に近づけて部屋のコーナー部分に持っていくとより一層低域が多く聴こえる。しかし、いろんな配置を試して音響的にベストなポジションが見つかったとしても、作業上の都合でレイアウトを重視せざるを得ない状況も多く、理想のポイントへそのまま置けるケースはまれであろう。そんなときに活躍するのがこの“Acoustic Space”スイッチ。A、B、Cの3段階低域カット機能を持ち(Aで最も低域がカットされる)、本機を壁面近くに置きたい場合に便利だ。もちろんこのスイッチを選択した後の微調整は置き方で工夫しよう。●ローフリーケンシー・フィルター
同社のHRS120などのサブウーファーと併せて使用するために設けられたもの。低域がカットされる分、中高域が見えやすくなるので、ミックス終盤のチェックでも使えそうなモードだ。ちなみに本機は、ルーカスフィルムが中小規模のサラウンド・ミキシングを行うためのスタジオ製品を認定する規格、THX@pm3の認証を受けている。●ハイフリーケンシー・フィルター
高域を±2dB増減できる。当然低域調整が終わってから検討するべきスイッチだろう。
そのほか、8分間信号が入力されないと自動的に電源がオフになるAUTO ONモードなどが用意されている。もちろん各種保護回路も内蔵しており、過大な入力によるダメージからスピーカーを守る対策がされているのでアマチュアでも安心だ。

長時間の作業でも疲れにくい
つやと重量感のあるサウンド


さて肝心の出音だが、つやと明るさを適度に持った高域とリッチで落ち着いた低域が、スムーズにつながっていて気持ちいい。しっかりとした重量感を持った音楽的に楽しめる音色で、長時間聴いても疲れない。高域はさほどハイエンドを感じるわけではないのだが、低域が邪魔にならないので音の粒は見えやすい。これはやはりバスレフ型では得られない低域のあり方だと思う。ある程度音量を上げても歪み感が少ないのはモニター用としてポイントが高い。音作りに関しては、高域ではEQのかかり具合いも見えやすいが、中低域の処理には若干の慣れが必要なようだ。この点では生楽器の録音よりはシンセ・サウンドに向いているかと思う。全体の味付けはつやがあり太めなので、何かとハイエンドが気になりがちなデジタル・ミキサーやHDRにつないだ場合に、特にいい結果が得られそうである。ただ今回のセッティングでは、ソースによってはローエンドが過剰に感じられた。ヘッドフォンなどでは聴き取れないような重低域が聴けるのはいいのだが、状況によってはこれが不快に感じることもある。そこでAcoustic SpaceをBに切り替えて低域を抑えてみると、ずっと聴きやすくなった。適度な低域を得るためには、リアの設定スイッチと設置場所の組み合わせを検討してうまくバランスを取ることが必要だと思われる。この辺りはバスレフ型とはまた違った低域のコントロールが必要になるということだろう。この価格帯のパワード・モニターはさすがにどれも音が良い。メーカーにとってはスピーカー単体での製品よりもパワードの方が断然サウンドをフィックスしやすいので、結果的にはどれもレンジが広く、高い基本性能に仕上がっているようだ。半額以下のものから乗り換えるなら、間違いなくステップ・アップが図れると思っていいだろう。ただし、一般的に低域のキャラクターだけはかなり好き嫌いが分かれるポイントであるから、購入前には要チェックだ。その際、他社とは違った低域が味わえる本機もぜひ試していただきたい。
MACKIE.
HR624
オープン・プライス(市場予想価格70,000円前後/1本)

SPECIFICATIONS

■周波数特性/52Hz〜20kHz(±1.5dB)
■低域特性/−3dB@49Hz
■高域特性/−3dB@22kHz
■出力音圧レベル/100dB SPL@1m
■入力インピーダンス/20kΩ
■アンプ出力/LF:67W/100V、100W/120V、HF:28W/100V、40W/120V
■外形寸法/210(W)×330(H)×264(D)mm
■重量/11.4kg