出力音圧を上げずに音楽的な低域を創出する1Uサイズのプロセッシング・ユニット

WAVESMaxxBass 101

今やHDレコーディングが主流の音楽業界。WAVESという名前はプラグイン・ソフトですっかりおなじみになったメーカーだ。しかし、数年前よりデジタル・アウトボードをリリースしているのは意外と知られていないこと。プラグインで既に評判の高い同社のL2もアウトボードとなってプロのエンジニアたちからの評価も非常に高い。そして、今回紹介するMaxxBass 101もプラグインからの移植版で、しかもお手ごろな価格。さて一体どんなものか? 早速チェックしてみよう。

従来の製品とは違う方法で
低音を再生するために


まずはこのマシンの概要をプレス・リリースから丸写ししてみよう。“MaxxBassは原信号の低音域を1オクターブ及び1.5オクターブ上の帯域まで歪むことなく拡張し、既存のシステムに取り付けるだけで、より迫力のある低音を再生します。パワー・アンプやスピーカーでの出力音圧を上げることがなく、機器に負担をかけない優れたプロセッシング・ユニットです!”ときたもんだ。なるほどなるほど。で、次に書かれている説明がもっと分かりやすいのでそれも書き出すと“スピーカー・システムは再生周波数が低くなればなるほど効率が悪くなり、十分な低域成分を得るためにはパワー・アンプから大きな電力を供給しなければなりません。しかし、これはスピーカー・ユニットに対して過大な負担となりユニットを破壊してしまうこともあります”とある。いやー、低音に関しては随分と苦労してきた私ですから、すごくよく分かります。どうして苦労するのか? それを説明しておきましょう。スピーカーから何で音が出るのか? それは皆さん知っているよね? スピーカーの振動板をアンプの力で振動させることで音が出るわけ。では、低音を出すには? より大きな口径の低音特性の強いスピーカーが必要になる。そして大きなスピーカーを駆動する大きな出力のアンプも必要になる。しかし、それだけのシステムがいつも用意できるわけではないよね。予算やスペース、電源の問題、等々……。いかにコンパクトなシステムで大きな音が出て、低音から高音までバランスよく音を出すことができるか?がここ10数年の流れである。各社ともにプロセッサーを駆使しイコライジングとコンプレッション、位相などを突き詰めていくことで昔に比べればコンパクトなスピーカー・システムになった。しかしながらそれらの発想とはまるで違う方法で低音を再生しようというのがこのMaxxBass 101なのである。

EQで無理やり稼いだのではない
音楽的にも無理のない低域が再生可能


チェックしたのは自宅スタジオ。モニター・スピーカーはドノーマルのYAMAHA NS-10Mだ。音楽ソースをCDから出してそれをそのままMaxxBass 101に突っ込んでみる。操作は至って簡単。だって、つまみが3つしかないもんね。インプット・レベルを決めてからFREQUENCYのつまみでどの辺りの周波数にするか探り、INTENSITYのつまみで強さを調整するだけなのだ。NS-10Mを使ったことがある人は分かるだろうが、このスピーカーは低音が最近のスピーカーに比べて出にくいというか、とてもフラットな特性になっている。で、いろいろなジャンルのCDを聴いてみる。第一印象は“ハッキリ言ってこんなもんかなぁ?”であったが、バイパス・スイッチを入れて驚いた。目の前にあるNS-10Mがいきなりラジカセになっちまった(笑)! いやいや、大袈裟ではなくマジでですよ。あまりにも驚いたので一回MaxxBass 101を外して聴き直したほどだった。やっぱり目の前にあるNS-10Mはラジカセのように聴こえる(焦)。そこでもう一度つなぎ直して、今度はMaxxBass 101で聴いた感じを卓のEQで似せてみた。80HzをQカーブの幅を広めで10dB上げるとバイパス・スイッチを切り替えても同じような音になるようになった。“それだったら初めからEQでやっているプロセッサーと同じじゃん!”と言うあなた! 話はまだ途中なんだから、もうちょっと聞いて頂戴。EQで上げているということはその周波数の実音を上げているということだよね? てことは必然的にその周波数帯域のパワー・アンプやスピーカーにすごく負荷がかかっているということ。MaxxBass 101のすごいところはこれら低域成分の2倍から3倍の周波数の成分を生成して原信号に付加することで物理的に再生し切れていない周波数帯を物理的に再生しやすい帯域まで拡張することで、本来はスピーカーで再生しきれない低音があたかも鳴っているように表現することができるようになってしまうのだ。それも音楽的にまるで違和感の無いようにしてしまうところが今までの倍音成分をうたった製品と大きく異なるのではないかと思う。普通は低域を上げるとどうしても高域も上げたくなるんだよね。でも、こいつは違うんだよなぁ。プラグイン環境でないレコーディングでもトータルにかけたり低音楽器に使うことでレベル・メーターとの睨み合いの苦労が減るかもしれない。恐らく一番効果があるのはサブローの無いスモール・スピーカー・システムのときだと思う。クラブや小規模なPAシステムのときでもサブロー無しでかなりの低音が出ているような効果を作り出せる。それでいてEQで無理やり稼いだ低音ではないのでパワー・アンプやスピーカーにも負担をかけずにすむだろう。しかも、サブローがあるようなシステムの場合はサブローに対してこのMaxxBass 101をインサートすることで、効率よく低音を出せるわけ。さらにはPAのモニター・システムなどに使うとかなりの効果があると思う。モニター・スピーカーの場合、その物理的な大きさにも限界があるので、低音を出すのはもっと厳しくなるわけだ。いつもドラムやベースの音を返してほしいとわがままを言うミュージシャンたち(失礼)にとって、とても有効なエフェクトになるのではないかと考えられる。なお、MaxxBass 101と同時発売されたハーフラック・サイズのMaxxBass 102(35,000円)の方は同じ機能でRCA入出力なので、民生機を使っているような店舗や自宅オーディオ・レベルを対象にしているのは一目瞭然だよね(ちなみに操作方法は全く同じ)。とにかく、MaxxBass 101は1度接続してしまうと2度と外したくない。そんな恐ろしいプロセッサーでした……。
WAVES
MaxxBass 101
49,800円

SPECIFICATIONS

■入出力端子/インプット(XLR/Wire Terminal/TRSフォーン)、アウトプット(XLR/Wire Terminal/TRSフォーン) ※RS232シリアル・コネクターは将来的なアップデート用に用意されたもの
■インピーダンス/10Ω(入力)、60Ω(出力)
■周波数レンジ/25Hz〜100Hz
■周波数特性(バイパス)/20Hz〜20kHz(+0.2/−0.4dB)
■外形寸法/484(W)×44(H)×82(D)mm
■重量/1.3kg