真空管サウンドを自在に加味できる完全ディスクリート回路のマイク・プリアンプ

STUDIO PROJECTSVTB1

エントリー・クラスからハイエンド・クラスまで、総じて低価格ながら高品位なコンデンサー・マイクのラインナップで知られる米国STUDIO PROJECTS社から、3万円を切る価格で1ch仕様のマイク・プリアンプが発売された。真空管を内蔵したこの製品の最大の特徴は、基本的なソリッドステート回路のサウンドにユーザーが好きなだけ“チューブ感”を加算していけるTube Drive回路の採用なのだが、果たしてこの“チューブ感を加える”というのは一体どういった感覚なのか? その辺りを中心にチェックしてみた。

さまざまな入力ソースに対応
DIとしての使用も可能


寸法的にはいわゆるハーフラック・サイズだが、奥行きは12.5cmと若干浅く、コンパクトながら重量感のある筐体設計からは、設置場所を選ばない使い回しの良さと音質面への信頼性を感じる。筐体素材であるスチールのシルバーを基調とした精悍なフロント・パネルの左には、コンデンサー・マイクに48Vの電源を供給するファンタム電源スイッチ、そして入力インピーダンス1.5MΩのライン入力用フォーン端子と、リア・パネルのマイク入力用XLR端子とを切り替えるスイッチが配されている。リア・パネルにあるマイク・インピーダンス切替スイッチ(200Ω/50Ω)とフロント・パネルのインプット・ゲイン・ツマミで入力信号のゲイン微調整を行うことにより(マイク/0〜60dB、ライン/10〜30dB)、シンセやリズム・マシンなどの音源系からエレキギター等の出力の小さい楽器にまで対応し、ライン入力用DIとしても使用可能。またダイナミック〜コンデンサー・マイクまで入力ソースを選ばずに広く使い回せる点は、本機のアドバンテージと言えるだろう。フロント・パネル中央には70Hz以下の帯域を−18dB/octカットするハイパス・フィルターのON/OFFスイッチ、そして問題の“TUBE BLEND”ツマミが並び、パネル右側には5ポジションのLEDレベル・メーターとV字型にデザインされた真空管の放熱孔、レベル・メーターの入力/出力の表示切替スイッチ、そしてこの価格帯のマイクプリとしては珍しく位相反転スイッチが付いている点も見逃せない。ちなみに内蔵されている真空管は12AX7(別名ECC83、7025)という、多くのギター・アンプ等でプリアンプ部に用いられる非常にポピュラーな管だ。欲を言えばこの真空管部にユーザーが手軽にアクセスし、さまざまな年代/メーカーの管を差し替えて自分の好みの音にチューンアップできる、というような真空管機器ならではの楽しみ方ができる設計になっているとうれしかったのだが。リア・パネルの出力端子のセクションには、最大+26dBu/100Ωのバランス出力のXLR出力端子と、最大+21dBu/300ΩのTRSバランス対応のフォーン出力端子、コンプやEQ等の外部デバイスを接続するインサーション端子が各1系統ずつ、そしてXLRのマイク入力端子(バランス)と前述したマイク・インピーダンス切替スイッチが配されている。本体に電源スイッチの類は装備されておらず、ACアダプターをつなぐとすぐに電源が入る設計になっている。

アナログ録音時代の雰囲気が味わえる
TUBE BLENDツマミ


まずはTUBE BLENDツマミが0の状態で、LINE INにエレキギターをつなぎ適正レベルに調節してみる。出てくるサウンドはごく普通のライン・インのギター・サウンドだ。次にサウンドの変化に集中しながらTUBE BLENDツマミを徐々に上げていったのだが、期待していたほどのサウンドの変化が認められない。どうやら真空管のウォーム・アップが十分ではないようだ。ということでたっぷり30分ほど電源を入れたまま放置してから再度トライしてみると、なるほど確かに音色の変化が認められた。一言で言えば基本のライン・サウンドに徐々に歪みが加えられていくのだが、その音色はあくまでもソフトかつウォームな真空管の歪みで、少々良すぎる例えかもしれないが、ビンテージのFENDER Tweed Champ辺りで味わえる、シルキーかつきめの細かいソフト・クリップ・サウンドのニュアンスがあるのには少々驚いた。早速ギターをP-90ピックアップを乗せたGIBSONのフルアコにつなぎ変えてみると、まさにジャスト・フィット。雰囲気たっぷりのブルース〜ジャズ・ラインの“使える”サウンドが楽しめる。この音色変化はTUBE BLENDツマミを全開にした状態で、単音弾きでは若干サステインが伸び、コード弾きでは軽くクランチするといった程度なのだが、この辺りはインプット・ゲイン・ツマミとの兼ね合いで追求し甲斐のあるところだろう。次にリズム・マシンをつなぎ、ROLAND TR-808系音色でパターンを再生しながらTUBE BLENDを上げていくと、キックの上の部分(2kHz辺りだろうか)がEQでブーストしたように強調されてくる。これはいわゆるプリアンプで歪ませたエフェクティブなキックというよりは、よりアコースティックでスムーズな音色変化で、この辺りのニュアンスは“真空管的”としか言いようがない。最後にコンデンサー・マイクをつなげて筆者自身の声にTUBE BLENDをかけてみたのだが、やはりリズム・マシンのときと同様、中域がブーストされていくようだ。ただエレキギターほどのドライブ感は無く、よりスムーズなもので、古き良きアナログ録音時代の雰囲気が味わえる。その意味では今回試せなかったのが残念だが、サックスやトランペット等の管楽器をイイ感じで録りたいときなどは特に重宝するのではないだろうか。以上の試奏インプレッションから、個人的には単なるオールマイティなマイク・プリアンプというよりは、入力信号にスムーズな“汚れ”を加味するエフェクターとしての側面を強く感じた。既に録音したドラムスの素材等をもう一度本機に通して加工するといったアプローチも面白そうだ。今やデジタル環境が標準となった宅録スタジオの音の入り口に、本機のような温かみのある機材を据えてみるのも一興であろう。
STUDIO PROJECTS
VTB1
29,800円

SPECIFICATIONS

■最大ゲイン(プリアンプ+出力)/72dB(マイク・イン)、42dB(ライン・イン)
■入力インピーダンス/2,000Ω/300Ω(マイク・イン)、1.5MΩ(ライン・イン)
■全高調波歪率/<0.0015%
■外形寸法/213(W)×38(H)×125(D)mm(突起物含まず)
■重量/950g