真空管サウンドを高度に表現したオプティカル・コンプ搭載マイクプリ

M-AUDIOTAMPA

今回はM-AUDIOのマイク・プリアンプTAMPAをリポートします。M-AUDIOといえば、サウンド・ボード、オーディオI/OのDeltaシリーズなど、比較的手に入れやすい価格帯で製品をラインナップし、アマチュアからプロまで幅広くカバーするクオリティを備えている印象があります。TAMPAもそういった製品でしょう。ハイエンドで高額な製品も良いですが、音楽制作は音質最優先ではなくプロセスのバランスだと私は考えています。そのためM-AUDIO製品には、好感を持っています。

真空管サウンドの特性を表現し
倍音や位相を最適化する独自技術


最近はデジタル環境でも、アナログの持つ温かみやなじみ感を求めるために真空管を使った製品が多く発売されていますが、このTAMPAもそのようなコンセプトを持った製品です。ただし、真空管を搭載しているわけではなく、新たな独自技術、Temporal Harmonic Alignmentによるシミュレーションで、真空管の持つ特性を全帯域にわたって表現しつつ、倍音や位相などを最適化するように設計されています。さらに本体には、マイク・プリアンプに加え、コンプレッサーも搭載しています。本体は2Uでパネルがシルバー、黒いツマミ、や電球照明のVUメーターなどでビンテージ機材のような雰囲気を狙っています。また、電源部はアダプターの方に収められており、本体の重量は軽く、さらに奥行きも10cm程度でコンパクトです。表向きはクラシカルですが、内部には最新のロジックを使用というわけです。出力はXLR、TRSフォーンのアナログ・アウトを装備。さらに、デジタル・アウト(AES/EBU、S/P DIF)も装備し、44.1/48/88.2/96kHzと4種類のフォーマットに対応しています。また、入力にはマイク用のXLRキャノンと楽器用のフォーンを用意。マイク入力にはインピーダンスの切替スイッチが装備され、マイクの仕様に合わせて設定できるようになっています。

中域には丸く張りがあり
全体に落ち着きあるサウンド


では、実際に音を通してみて、音質や機能をチェックしていきましょう。まずはマイク・プリアンプの方から。初めは、テナー・サックスをコンデンサー・マイクNEUMANN U87で拾いTAMPAに通してみました。真空管サウンドのシミュレーションということで、高域がナローで中低域が強調された丸みがある音です。ただ、演奏が強くなり入力レベルが上がると、オーバードライブ気味で高域に抜けるような硬さが出てきます。低域に関しては締まりがあって良いのですが、膨らみに欠け少し物足りなさを感じました。次に、ピアノにU87を立ててみましょう。今回は、SSLコンソールのヘッド・アンプと本機を比較してみます。まずはSSLの方から。低域の膨らみ、高域の抜けなども十分ですが、派手で高域が多少細く感じます。同じセッティングで、TAMPAの方を聴いてみましょう。こちらはSSLと比較すると地味に感じます。しかし、落ち着きがあり、狙いによってはアリだと思います。また中域の広い範囲に渡りザラついた張りがあるので、厚いオケの中でも、埋もれない存在感が出せます。ただ、やはり低域の膨らみが足りないため、若干レンジが狭く感じられました。

回路にはフォトカプラーを採用し
音色変化の無いコンプレッション


マイク・プリアンプに続き、コンプレッサーをチェックしてみました。製品によっては深くコンプレッションすると音が歪んだり鈍ったりすることがありますが、TAMPAはそのようなことはありません。コンプ前の音色のままで、“押し出る感じ”です。その理由は、“デュアル・オプティカル・サーボ方式”を採用しているところにあります。ゲイン・プロセッシング回路には、この価格帯のコンプに多いVCAタイプでなく、UREIやFOCUSRITEなどと同じく、フォトカプラー・タイプを使用しています。ただ、リリース・タイムをあまり短く設定できないこともあり、ドラムのハード・コンプレッションなど積極的な音作りには向いていないかもしれません。また、アウトプット・ボリュームが無く、出力レベル調整をインプット・レベルとコンプレッションの兼ね合いで行わなくてはならず、容易ではありませんでした。最新の技術によりビンテージ機材のシミュレーションをすることだけでは、今や目新しいものではありません。しかし、TAMPAの場合、Aクラス回路や新設計のマイク・プリアンプ、さらにコンプレッサーなどアナログ回路も充実しています。加えて96kHzのデジタル出力に対応するなど、アナログとデジタルが高いレベルで組み合わされています。そういう意味で、とてもユニークな製品と言えるでしょう。全体的には、オールマイティに使えるマイクプリ+コンプというより、真空管サウンドやビンテージ・コンプのサウンド・キャラクターを狙った音作りで、高いパフォーマンスを発揮するでしょう。
M-AUDIO
TAMPA
100,000円

SPECIFICATIONS

【マイク・プリアンプ部】
■連続可変ゲイン/34dB
■SN比/110dB(A-weighted、ゲイン設定は最小)
■周波数特性/20Hz〜40KHz(ー0.25dB)
【コンプ部】
■ゲイン・リダクション/最小20dB
■ヘッドルーム/30dB(20dBゲイン・スイッチOFF)、24dB(ゲイン・スイッチON)
【共通】
■外形寸法/480(W)×131(H)×88(D)mm
■重量/2.3kg