6C315-P真空管を内蔵したロシア製コンデンサー・マイク

OKTAVAMKL-2500

以前より、低価格ながら非常にサウンド・クオリティが高いことで定評があったOKTAVA。リボン・マイクMKL-52で好評を博したことも記憶に新しいが、今回テストするMKL-2500は、OKTAVA初の真空管マイクである。本誌2001年3月号で、低価格コンデンサー・マイクの22モデルを聴き比べる「初めてのコンデンサー・マイク」という特集があった。僕も参加したのだが、その中でもOKTAVAのMC012、MK-319は非常にクオリティが高く、また記憶に残るもので、少しマイキングの知識が身に付いてきた人にはぜひ購入を薦めたいと思う逸品であった。僕は真空管マイクが持つ倍音の豊かさを心から愛する1人として、近年多く発売される低価格真空管マイクに期待を寄せている。だからこそ、今回は厳しい目でチェックしていきたいと思う。

アルミ削りだしのボディを採用した
小ぶりで現代的かつ個性的デザイン


外観は少々小ぶりで、OKTAVAのほかのコンデンサー・マイクとほぼ同様の黒のアルミ削り出しボディを採用。同社のリボン・マイクMKL-52がALTEC似のレトロな雰囲気を漂わせているのに対して、本機のデザインはむしろ現代的だ。しかし、NEUMANN系やAKG系のいずれにも属さないデザインである。余談になるが、ボディに記されたロゴもユニークだ。“MKL”の表示がロシア文字表記で、ほかのヨーロッパのメーカーには見られない字体なので面白い。6C315-P真空管を搭載した本機には専用電源ユニットが付属しており、専用ケーブルで電源供給と信号の伝送を行っている。マイク本体に装着されている真空管にはメーカー名が記入されておらず、ロケットが描かれたロゴ・マークがプリントされているだけなので、OKTAVAのライセンス下にあるメーカーのものと思われる。電源自体や電源ケーブル、接続ケーブルによる音の変化に比べて、真空管機器は使用する真空管の種類による変化の方が大きい。例えば、交換時期を迎えた真空管を新品と交換すると、かなり違った印象の音色になることは間違いない。本機の場合も、基本的には購入店などでの交換依頼をお薦めするが、各人の好みで選ぶのも、個性的な音が得られるという意味では面白いだろう(言うまでもないが、型式が同一のものを装着すること)。

輪郭のはっきりした音質に
真空管ならではのウォーム感を付加


では、実際に音を聴いてみることにしよう。指向性はカーディオイドのみなので、対象物の正面に立てて集音してみる。僕がかねてから“OKTAVAらしさ”だと思っている、“硬めではあるがエッジや音の輪郭がはっきりしている”という特徴はしっかり受け継がれている。パンチもあるし、ナチュラルな印象で、空気感のバランスも良い。僕にとって良いマイクの条件の1つである、オンからオフへのスムーズな距離感の変化もはっきり聴き取れる。そして、真空管を使用したことで、同社のこれまでの機種では少々硬過ぎた中高域にウォーム感が加わり、ともすると弱くなりがちだった低音に厚みが増した。ソースをボーカルや管楽器、弦楽器などいろいろ変え、マイクの高さや角度も変化させて確認してみたところ、どのような状況でもその距離感や高低による倍音の変化が聴き取れた。スタンダードな真空管マイクとの比較はどうだろうか? 例えば、僕はNEUMANN U67Tubeにつややかな倍音、AKG C12に乾いた空気感を感じる。これをいわゆるクラシックな真空管マイクの音色の代表とするなら、本機はそのどちらとも違う。存在感はよりソリッドで、つややかさではさすがにU67Tubeにかなわない。しかし、音抜けという点では本機は良好で、厚いオケの中に入ったときの印象が単体で聴いたときとあまり変わらない。空気感の点ではC12がザラッとした個性的なものとするなら、本機はあくまでナチュラルで、いい意味でも悪い意味でも癖が無いと言える。本機ではパンチのある音が得られるということは、どういうシチュエーションで本機を選ぶかが腕の見せどころになると言えよう。いわゆるクラシックを求めて開発したのであろうが、やはりOKTAVAのマイクにはOKTAVAらしさが色濃く出るというところだろうか。残念ながら今回のチェックには専用ショックマウントは間に合わず、本体のマイク・ホルダーを直接スタンドに取り付けたため、スタンドからのノイズを拾いやすいかった。しかし、ネジやスイッチ類の作りが雑だったというかつてのOKTAVAの難点が改善され、安心して使えるものになったと思う。レコーディングの現場でスタンダードになったDAWと同様、この価格で高いクオリティが得られるようになったという点で、現代を象徴している製品だと言えるのではないだろうか。
OKTAVA
MKL-2500
118,000円

SPECIFICATIONS

■指向性/単一
■ダイアフラム/直径33mm(金蒸着)
■周波数特性/20Hz〜20kHz
■感度/13mV/Pa
■出力インピーダンス/200Ω
■最小ロード・インピーダンス/1kΩ
■最大入力音圧/135dB SPL以上(1kHz)
■最大出力電圧/1.2V
■消費電流/8mA
■外形寸法/170(φ)×155(H)mm
■重量/約290g(本体)
※オプション:専用ショックマウント(9,800円)