最大4声のコーラス・パートを付加するハーモニー・プロセッシング・ユニット

AKAI PROFESSIONALDecaBuddy HV10

機種名からも分かるように、HV10はVSTプラグインのハーモニー・プロセッサーDeca Buddyのハードウェア版だ。ベーシックな機能はほぼ同じだが、本機ではリアルタイム演奏を重視した機能が新たに搭載されている。また同社からはコンパクト・エフェクターのHV1(こちらは1ボイス仕様)も発売されており、その上位機という位置付けでもある。市場予想価格4万円程度という低価格でリアルタイムに4声コーラスが手に入るということで、興味津々チェックに望んだ。

ハーモニー関連に機能を絞り
高速処理と低価格を実現


最初に主な機能を把握しておこう。
●9ボイス(元音を入れて10ボイス)のコーラスをリアルタイムで生成可能
●A/B×50バンクの計100ユーザー・プログラム
●ハーモニー指定のための7つのモード
●声のキャラクターを変えるフォルマント機能
●人数感が自然に出せるランダム・ディレイ
●音程を補正するピッチ・コレクト機能
●ライブ使用時にも便利なマイク・イン/アウト
●サブパラメーターへの切り替え機能9ボイス扱えると言っても、ハーモニーとしては同時に4パートまで(元音+4声)。残りのボイスは元音を含む各パートのダブル分となる。ディスプレイにはパラメーターが左からL2、L1、ORIGINAL、H1、H2のパート順で表示され、その値をBANK/DATAノブで変更するスタイル。各パートではオン/オフ、レベル、パンをはじめ、声質を男性〜女性でコントロールできるフォルマント、人数感を出すためのディレイ(ランダムも選べる)、ピッチ補正の度合いなどを10段階程度で細かく調節できる。ユニゾン・ボイスと呼ばれるダブル成分も自由にオン/オフできるので、高域パートだけをダブルにする設定も可能だ。こちらには常にランダム・ディレイが効いており、自然なダブル効果を得られるようになっている。このところ他社のハーモニー関連のエフェクターもかなり低価格化が進んでいるが、本機ではリバーブやディレイといった追加エフェクトを一切装備せず、ハーモニー関連に機能を絞った仕様が特徴と言えるだろう。

リアルタイムの使用を重視した
7つのハーモニー入力モード


プラグイン版と違って、本機にはハーモニーを入力するためのモードが計7つも用意されている。例えばSTYLEはあらかじめ用意された16種類のプリセット・スタイルからパートごとにハーモニーを選択するモード。もちろんユーザーが任意のスタイルを登録することも可能だ。そのほかコード名でハーモニーを指定するCHORD、ルート音を外部MIDI鍵盤で指定してコードを認識させるMODALなどなどリアルタイムの使用を考えた多彩なモードが用意されている。ここで疑問が生じるのは“どうして7つものハーモニー入力モードが必要なのか?”ということだが、実際の曲中では元となるボーカルが細かく動いたり転調したりすることも多いため、リアルタイムで各パートに的確なハーモニーを指定するのはそう簡単なことではなく、また例えば外部鍵盤を使う場合でも、押さえた鍵盤を4つのうちのどのハーモニー・パートに割り振るのかといったことが実用上大きな問題となる。おそらく使い込んでみればこれら7つのモードのありがたみが分かってくるはずだが、最初はどのモードから始めればいいかさえも迷う人が居るだろう。そこで筆者が薦めるのはまずシンプルなPRIORITYモードで音を出してみることだ。特にDAWなどで既に録音されたトラックに対して本機でハーモニーを付ける場合には、MIDI鍵盤でダイレクトに音程を指定するPRIORITYが最も混乱の少ないモードだ。さらにシーケンサーにその演奏のMIDIデータを取り込むことで視覚的にもアレンジがチェックできる。このモードに十分慣れてから、各ボイスを独立したMIDIチャンネルでコントロールするMONOCHNなど別のモードへと移行するのがいいだろう。

ライブ使用時に便利な
マイク・アウト端子


そのほかの機能を見ていこう。本機にはマイク・インだけでなくマイク・アウトがXLR端子で用意されている。ライブ時はここからPAへとマイク・レベルで信号を送ることもできるので、従来通りコンプなどの処理をPA側に任せられる。さらにTrue Bypassという機能で、バイパス時にはマイク入力信号が内部回路を通らずにそのまま出力されるのが賢い。もちろんフォーン端子も装備しているので、ライン・レベルで処理を行うことも可能となっている。PROGボタンA/B(背面にはこのフット・スイッチ端子もある)は、押している間だけ別指定したサブパラメーターに切り替えることが可能。実際の曲中では部分的に移調したり、コーラスの動きを変えたくなる場合も少なくない。そんなときはこのサブパラメーターによって、キーやスタイルを一時的に切り替えるのが便利だ。実際の音の切り替わりもかなりスムーズである。またMIDI IN、OUT/THRUも装備しており、プログラム・チェンジやコントロール・チェンジ、システム・エクスクルーシブに対応。その気になればコーラス・パートを外部からかなり細かくコントロールすることも可能である。これだけの機能を備えた単体機としてはHV10は破格とも言える値段なので、性能面を心配する人も多いだろう。しかし通常の使用では処理の遅れは少なく、リアルタイムの使用も全く問題ない。ピッチの検出もスムーズでソースが弱音でもきっちり働いてくれた。ただ、さすがにマイク入力時には高級機に比べ少しS/Nが悪いかな?と思ったが、気になる人は外部マイクプリを用意してライン入力すればいいだろう。もちろん本機で人間そっくりのコーラス隊が作れるというわけではない。もし生声に近づけることに重点を置いて設計していたら、当然複雑な処理のために大きな遅延等が生じ、実用性は低くなってしまっていただろう。HV10はこの価格でリアルタイムに“使えるコーラス・パート”を作れる点が大きな魅力なのだ。ライブはもちろんア・カペラ曲のデモ作りなどの用途にも打ってつけだろう。本機が気になった読者は、まずは同社のWebページからプラグイン版のデモをダウンロードして使ってみるといい。基本性能は本機とほぼ同じだ。きっと“なんだ本チャンの録音もこれで十分だな”と多くの人が感じると思われる。
AKAI PROFESSIONAL
DecaBuddy HV10
オープン・プライス(市場予想価格40,000円前後)

SPECIFICATIONS

■ 入出力端子/マイク・イン(XLR)、ライン・イン(フォーン)、マイク・アウト(XLR)、ライン・アウトL/R(フォーン)、MIDI IN、OUT/THRU、フット・スイッチ×3
■ 入力インピーダンス/4kΩ以上(マイク・イン/エフェクト・オン時)、33kΩ以上(ライン・イン)
■ 出力インピーダンス/1kΩ以下(マイク・アウト/エフェクト・オン時、ライン・アウト)
■ AD/DA部/44.1kHz/16ビット、8倍オーバー・サンプリング(ΔΣ変調)
■ 外形寸法/483(W)×202(D)×43.7(H)mm
■ 重量/1.8kg