DSPによりシステムを制御可能なデジタル・アンプ搭載のニアフィールド・モニター

DYNAUDIO ACOUSTICSAir6

DYNAUDIO ACOUSTICSとT.C. ELECTRONICの技術の融合により開発されたAirシリーズは、“TC LINK”という独自のネットワーク・プロトコルを使用して、ステレオから6.1chサラウンドまでのモニタリング・システムを構築できるニアフィールド・モニターです。今回はシリーズの中から175mmのポリプロピレン・ドーム・ウーファーと28mmソフト・ドーム・ツイーターを搭載したAir6をチェックしてみようと思います。

DSPにより音質を細かく制御可能
アンプ部にはD級PWM方式を採用


Airシリーズは、システム・コントローラーとして使用するマスター機とスレーブ機のTC LINK端子を、Ethernetケーブルで接続してシステムを構築します。マスター機にはステレオ1系統分のAES/EBU入力(24ビット/96kHz対応)、ワード・クロック入力、TC LINK端子が付いており、オプションでステレオ1系統分のXLR端子が搭載されたアナログ入力用カードのAD-Air 24/96(85,000円)を装着できます。また、スレーブ機にはTC LINK端子のみを装備しています。システム全体は、DSPによりオーディオ信号とセットアップを一括してコントロールすることができます。各スピーカーのレベルを0.1dB単位で設定でき、ベース・マネージメント機能も装備、EQ、ウーファー/ツィーター間のタイミング、各スピーカー間の音色のばらつきなどを、アナログでは到達し得ない領域で細かく調整することが可能です。もちろん、各種の設定をプリセットとして記憶してしまえば一瞬で呼び出すことができます。操作は基本的にマスター機で行いますが、オプションのリモート・コントローラーAir Remote(27,500円)で、プリセットの読み書きや各スピーカーのミュート、ボリュームなども設定可能です。Airシリーズの音質面における最大の特徴は、コンシューマー向け製品でも一般的になりつつあるD級PWM方式デジタル・アンプを搭載している点です。これにより本機ではPCMデジタル・オーディオ信号をPWM信号(パルス幅変調)に変換し、デジタル処理で増幅するため入力信号を最終段のアンプ出力に至るまでアナログ増幅することなくスピーカーに送ることができます。また、通常のリニア・アンプ(A/AB級増幅のアンプ)の増幅効率が40〜60%程度なのに対し、D級PWM方式では90%程度と非常に高効率なので、製品自体の小型軽量化が可能で発熱も少なくできます。この方式は1980年代から存在はしていましたが、最近の技術の進歩により音質的にも十分な製品が作られるようになりました。このように、本機には従来までのパワードとは全く異なった原理のアンプが採用されているのです。では、実際に音を聴いてみようと思います。

設置場所に応じた設定が可能
フルレンジのような位相感を実現


今回はAir6のマスター機1台とスレーブ機1台というステレオ環境でチェックしました。いろいろな接続方法を試したのですが、クロック・マスターからワード・クロックを分配し、ソースがアナログのときは外部ADコンバーターを使用、デジタルのときは直接Air6のAES/EBU端子に入力する方法が良いようです。また、電源は100Vより120Vで使用した方が鳴り方が良くなりました。まず複数のCDを聴いてみたのですが、これまで聴いてきたスピーカーとは次元の異なる情報量、解像度、レスポンスの速さを体感でき、ステレオ・イメージで今まで見えなかった音や隙間がはっきりと立体的に見えました。次にマルチ素材をNEVE 8872に立ち上げバランスを取りながら、PositionというパラメーターとEQの設定を変更しながら聴いてみました。Positionは設置場所に応じた設定ができるパラメーターで、“Wall(壁際)”“Corner(角)”“C.Wall(コンソール上+壁際)”など6種類が用意されています。今回、Air6はNEVEの卓上に置いたのですが、“Consol(コンソール上)”が最も適しているようでした。また、EQはベースとトレブルを±6dB変更できるのですが、フラットの状態が最も良い鳴り方に感じました。これらのパラメーターを調整すれば、スタジオの構造の違いによる鳴り方や聴こえ方のバラツキを減少させることも可能だと思います。バランスを取りながら感じたこととして、ウーファー/ツィーター間のつながりやタイミングが非常に良いことが挙げられます。まるでフルレンジを聴いているような位相感です。そして、スピードも非常に速く、全帯域で音が飛んでくるような感じに聴こえます。EQやコンプなどをかけたときは音の上下や前後の動きが分かりやすく、リバーブやディレイをかけたときの音の動きや尾ヒレの付き方などもはっきり見えます。音量を変えたときのバランスの変化も感じられません。鳴り方や音色は好みが分かれると思いますが、これまで聴いてきたスピーカーとは比較にならない情報量、解像度、表現力を持っていますので、特徴を体で覚えてしまえば非常に良いモニタリング環境を構築できるはずです。本機は、コンピューター(Windows/Macintosh)を介してDSPのソフトウェアをアップデートすることも可能なので、音質や調整の幅、操作感などはさらに向上していくと思われます。そういう意味では、常に発展し続ける次世代のスピーカーだと強く感じました。久しぶりに“欲しい”と思えるスピーカーに出会った気がします。
DYNAUDIO ACOUSTICS
Air6
188,000円(マスター機/1本)
165,000円(スレーブ機/1本)

SPECIFICATIONS

■形式/2ウェイ・アクティブ・ニアフィールド
■キャビネット・タイプ/バスレフ
■クロスオーバー周波数/1,750Hz(DSP生成)
■作動電圧/100〜240V、50〜60Hz(自動切替)
■システム・サンプル・レート/内部サンプル・レート=96kHz、外部クロック・サンプル・レート=31〜97kHz
■マスター機入出力端子/マスター機AES/EBU入力(XLR)、TC LINK×3(RJ45)、ワード・クロック入力(BNC)
■スレーブ機入出力端子/TC LINK×2(RJ45)
■外形寸法/216(W)×338(H)×345(D)mm
■重量/9.8kg