アナログ16入力を備えた24ビット対応の32chデジタル・ミキサー

BEHRINGERDDX3216

デジタル・ミキサーも我々の手に届くようになって久しく、楽器屋の店頭に出現してから考えても第3シーズンを迎えた感がある。そんな時期に、意外にもこの分野への初参入というBEHRINGERからDDX3216が登場した。初登場という割には、既に海外では幾つかの賞を受賞したり、有名ミュージシャンや施設が導入しているなど、話題の面でも賑やかなようである。果たしていかなる実力を持っているのだろうか、気になるところだ。

視認性に優れた設計で
素早い操作が可能に


安価で信用できる製品を送り出すブランドとして注目されてきたBEHRINGER初のデジタル・ミキサーということで興味津々だったが、見た目/デザイン共にいかにも!というのがまずは最初の感想であった。気になっていた機種だったのでミーハーな気分でレポート記事を喜んで担当したが、なかなかどうして! 内容も、例えば宇宙工学の分野で蓄積されたノウハウを応用したSMD(Surface Mounted Deviceの略)テクノロジーや、ユーザーが簡単に行えるOSのアップデートなど、ハード面/ソフト面とも充実したコンポーネントとして確立されている。というわけで“音楽の道具”としての内面を早速チェックしてみよう。機能に入る前に、1つだけ、ミーハーなこだわりとしてデザインに注目したい。ダイナミクス系のアウトボードやアナログ・ミキサー等、音質や価格の上で注目を浴びていたこの会社の特徴をもう1つ挙げるとすれば、無骨ながらも整頓された、黒とシルバーを基調にしたメカニカルなデザインだろう。筆者が活動中のユニット(SOYUZ PROJECT)でも、この3つのポイント(笑)+使い勝手で同社の小型ミキサーをそろえて購入したほどだ。マニュアル冒頭の紹介文ではメカニック・デザインとしてINAとVOLKERという名前が見られるが、この2者のデザインも独創的なものが多い。どちらかといえば機能優先とも取れるのだが、不思議と使い勝手が良いのである。工業デザインにも通じるところがあるが、ここ数年は流線型を基調にし、削除しないでほしいものまで削除された近未来っぽいデザインが多い中、これがドイツのこだわりかと思うほど無骨なのにカッコイイのだ。もちろん、DDX3216にもその姿勢は十分にうかがえる。なおメーカーは高い技術水準と製品の確かさを表すのに、国際基準のISO9000認証のマネージメント・システムによる生産を挙げている。全体的には視認性に優れており、各フェーダーの横にあるレベル・メーターや、深い階層や煩雑なダブル・ファンクションを持たないスイッチ群、ディスプレイに対応したクリック付きノブ、LEDリングの付いたチャンネル・コントローラー等、素早く作業することが可能な設計となっている。

パソコンやPCカード経由で行える
OSやプリセットのアップデート


さて、肝心の機能面であるが、特徴として挙げられるのは各所に採用された専用のテクノロジー群であろう。詳しい内容は写真付きでWeb上(www.behringer.com)に展開されているが、コンバーターは入力にAKMの24ビットADコンバーターを、出力にはCRYSTALの24ビットDAコンバーターを採用している。また、DSP部は4つのANALOG DEVICES Sharcを搭載し、ほぼ無制限という内部ダイナミック・レンジを実現している。そしてALPS製の100mmモーター・フェーダーは、精度、静動性、耐久力に優れたものとなっている。OSのアップデートはRS232端子経由でのパソコン(Windowsのみ)上でのファームウェア・インストール、またはPCカードによって簡単に行える。最新版OSやエフェクト・プリセット等のライブラリー、関連ソフトウェアのダウンロードに加え、ユーザー用のフォーラム等も前掲のWebサイト上では展開されるようだ。これによって、時間的なロスやその間の悶々とした気分は幾分か軽減されることだろう。単純に、データ管理も煩雑でなくて良いのではないだろうか。ミキシング・セクションは、やはり独特の分離の良いクリアな音色だ。アナログ入力には、デフォルトの状態でインサーション・パッチを備えたフォーン+XLR入力端子が12系統、フォーンによるステレオ入力が2系統の計16系統用意されている。また、2trレコーダー用のRCAピン入出力も1系統搭載。各チャンネルに装備されたEQ、ゲート、コンプは効きも良く、EQのページには別個にハイパスが付いているのも気が利いたところだ。おまけに、各チャンネルにディレイまで付いていたのには驚いた。このディレイは位相合わせ等のために単に入力信号を遅らせるだけではなく、いわゆるエフェクトとしてのディレイにも使えるのがユニークだ。しかも、タイムを合わせるごとにそのタイムに対応したテンポが4分音符から32分音符まで横に表示されるのである。エフェクトは外部に4系統、内蔵のものにも4系統、独立して送ることが可能である。内蔵エフェクトも充実していて(表①)、リバーブやディレイなどの空間系、コーラスやフランジャーなどのモジュレーション系のほかに、歪み系やフィルター、ローファイ・ノイズなどの劣化系、リング・モジュレーターなど多彩で、それぞれA/Bの2種類の設定を呼び出して選択することができる。また、ルーティングも8つのSEND、16系統(8ペア)のバスを自在に組むことができ、もちろんオプションのデジタル入出力やAD/DAコンバーターと併せて組むことも可能。オートメーションについては、当然のことながら内部で制御されているパラメーターはほぼ全体的にカバーされており、ユーザーによって個人差はあるだろうが、比較的多めのムービング情報にも耐えられるようだ。フェーダーの分解能は256段階で、単純計算でも従来多くあった128段階のタイプよりも倍細かいニュアンスが設定できる。また、スナップ・ショットと呼ばれる、いわゆるシーン・メモリーのようなものも128シーンまでメモリーにライブラリーできるので、これと併用したミックスも可能だ。この際の複雑なグルーピングによるオート・フェードもスムーズで、従来のスタンダード・モデルで不満に思っていたことも幾つか解消されている。ただ、ライト後のデータ編集についての記述が見当たらないので、この点は今後のバージョンに期待するとしよう。もちろん、これらのデータもパソコンおよびPCカードに保存できるので、プロジェクトごとの管理さえしていれば本体内のメモリーがいっぱいいっぱいになる心配もない。

各種デジタルI/Oを装着可能な
拡張スロットを2基用意


リア・パネルには、MAIN OUTPUTS(XLR)、CONTROL ROOM OUTPUTS(フォーン)、MULTI OUTPUTS(ステレオ・フォーン)4系統、COAXIAL IN/OUT、MIDIインターフェース端子、RS232端子、SMPTE IN端子(XLR)、WORD CLOCK IN/OUT、それに拡張スロット2基が備えられている。拡張スロットにはオプションのインターフェース・ボードが装着されるわけだが、現段階ではADATインターフェースのADT1616(16イン/16アウト、オプティカル:43,300円)、TDIFインターフェースのTDF1616(16イン/16アウト、D-sub25ピン:43,300円)、AES/EBUインターフェースのAES808(8イン/8アウト、D-sub25ピン:45,900円)、コネクター・ボックスのACB808P(4イン/4アウト、XLR、AES808用19インチ・コネクター・ボックス:45,900円)が用意されていて、今後も続々発表されるようだ。筆者としては、ぜひともサウンド・ボードとしての拡張性も考えてほしいと思うのだが欲張りだろうか。シンク関係はSMPTEとワード・クロックを使うことが多いが、MTCにも対応。MMCにも対応しているので、シーケンス・ソフトからの操作も可能だ。MIDIに関してはパッチ・チェンジやコントロール・チェンジにも対応しており、MIDI機器からのリモート操作も可能だろう。

この価格帯でこのクオリティは
驚くべきことだろう


操作性は、視認性の件でも触れたように、煩雑な操作が無い分スピーディに作業ができそうだ。また、フェーダーのストロークやスライド感も、重すぎず軽すぎず、適度だと感じた。加えて、このコンパクトさと無駄の無いレイアウトに実用性も感じた。ちなみに外国機種の特徴としては、どちらかと言えばプレイヤーの立場に寄った設計が往々にして見受けられるのだが、このマシンも細かいレベルで言えばそう感じられた箇所がある。しかし、同時にかゆいところにも手が届く感じが、恐らくは使いやすいという印象になっているのだろう。今後のバージョン・アップが楽しみなところだが、ほどほどロジカルな部分ももう少し盛り込んでもらえると、より緻密なミキシング作業ができると思う。ユーザー・レベルでこれらのディスカッションをWebやメールで展開すれば、きっと愉快な機能も出てくるのではないだろうか。安価な割に良質な機材を提供するということは、ユーザーの意見交換と、その意見に耳を傾けるメーカーの良好な関係の結晶だと筆者自身も思っている。実際、開発スタッフの総指揮者ウリ・ベーリンガー氏も、自身のサインと共にユーザーズ・マニュアルの冒頭に同様の内容を寄稿している。対抗馬の多くなってきたこのジャンルも、生半可なオプション・サービスではたちまち劣勢に立たされてしまうだろう。その意味で、後は基本である音質や操作性に左右されると思われる。そうした判断基準からも、この価格帯でこのクオリティものができているというのは、驚くべきことであろう。そんな本機の活用法としては、ホーム・スタジオ、ライブ(演奏や録音など)など、さまざまなケースが考えられると思う。しかし、何度も言うようだがまだまだ惜しいところがあるので、筆者の願望も交え(笑)、ガンガンアップ・グレードしていってほしい。かなり興味があるマシンなので、今後を見守ろうと思う。

▲表① DDX3216の内蔵エフェクト



▲リア部。左からCONTROL ROOM OUTPUTS(LR)、MULTI OUTPUTS(ステレオ4系統)、MAIN OUTPUTS(LR)、DIGITAL COAXIAL I/O、WORDCLOCK I/O、SMPTE INPUT、RS232、MIDI IN/OUT/THRU端子。下段がデジタルI/O用の空きスロットだ

BEHRINGER
DDX3216
269,900円

SPECIFICATIONS

■入力インピーダンス/約1.5kΩ(マイク)、約16kΩ(ライン)、約20kΩ(ステレオ)
■最高入力レベル/+1dBu(マイク)、+24dBu(ライン)、+22dBu(ステレオ)
■SN比/95dB(マイク)、92dB(ライン)、86dB(ステレオ)
■等価ノイズ/−90dB(マイク)、−88dB(ライン)、−85dB(ステレオ)
■クロストーク/<−85dB(マイク、ステレオ)、<−90dBライン)
■出力インピーダンス/約160Ω(MAIN、MULTI、CONTROL ROOM)
■最大出力レベル/+16dBu(MAIN、MULTI、CONTROL ROOM)
■サンプリング周波数/44.1/48kHz
■ADコンバーター/24ビット、128倍オーバー・サンプリング
■DAコンバーター/24ビット、128倍オーバー・サンプリング
■外形寸法/約163(H)×438(W)×572(D)mm
■重量/約13.5kg