特許回路EQ-Magicを採用した8〜16chパラメトリックEQ

ORAMOcta-EQ

ORAM社のジョン・オーラム氏が名機TRIDENTコンソールの設計に携わっていたことは有名ですが、現在も積極的に多くの製品設計を手掛けています。今回紹介するOcta-EQもその中の1台です。完全アナログ回路の8ch EQということですが、その実力はどれほどのものなのか、早速チェックしてみましょう。

独自のスプリット機能により
最大16chのEQとして使用可能


本機は、ORAM独自のEQ-Magic回路を採用した8〜16ch仕様のEQです。 各チャンネルのEQは4バンドのパラメトリック仕様で、それが8ch分搭載されています。ユニークなのは各チャンネルにあるスプリット・スイッチで、これを押すとHI&LOWとHI MID&LOW MIDの2バンドずつに分かれます。この機能を使うことで、本機を最大16chのEQとして使用できるのです。また、各チャンネルには±20dBのゲイン幅を持った入力ゲイン、周波数固定のハイカット・フィルター、5Hz〜200Hzの周波数可変ローカット・フィルター、スプリット時のHI MID&LOW MIDのトリム、LEDによるクリップ表示も装備されています。このLEDはクリップする6dB前から光るので、光った途端に歪んでしまうという心配もありません。リア・パネルの入出力端子は、メインが+4dBのXLR、スプリット用がTRSフォーンとなっています。それでは、EQ部を細かく見ていきましょう。各バンドのブースト&カット量は±15dBと、十分なゲイン幅があります。HIでは12kHzと7kHz、LOWでは50Hzと150Hzの切り替えができ、カーブは双方ともシェルビングです。一方HI MIDとLOW MIDでは、HI MIDが1.5kHz〜15kHz、LOW MIDが150Hz〜2kHzまでと幅広く設定でき、カーブはピーキング・タイプとなっています。つまみのトルクはかなり重く、始めは回しづらいと思いました。しかし3Uスペースに8ch分のEQが内蔵された本機の場合、うっかり隣のつまみを触ってしまう場合もあります。これくらいの重たさにすることで、多少触れても動かず安心して使用できるような設計になっているのだと思います。また各ゲインつまみにはセンター・クリックがあるので、±0dBの位置が分からずにとまどうことはありません。

位相変化も少なく自然な印象
温かみと抜けを兼ね備えた音


では実際に使用しながら音を聴いてみましょう。本機では各バンドのQカーブ設定を変えることはできないのですが、実際に使用してみると多少カーブは広めに取ってあるもののその設定が絶妙で、自然に、しかも力強くイコライジングすることができます。このカーブならQが変えられなくても全く不便は感じません。質感的にはどの帯域をイコライジングしてもEQくさくならず、位相変化も少なく、温かみと抜けを兼ね備えた音を作りだすことができます。特に素晴らしいのが低域です。エレキベースにかけてもボワーっとブーミーにはならず、芯があって、ベースの弦の振動が伝わってくる感じがします。かなりブーストしてもベースのラインが分かり、輪郭も失いません。この質感と音はほかのEQではなかなか得られないでしょう。中域から高域にかけても音が硬くならず、自然な感じで音像を大きくブーストできます。HI MIDとLOW MIDのゲインには周波数の細かい表示が無く、どの辺りをブースト&カットしているか正確には分からないのですが、どこに設定しても音ヤセが無く厚みのある音になるので、周波数がどうのこうのと考えるより、耳で聴いた感じで設定するのが本機ではベストでしょう。またEQをバイバスしていてもインプット・ゲイン部は通っているので本機に入力しただけで音に厚みが出ています。詳細は資料がないので分からなかったのですが、このインプット回路はアナログ的で芯もまとまりもある優秀なもので、とても良質な質感が得られます。現在のレコーディングではデジタルMTRを使うことがほとんどです。それ故、ピークを抑えて録音するためにリミッターやコンプレッサーを多用したり、音を太くするために中低域をイコライジングすることがあります。それでもデジタル特有のアタック感は最後まで残り、結果として中高域の細いアタック音に締まりのない中低域が付く、2トーン風の音になりがちです。そのような場合に本機を使用することで、アタックを太くしつつ1つの音として芯を出すことができます。このような良質なEQを8〜16ch分も搭載した本機は、デジタル・レコーディングでは音の存在感がいま一つ足りないと思っている方に、ぜひ一度試していただきたい1台です。
ORAM
Octa-EQ
オープン・プライス

SPECIFICATIONS

■ 入力インピーダンス/10kΩ(バランス)
■ 出力インピーダンス/100Ω(バランス)
■ 全高調波歪率/0.005%(20Hz〜20kHz)
■ 周波数特性/20Hz〜73kHz(20Hz〜2kHz、偏差1.0dB、−3dB)
■ 外形寸法/483(W)×132(H)×210(D)mm
■ 重量/5.85kg