デュアル・トライオード管使用のシンプルな回路構成のコンデンサー・マイク

STUDIO PROJECTSTB1

STUDIO PROJECTSは米国カリフォルニア州の会社で、797 AUDIOという40年以上の歴史と実績のあるマイク・メーカーと手を組み、製造を行っています。今回紹介するTB1は同社T3の機能を限定し、コスト・ダウンを図ったモデルだと思われます。このマイク・メーカーおよびその製品の存在は知っていましたが、実際に音を聴いたり手に取って見るのは初めてです。僕は西海岸の音楽/機器メーカー(UREI、APOGEEなど)のサウンドは特に好みですので、ちょっと主観が入って音を聴き紹介してしまいそうです。では、早速チェックしてみようと思います。

シンプルでストレートな回路設計と
サウンドへの気遣い


箱を開けてみると、この価格でハード・ケースに収納されていることにまず驚きます。同梱されているのは本体のほかに専用電源、マイクと電源間をつなぐ専用ケーブル、マイク下部に取り付けるプラスチック製のホルダー、そしてACケーブルです。このホルダーには不安を感じましたが、後述のようにチェックしていく間にこのような仕様にしたメーカーの意図と決断に感心しました。本体を手に取ると、結構な重量があり仕上げも繊細でしっかり作っている感じです。マイク本体にはスイッチが無く、専用電源にも電源オン/オフのスイッチしか付いていません(パッドやローカットは装備されていません)。至ってシンプルです。資料によると、デュアル・トライオード(双三極)管を使用した回路、余分な脚色とノイズを排除したシンプルな基板デザインが本機のポイント。まず真空管ですが、6072という軍事/医療など専門分野のために開発され、経年変化が極力少なくなるように製作された12AY7の高信頼管を使用しています。簡単に言えばホスピタル・グレードみたいなものです。この球はAKG C12、C24、C28などに使用されており、サウンドや実績についてはご存じのことでしょう。また基板のデザインは、単一指向性のみにすることで部品数が減り、プリアンプの回路構成がとてもシンプルです。これにより部品のキャラクターがサウンドに付加されることを最小限に抑え、故障の発生も減少させています。上記のことから球自体のサウンド・キャラクターが前面に出る回路設計になっていると思われます。専用電源も同様にレギュレーターを使用したシンプルな回路構成で、部品数も少なく必要最小限の回路に見えます。そしてこのケースにはチョットした気遣いがされており、電源トランスと基盤との間に1枚の鉄板が入っています。これが意外に大切で、トランスのリーケージ・フラックス(漏れ磁束)の影響が電源回路に出ないようになり、“ブーン”“ジー”というノイズを防いでいます。そして1インチのダイアフラムは、基板およびケースからゴムによりフローティングして取り付けられてます。これを確認したとき、あのマイク・ホルダーで十分だという訳が分かりました。徹底的なコスト・ダウンを図っていても、シンプルでストレートな回路設計とサウンドへの気遣いに、このメーカーの意図がはっきり伝わってきます。

レスポンスは速く
中低域に密度のあるサウンド


前置きが長くなりましたが、実際に音を聴いてみます。NEVE 8872マイクプリに立ち上げて音を聴いてパッと思い浮かんだのは、レスポンスの速さでした。ダンピングが良いと言いますか。まさに、“シンプル・イズ・ベスト”という感じです。初めてMASTERING LAB社製のマイクプリを聴いたときの感覚に近いものを感じました。なお、最近の球を使っているためヒートアップには時間がかからないようで、電源を入れて30分/1時間と聴いてみても音の差は分かりませんでした。肝心のサウンドは、高域はC12によく似ていると感じました。聴感上高域が全体的に持ち上がっている感じなので、痛いピーキーな感じではなく、心地良い印象です。または、PULTECのEQで高域を上げた感じに近い気がします。また、低域は下まで伸びていますが、中低域に多少の膨らみと言うか密度の濃さを感じました。そして超低域が自然にロールオフしている感じですので、冷蔵庫など低周波を発生する機器がある自宅のような状況では使いやすいのではないでしょうか。しかし中低域が濃い分、細くは感じないと思います。実際にボーカルやピアノに立ててみて、音源に対しいろいろな距離にして聴いてみました。オンのときは音源が若干デフォルメされ派手な感じで聴こえ、オフのときの音はしっかりとした遠いクリアな音に聴こえました。立てる位置により、かなりの音色の変化が得られると思います。また近接効果が若干多めに感じましたので、基本的にはオフめの方が特徴を生かした収音が可能でしょう。入力感度は高く、NEUMANN U87に比べ聴感上10dBくらい上がって聴こえ、SONY C-800Gと同等のように感じます。S/Nも実用上全く問題が無いレベルです。ただ本体にパッドが付いていないため、大音量のものを収音するときには外付けのパッドがあると便利だと感じました。耐圧は128dBとそれほど高くはありませんが、キックにベタ付けなどしない限り問題は無いでしょう。今回は試せませんでしたが、ドラムのオーバーヘッドや近接効果を利用したギター・アンプへのベタ付け、細い声のボーカルなどに使用してみたく思いました。高級機と比べると表現力等が劣る感じは否めませんが、本機は音源をぐいっと1歩前に出してくれるようなインパクトのあるキャラクターを持っていますし、音源に対してのレスポンスの速さもあります。何かもう一味欲しいときに使用してみたいと感じました。この値段でこのサウンドは素晴らしいでしょう。余談ですが比較的入手しやすい球を使用していますし、交換も容易なケースなので、真空管を替えて使用するのも面白いと思います。かなりの音色の変化が期待できるでしょう。
STUDIO PROJECTS
TB1
66,000円

SPECIFICATIONS

■ 指向性/カーディオイド
■ 周波数特性/20Hz〜20kHz
■ 感度/25mV/Pa(−32dB re 0dB=1V/Pa)
■ 出力インピーダンス/<250Ω
■ 最大SPL/128dB SPL@1kHz、<1%THD
■ SN比/78dB
■ 外形寸法/50(φ)×210(H)mm
■ 重量/約600g