オールマイティに使えるフルディスクリート型コンデンサー・マイク

NEVATONMC51

今回は、純ロシア製のマイクロフォンNEVATON社のMC51をレポートします。NEVATONというメーカー名を知っている読者は、恐らく少ないと思います。かく言う私も、初めて目にしたメーカーですから。ロシア国内では、性能/実績/価格ともにトップ・クラスに位置しているメーカーとのこと。その中でもMC51は、スタジオ仕様プロフェッショナル・レコーディング用のフルディスクリート・コンデンサー・マイクで、NEVATONの最高グレードのマルチパターン・マイクです。しかも最近のコンデンサー・マイクにおけるローコスト・モデルとは、ひと味違うワンランク上の価格帯です。恐らく、旧ソ連時代(旧国営事業企業)から受け継がれた、高いレベルの技術が投入されていることでしょう。それでは早速、MC51の実力を試してみましょう。

4種類の指向性を切り替え可能
内部にアクティブ・ドライブ回路を搭載


まず外観からです。ダイアフラムが収納されているヘッド部分は、コンデンサー・マイクの定番、NEUMANN U87とほぼ同サイズ(外周51mm)ですが、その下のボディ部分は外周30mmほどの細い円筒形となっています。カラーリングは、つや消しの黒っぽいグレーです。考え過ぎかもしれませんが、軍用色(?)のイメージが若干感じられます。それほど多くの種類は知らないのですが、ロシア製のマイクはこのような色合いが一般的なのかな? 仕上げ具合は、少しざらついた手になじむ触感。スクリーン・ネットの目はかなり細かく、加工も丁寧に仕上げられています。また、最高グレードのマイクロフォンを象徴する、高級感漂う木箱に納められています。大まかな仕様ですが、1/2インチ(約13mm)の2枚のダイアフラム(前・後)の組み合わせで、指向性は無指向/双指向/単一指向/広めの単一指向(wide cardioid)の4タイプ。その切り替えスイッチと、−10dBのパッドを本体上部側面に、ロータリー・スイッチにて装備。パターン切り替えには真空管時代の設計を受け継ぐ、高電圧供給式(内部に直流高圧化コンバーター搭載!)が採用されています。また、内部の回路はトランスレス仕様ですがアクティブ・ドライブ回路搭載、完全フルディスクリート設計となっています。コンデンサー・タイプのマイクなので、外部からのファンタム電源(DC48V)の供給が必要となります。なお、ファンタム電源供給時、マイクロフォンの正面部分で赤のLEDが点灯します。

優れたSN比を実現
バランスのとれた自然な音質


それでは、実際に音を聴いてみましょう。今回は、スタジオで定番のコンデンサー・マイク、U87と真空管マイクのU67、U47の計4本を並べての試聴です。まず、単一指向性でのチェック。それぞれのマイクで順番に聴き比べましたが、無音状態でのSN比は歴然とした差が出ました。ほかのマイクは恐らく10年以上(真空管マイクはそれ以上)経ているので、経年変化等も考えられますが、最初にハッキリと分かるほどの違いでした。次にストレート・ボイス・チェック(男性)。普通の声(しゃべり声)では、特性の大きな差は感じられませんでしたが、SN比の差でしょうか、輪郭がより"クッキリ"と感じられました。大きな音、特に"破裂音"でのチェックでも、他のマイクに比べてヘッド・ルームの余裕を感じますし、−10dBのパッドも装備しているので、ほとんどの現場で問題なく使えることでしょう。逆に極オン・セッティングでのウィスパー・チェックでは、少し近接効果の影響が多めに感じられましたが、子音が強調され過ぎることもなく、使い勝手は良さそうです。アコースティック・ギターと女性ボーカルでのチェック(セッティングの都合上U87との聴き比べ)も行ってみました。アコースティック・ギターでは分離や抜けがよい音で、アルペジオ等の音量差のある場合は、特にバランスの良さや粒立ち/明瞭度の良さが感じられました。女性ボーカルも同様の印象でしたが、一部のマイクにある低域の量感が減った感じや、高域が妙にエンファシスされている抜けのよさではなく、低域から高域までのバランスがよくとれていました。とにかく"自然な音"といった印象を強く感じました。指向性(通常の単一/双/無)を変えてのチェックでも、特にキャラクターの変化は感じられませんでした。もちろん部屋等による間接音のバランスは変わりますが。面白かったのは、MC51の特徴的な指向性、広めの単一指向(wide cardioid)です。スイート・スポットが広めになっているので、歌いながら、あるいは演奏しながら動いちゃう人(踊りながら?)とか、同時に多くの楽器、例えばパーカッションを録音するときなどには、使いやすいかもしれません。ただ、気を付けなくてはいけない点として、この指向性では、かぶりや外部のノイズの影響も普通の単一指向性よりも多いことです。真後ろもある程度、収音されてしまうので、注意しないと意外な音/ノイズが録音されてしまいます。全体的な傾向としては、オールマイティな状況に対応できる製品です。例えばU87のように、ボーカルからドラム、ブラス、弦楽器等あらゆる録音現場での使用を想定して開発されたマイクロフォンでしょう。しかも、現在のワイド・レンジで高感度、ハイレートのデジタル・シチュエーションにも対応できるスペックです。NEVATONでは、同スペックのステレオ・タイプであるMC47もラインナップされています。正直な話、私自身がロシアに対してのポジティブ・イメージが少なかったことと、あくまで個人的にですが外見にあまり魅力を感じなかったので、今回チェックしてみて、そのスペック/実力に驚かされました。とは言っても、宇宙ステーションを造れちゃう技術力を持っている国ですからね。このディスクリートの超最高級システムの実力。ロシア恐るべし!
NEVATON
MC51
153,000円

SPECIFICATIONS

■周波数特性/20Hz〜20kHz
■指向性/単一指向性、無指向性、双指向性、単一指向性(ワイド)
■入力感度/12±2mv / Pa
■ノーマル・インピーダンス/50Ω
■Recommended Load Impedance/1,000Ω
■自己ノイズ換算レベル/17dB
■最大入力許容音圧/140dB(−10dBパッド使用時は150dB)
■電源/ファンタムDC(48V±4V)
■消費電力/10.0mA以上
■サイズ/ヘッド51(φ)mm、ボディ30(φ)×219(H)mm
■重量/440g