高域特性に優れたハイエンド2ch真空管マイク・プリアンプ

MILLENNIAM-2B

ソリッドステート回路のマイク・プリアンプHV-3シリーズや、真空管回路とソリッドステート回路の切り替えが可能なアウトボードTwin Topologyシリーズなど、個性的な製品を送り出しているアメリカのメーカーMILLENNIA。最近では本誌の「New Products」コーナーや広告で目にする機会も増えていたので、気になっていた読者も多いのではないでしょうか。筆者も展示会などで注目していた1人です。今回はそんなMILLENNIAのラインナップの中でも、特に個性的な製品である2ch真空管マイク・プリアンプM-2Bについてチェックしていきたいと思います。

高級感あふれるぜいたくな作り
ゲインに影響されない安定した音質


マイク・プリアンプは、エンジニアが非常にこだわりを持つ機材の最たるものだと言えるのではないでしょうか。エンジニアは、基本的に音源に近い機材ほど、つまり音の入り口こそが大切なポイントだと考えるからです。マイクが音を電気信号に変え、それをマイクプリが増幅するわけですから、レコーディングのすべてがここに集約されているとも言えます。最近では、DAWの普及に呼応するように各社からさまざまなマイク・プリアンプが発表されていますが、これは簡便性を追及するあまりおざなりにされてきた"音の基本"にもう一度立ち返る姿勢の表れではないかと感じています。早速箱を開けてみると、まず始めにその大きさに驚かされます。同社のソリッドステート・マイクプリHV-3D-8では2Uサイズに8ch分のマイクプリを収めているのに対し、本機では同サイズに2ch分しか無いのですから、ぜいたくな作りだと言えるでしょう。また、その光沢を持った黒いフェースも高級感を感じさせます。筆者は常々"機材の見た目と音は一致する"と考えているのですが、まさにM-2Bは期待させる面構えをしています。各スイッチやゲイン・トリムつまみも、その手ごたえに安心感を覚えます。特に、このゲイン・トリムつまみには適度な重さがあり、細かいレベル設定もスムーズに行えます。このつまみの感触はMILLENNIA製品に共通のものですから、デザイナーのこだわりを感じさせてくれます。非常に好感が持てるポイントです。操作は至ってシンプルで、このゲイン・トリムと2段階のゲイン・ブーストが可能なスイッチがあるだけです。これらを使って適切なゲインに設定するわけですが、ゲインの大小による音色変化がほとんど無いところが気に入りました。素早い設定が可能だと言えます。もちろん48Vファンタム電源や位相反転スイッチも装備し、大抵のマイクに対応できます。

スムーズに伸びる高域と
低域の押し出し感を同時に獲得


では実際の音をチェックしてみましょう。今回はマイクにNEUMANN U87Ai、B&K 4003、AKG C12Aを使い、女性ボーカルとギター・アンプの音を録音して聴いてみました。まず全体的に感じるのが、高域の伸びが非常に特徴的だということです。元の音源にブライト・スイッチを入れたような感触とでも言うべき、音の張りが得られます。真空管機器のだいご味といえる感触が、ここにあります。また、一般に高域が伸びると低域が削られるように感じることが多いのですが、本機ではむしろ低域の押し出しも増しています。これは、高域特性がピークを持つことなく、スムーズに伸びているためでしょう。これにより、音の奥行き感を犠牲にすることなく、音源を前に押し出す感覚を得られました。これは、マイクに対する今までのイメージが一新されるかもしれないほどの変化だと思います。筆者が今回特に気に入ったのは、B&K 4003を使って録音したものです。このマイクは無指向性のマイクで、周波数特性がフラットであるという特徴があり、筆者は音の全体像をとらえたい音源に対して好んで使っています。しかしフラットな特性であるがゆえ、たくさんの音源の中に入ると埋もれやすくなることが多かったのですが、今回M-2Bを使って録音した音源ではフラットなイメージを残したまま、女性ボーカルのハスキーな部分をオケに埋もれることなく存在させることができました。B&Kを使うというアイディアは、本機のオプションとして130Vファンタム電源が供給できるB&K(DPA)用マイク・インプット・ボードがあることから思い付いたのですが、非常にうまくいったと思います。残念ながら、今回はこのオプション・ボードを試すことができなかったのですが、直接入力した音もぜひ聴いてみたいと思いました。入力された音に対して、極力色付けすることを避けたという設計思想は、マイクのキャラクターだけでなく、音源に対しても新しい位相を与えるものとなっています。またこれらの特徴は、単にチューブ・マイクプリであるから得られるものではなくて、冒頭にも書いた本機のサイズから見られるぜいたくな回路設計から生み出されるものだと言えそうです。最近のデジタル機器のハイサンプリングの流れは、音源を誠実に記録するためのものだと言えます。そんな中、今回のM-2Bに見られる、ある種時代に逆行するかのようなこのサイズと回路から生み出される音は、今の時代に最も必要とされるものではないでしょうか。

▲リア・パネル。ブランク・パネルはオプションのDPAインプット・ボード用のスペース

MILLENNIA
M-2B
オープン・プライス(市場予想価格530,000円前後)

SPECIFICATIONS

■最小ゲイン/14dB
■最大ゲイン/50dB
■周波数特性/4Hz〜130kHz(+0/−3dB)
■最大入力レベル/+20dBu
■最大出力レベル/+35dBu
■外形寸法/483(W)×305(D)×89(H)mm
■重量/9.7kg
※オプション/DPA用インプット・ボード:33,000円(1ch分)