コンパクトで取り扱いも簡単な入門者向けチューブ・マイク・プリアンプ

BELLARIMP105

BELLARI(ベラーリ)は1995年にハーフ・ラック・サイズのデュアル・チューブ・マイクプリRP220でデビューした、比較的新しいアメリカのブランドだ。親会社のROLLSは1989年に誕生した音響機器メーカーで、その後コンパクト・エフェクターなどを販売するRFXブランドを発足したり、ROLLSブランドでも“スモール・ボックス・シリーズ(1/4U幅の4chミキサーほか、多数あり)”などを販売しており、ユーザーのリクエストに細かくこたえた便利ツールを生産している。

今回紹介するのは、そのBELLARIの中でも最も安い価格帯の新製品、真空管入門者向けマイクプリのMP105だ。MP105の箱には“Hand Crafted”と、手作りであることを強調して書いてある。その辺の設計者の思いや心配りも読み取りつつ、この新製品を厳しくチェックしていくとしよう。

倍音の付加具合が心地よく
丸いけれどもソリッドな印象


デスクトップ仕様の真空管マイクプリと言えば、思い浮かぶのがART Tube MPやDBX Mini Preといった製品だが、後発で小型マイクプリの競合商品に加わるこの製品は、他社の製品群と大きくコンセプトが違う。MP105は、たった2本のネジを外すだけで、12AX7規格の真空管を簡単に交換でき、音色や特性を変えられる。真空管を交換できるとなると、製品のキャラクター付けを放棄しているのではないか?と筆者は考えた。設計者は、“真空管を選んで音色を自由に楽しんでほしい、回路に興味を持ってほしい”と、この製品にこんな思いを織り込んだのかもしれない。近年のブラック・ボックス化された回路を見たところで、どういった仕組みか分からず、何の興味も興奮も覚えない。しかし、このMP105程度ならケースを開けて回路を見れば自分でも作れそうな気さえしてくる。真空管と手作りのシンプルな回路の音の良さ、自作やカスタマイズする楽しさをユーザーにも一度味わってほしいという狙いを持った製品なのかもしれない。しかし、音色チェックはまず製品仕様のチューブのままで行うことにする。出荷時の真空管で試した全体的な印象は、サブネーム通りのラウンド・サウンド。丸いけれどもソリッドな印象もある。ギター・バンド・サウンドにもとてもよくなじむはずだ。まずは、スタンダードなSHURE SM58をつないでみた。倍音の付加具合がやはりチューブだ。根本的に優しく気持ち良い。全体的にスマートでソリッドな音がしていると思う。次に、FENDER JazzBassを直接挿してみた。入力インピーダンスがあまり高くないのでDIを経由した方が良いだろう。次にアナログ・シンセを試したところ、パッドを入れるのを忘れて過大入力で歪ませてしまったのだが、それが程よいサチュレートで好印象だった。軽く歪ませると中低音域が出てくる感じで、程よく歪ませると、中、低音の実音は柔らかく、荒い歪みの成分が近年聴かないアナログ・カセット・テープのようなのだ。倍音が付加されとても気持ち良かった。

真空管の交換も手軽に行え
音色の変化が楽しめる


筆者も12AX7を持っていたので交換してみた。SOVTEK(付属品)のほかに、PHILIPS、TELEFUNKEN、東芝製と、次々に試してみるが、どれもこれも面白い音がするのがたまらない。音色が随分変わるのだ。冷たい音がするもの、温かく丸い音がするもの。歪み方も違う。バリバリと歪むもの、早い段階からモワモワと歪むもの。幾つかの真空管を皆さんにも試してもらいたいため詳細は控える。ところで、熱くなった真空管の交換には軍手などを使ってやけどには十分気をつけてほしい。電源を切ってからしばらくは放電を待った方が、球にも機材にも優しいだろう。製品仕様は、アンバランス・フォーン、XLRバランス端子が入出力それぞれにあり、−37dBのパッド、バランス入力だけに効く位相切り替え、48Vのファンタム電源が装備されている。ボリューム関係は、微調整の入力ゲインと−∞〜±0のマスター・レベルのみとシンプルだ。ただ問題が1つ。ゲインは−5dB程の変化しか無いためほとんど機能しないのだ。これは楽器の出力で調節、判断するしかないだろう。最大出力は+18dBuだが、マイク・プリアンプのゲインを上げ過ぎると真空管で歪む場合があるので、+4dBu(0VU)入力の録音機には少々出力が低かった。実際歌録りにはほかのコンプレッサーが入るため大丈夫だとは思うが、歪ませないようにする注意は必要だ。−10dBvの入力レベルの機器につなぐのが無難だろう。その方が歪み始めるまでのヘッドルームに余裕ができるため扱いやすいと思う。余談だが、BELLARIのほかのラインナップのデザインにも、筆者は非常に興味を持った。それらのフロント・パネルのチープでポップなデザインは1950年代のアメリカのファッションのようにキュートだ。ぜひみなさんも、本国のWebサイトを探して、興味を持ったなら代理店にリクエストをしてみては。こんなデザインのアナログ機器がラックに並んでいたら、気持ちがなごんで、作業もきっとはかどることだろう。
BELLARI
MP105
25,800円

SPECIFICATIONS

■入力インピーダンス/600Ω/100KΩ(XLR、パッドON時)、10kΩ(フォーン)
■出力インピーダンス/50Ω
■SN比/88dB以上
■周波数特性/20〜25kHz±3dB
■外形寸法/155(W)×140(D)×75(H)mm
■重量/730g