MIDIシーケンサー/HDR/デジタル・ミキサーが一体化したワークステーション

TASCAMSX-1

ハード・ディスクというメディアを含む、ハード・ディスク・レコーダー(以下HDR)の高性能/ローコスト化や、24ビット/96/88.2kHzでのオーディオ・データの処理、さらにムービング・フェーダーの採用によるデジタル・ミキサーの発展など、さまざまな経緯を経て発展してきているレコーディング機器。ミキサー一体型HDRもここ1年ほどで当然のようにそれらを装備するようになり、凄まじい勢いで進歩している。また、操作性においてもPCベースのDAWに比べ、ミキサー一体型HDRはソフトの違いによるコントロールやエディットでのキーボードのショートカット・コマンドなど相違がなく、PLAYやRECなどのようにそれぞれ専用のコマンド・ボタンによって操作するという作業の分かりやすさも魅力だ。DIGIDESIGN Pro Toolsなどでみられるように、ProControlやMACKIE. HUIなどのフィジカル・コントローラーがもてはやされているのも操作を直感的に素早く行えるためだろう。

では、なぜPCベースのDAWがこれほどもてはやされているのか? 私を含め9割近くの人間が答えるであろう意見は、波形編集やフレーズのコピー&ペーストなどのエディット面において、ミキサー一体型HDRに比べてDAW環境の方が圧倒的にモニター画面が大きく見やすかったり、さまざまなエディット・ページを開いておいてエディット・ファンクションにすぐにアクセス/実行できるということだろう。今回、紹介するTASCAM SX-1はミキサー一体型HDRと呼べる機種ではあるものの、SX-1自体がホスト・コンピューターであり、オペレーティング・システムにBeOSを採用し、VGAモニター(別売り)を接続することによって本体液晶画面と2つのグラフィカル・ユーザー・インターフェースで柔軟な使い方が可能となっている。例えばMTRのロケーティングやEQ、コンプなどのエディットやミックス・ダウン時のフェーダー操作はSX-1本体で行い、フレーズなどの細かいエディットや編集はVGAモニターの画面上でDAWソフト感覚で行うといったように、非常にぜいたくな使い分けができるのだ。このようにミキサー一体型HDRとPCベースのDAWの良いところだけを使ったような感覚で作業を行えるのである。このほかに128トラックMIDIシーケンサー、ミックス・ダウン(マスタリング)機能、CD-R/RWドライブの装備といった録音からCD作成までのスタジオ機能に必要なものすべてが装備されているとんでもない代物で、ミキサー一体型HDRと呼ぶには軽々しすぎるモンスター(?)ワークステーションだ(なお、今回のチェックには外部VGAモニターとキーボードとマウスを使用している)。

BeOS採用により
高速化された処理速度


まずは、BeOSについて簡単に説明しよう。BeOSとは、1998年ごろAPPLEの開発責任者だったジャン・ルイ・ガセーがAPPLEを退社後に興したBE INC.社で開発された、全く新しいOSだ。開発当初は動作するプラットフォームがBeBoxとPCIアーキテクチャーを採用したPowerMacintoshとその互換機、それとAT互換機だった。その後、OS普及のためPentium互換マシンにバンドルして売り込むという方針を採るなど、現在ではハードウェアの埋め込みOSとしてさまざまなメーカーが採用している。最近では一般になりつつあるデュアル・プロセッサーのパソコンなど、複数のプロセッサーを扱うことが得意なBeOSのウリには、何といっても処理速度の速さ、軽い動作、マルチタスク環境のサポート、大容量のデータの扱いなどが挙げられるだろう。SX-1のような多くの処理を必要とするシステムや複数のアプリケーションを起動させる環境には最適なOSなのだ。SX-1を実際に触れてみれば分かるが、グラフィカル画面での編集や、ページの呼び出しなどのレスポンスが非常に良く、ストレスを全く感じない。また、OSレベルでFAT、HFSなどのファイル・フォーマットを扱うことも可能だ。

高度な編集機能も備えた
MIDIシーケンサー部


SX-1の内蔵MIDIインターフェースの入出力端子は1系統のMIDI IN、4系統のMIDI OUT、そして外部MIDIタイム・コード受信用に設けられた単独1系統のMTC INが装備されている。これにより、外部同期シンクのためにMIDIポートを使うことなく、独立した64種類のシンセ/サンプラー音源を鳴らせるわけだ。MIDI記録トラック数は128もあり、分解能は♪=960。また、HDR一体型のプラットフォームなので、内部HDRとサンプル精度で完全な同期でデータを記録する。例えば、タイミングにシビアなドラムなどの打楽器にトリガーを装着してデータを記録する場合、今まではパソコンからシリアル端子やUSB端子を介してMIDIインターフェースを経由していたためにどうしてもレイテンシーが生じ、再生時にデータを前にシフトするというダブル・アクション的な作業をしていた。しかし、SX-1ではほとんどといっていいほどデータのレイテンシーを感じなかったので、微妙なプレイのピアノの記録などにも便利だろう。今回のテストではほとんど外部VGAモニターを使用したということもあるが、SX-1すべてのオペレーションの扱いは非常に簡単だ(MIDIの記録再生/エディットに至るまでもそうだった)。パソコン上のDAWを扱っている人ならマニュアルなしでも操作できる項目が多いだろう。トラック画面上144個あるスロット(トラック)のうちの16スロットが表示されていて、任意のスロットのヘッドフォン・マークの右横にあるプルダウン・メニューの中からNew MIDI Takeを選択すると鍵盤のマークが表示され、MIDIデータを扱う準備が完了したことが確認できる(その右横にはトラック・ネームがあり、任意に名前を付けられる)。さらにその右横がMIDI IN/OUTのソースだ。初期設定ではMIDI INはOMNIが選択されているが、これはプルダウン・メニューの形式になっているので任意に選択することが可能だ。MIDI OUTも同じで、4つのMIDI OUTポートA〜D、チャンネル1〜16をプルダウン・メニューによって組み合わせられるようになっている。あとはスロット番号の右にあるR(Rec)ボタンをクリックすればいつでも記録することが可能だ。当然ながら外部モニターを使わずSX-1本体でもこの設定ができる。特に私が気に入ったのはチャンネル・フェーダー上部にあるFADER BANKの8つのボタン群の中にMIDI A〜Dという4つのボタンがあるところ。例えばMIDI Aというボタンを選択すると1〜16本あるチャンネル・フェーダーとパンやREC/ミュート・スイッチがMIDIチャンネル順に割り当てられ、現在MIDI OUT A端子に接続されたMIDI機器のREC SAFE/READYの切り替えやボリューム(コントロール・チェンジ上)、パンなどが設定可能。これらをシーン・メモリーで管理しておけば、わざわざ複数の音源類をストアすることなく設定を呼び出せるわけだ。エディット性も非常に快適で、パソコン・ベースのMIDIシーケンス・ソフトで行える高度な編集は大半ができると言っていいだろう。トラック画面上で下部にあるポップアップ・ウインドウのPianoRollを選択すると、鍵盤を縦にした図の横に打ち込んだデータがグラフィカルに表示される(画面①②)。STEINBERG Cubase VSTやMARK OF THE UNICORN Digital Performerのグラフィック・エディティング・ウィンドウと似た感じで、エディットが必要な部分を選択(反転)させてEdit Operation(プルダウン・メニュー)の中からクオンタイズやシフトなどの必要なエディットを行う。また、シーケンスはテンポ・マップにも完全対応している。
▲画面① 外部VGAモニターでのトラック画面では144あるスロット(トラック)のうち16個分のデータをグラフィカルに表示する。右横のスクロール・バーで1〜144の任意のスロットを表示し、画面下部のポップアップ・ウインドウではさまざまな設定が可能。画面上に設定されているのはPianoRoll画面で、MIDIのエディットが容易に行える
▲画面② 本体LCDのMIDIトラック画面。本体LCDパネル上では、LCDパネル右にある9個のボタンとLCDパネル下にある4つのポッドつまみを使い各パラメーターをコントロールする 

24ビット/96kHzに対応した
16トラックHDR部


SX-1のHDR部は16トラックとトラック数的には少々物足りない気もするが、24ビット/96/88.2kHzにも対応しており、そのほかにも素晴らしい機能を備えている。例えば16ビットと24ビットのオーディオ・ファイルの共存や、48kHzと44.1kHzの異なったサンプリング周波数のファイルが共存できるプレイバック時のサンプリング周波数コンバーターの装備だ。現在ではさまざまなセッションにおいてCD-Rなどのメディアを使い、オーディオ・ファイルでデータのやりとりをするケースが増えてきている。そこで頭を悩ますのが、お互いの作業環境によって違ってくるさまざまなフォーマットの相違だ。せっかく自分が24ビット/48kHzで作業をしていても、無造作に渡されたデータが16ビット/44.1kHzであったら元も子もない。どちらかのファイルのサンプリング周波数をコンバートすればいいのだが、SX-1には異なったサンプル・レートやレゾリューションを自動的にコンバートする機能があるので、上記のような悩みを気にせずにデータのやりとりができるわけだ。MIDIデータの取り込み同様にオーディオの録音再生の設定も非常に簡単で、New MIDI Takeを選ぶか、New Audio Takeを選ぶかの違いくらいで、操作方法もほとんど一緒だ。録音までの設定は、やはり外部モニターとキーボードを使用した方が分かりやすく、作業は速い。トラック・ネームをつける際もキーボードによってテキパキと作業が進められる。DAWシステムでは当たり前となっているが、インポート機能(クリップ・ブラウザー)があるのも特徴的だ。内蔵CD-R/RWドライブでオーディオCDや別プロジェクトからファイルを読み込むことが可能。さらにUltra Wide SCSI端子も装備しているので、外部ハード・ディスクによるオーディオ・ファイルの読み込みができ、Pro ToolsなどのDAWとのデータ共有が可能だ。ちなみに、ディスク・フォーマットはFAT-32(Windows)/HFS、HFS+(Macintosh)/BFS(BeOS)、ファイル・フォーマットはBWF(Windows)/SDII(Macintosh)に対応している。録音されたオーディオの編集もMIDI同様にさまざまなエディットが行える。本体のコマンド・ボタンと液晶パネルでも実行できる(画面③)が、やはり別体のVGAモニターとマウス、キーボードを使用しての作業の方が快適だった。普段、私はDAW環境であるDigital Performerをメインに使っているが、これといって苦戦することなくいろんなエディットを行えた。例えばイントロ部分にソロ・パートをかぶせたいときのようなカット&ペーストの作業の場合、単純にソロ部分のポイントを、画面上の波形表示をマウスで反転させてコピー(alt+C)。任意のポイントでクリックしてペースト(alt+V)すればよいのだ。楽曲がオン・シーケンスであれば、グリッド機能により、小節や拍頭でのキチンとした編集が行える。
▲画面③ 本体LCDのトラック。画面②同様、本体LCDパネル上ではLCDパネル右にある9個のボタンとLCDパネル下にある4つのポッドつまみを使い各パラメーターをコントロールする トランスポート・コントロール部も非常に気の利いた仕様になっている。例えばトランスポート・ソロ機能は、ミキサーでいうところのソロと役割が似ていて、内部HDRとSX-1のMIDIシーケンサーで動作中の外部MIDI機器(SEQ)と外部HDR(EXT)のそれぞれをソロとして選んでSX-1のトランスポート・ボタンから単独走行させることができる。これにより“今、MIDIではどんなバランスになっているか?”や“外部HDRの音色にノイズが入っていないか?”など、さまざまなチェックや編集に便利である。また、ジョグ/シャトル・ダイアルは0〜1.5倍速までに対応し、MIDIやオーディオ、オートメーションを完全に同期したまま再生、リバース(逆回転)時も完全同期する。ものすごい処理能力だ。

DM24の機能を継承する
充実したアナログ入出力関係


ここでは各入出力端子も紹介しよう。16系統あるアナログ入力端子は、TRSフォーンとXLRコネクターを装備し、ともにバランス・インプットで、4チャンネルごとに48Vファンタム電源が供給可能。ヘッドルームも16dBあり、余裕のキャパシティと言えるだろう。各アナログ・インプットにはインサート端子(アンバランス)も装備されているので、生楽器などの録音時に好みのコンプ/リミッターなどのアウトボードを接続するのにいいだろう。外部AUX出力は4系統あり、内部ルーティング・セットアップでさまざまなアサインが可能な形式になっている。このほかにCDなどリファレンス・モニタリング用にアナログ・インプットの2TR IN(RCAピン)、マスター・デッキへ接続するためのステレオ・アウト(RCAピン、XLRバランス)、2系統のデジタル・イン/アウト(コアキシャル)、1系統のADATイン/アウトおよびADAT Sync アウトなどを装備する。少々残念なのが、DM24に採用されていたステレオ・アウト(マスター・アウト)のインサート端子が無いのと、マスター・アウトにAES/EBUが装備されていない部分だ。後で紹介するが、マスタリング機能とCD-R/RWドライブによりある意味マスターCDがいつでも作れるので省かれたのだろうか? また、このクラスのTASCAM製品でADAT端子は装備しているのにTDIFやDTRS関連のコネクターが装備されていないのも珍しいと思った。しかしながら、例えば2系統のヘッドフォン端子のようにDM24ゆずりの気が利いたアナログ・ユーティリティも装備されている。これはコンソール近くで複数の人がモニタリングするときなどに非常に便利だ。SX-1ではこれに単独ボリュームが付いているほか、コントロール・ルーム・アウト/スタジオ・モニター・アウトの切り替えもそれぞれ可能になっている。エアー・モニター環境についても非常に便利な仕様になっている。ステレオ・アウトでは2TR INやAUXなどが専用のスイッチャーで送れるようになり、CUE OUTも装備しているので、6チャンネル程度のミニ・ミキサーがあれば録音時にプレイヤーのキュー・ボックスとして使用することができる。CUEのレベルはマスター・フェーダー上部のミニ・スイッチを押して各チャンネルのフェーダーで調整する。コントロール・ルーム・アウトでは、モニターのラージ/スモールの切り替えができるようになっている。ほぼ完全なスタジオ仕様のモニター環境だ。もっと欲を言えば、ラージ/スモールの単独ボリュームがあってほしかった。

低レイテンシーを実現した
デジタル・ミキサー部


デジタル・ミキサー部のインプット数は32チャンネルで、HDRの各トラックのアサインとアナログ・インプットの組み合わせは内部ルーティング機能により自由自在だ。初期設定では1〜16チャンネルはアナログ・インプット、17〜32チャンネルがHDRの1〜16トラックの再生チャンネルとなっている。また、オプションのAES/EBUやTDIF、アナログ・カードも同様に好みによって選択できる。内部エフェクト・プログラムはすべて32ビット浮動小数点演算処理を行っており、4系統同時に使用可能。気になるエフェクト・リターンも32のインプット・チャンネルとは別にリターン・チャンネルが8系統用意されて、これを含めると実質的には40インプット相当になる。また、エフェクト・プログラムにおいては、DM24で定評のあったTC|WORKSのリバーブ(画面④)やANTARESのマイク・シミュレーターなども装備している。
▲画面④ 外部VGAモニターでのTC|SX1 Reverbエディット画面。エフェクトの入出力のルーティングはプルダウン・メニューのみの設定で、エフェクトのエディットも3D表示による分かりやすい設定になっている。また、エフェクトのライブラリーも同一画面で呼び出し可能になっている 各チャンネルのエディットはチャンネル・フェーダー上部にあるFADER BANK内のボタンで切り替えて行う。例えばアナログ・インプットが1〜16に設定されている場合、1-16ボタンを押せばフェーダーは左から下位順に並べられる(17〜32チャンネルも同様)。このほかにFADER BANKでは、エフェクトのリターン・チャンネル、8つあるフェーダー・グループのマスター、バス、AUXのレベルの設定のほか、SX-1に接続されているMIDI機器のボリューム、パンなどの設定が可能。外部VGAモニターを使ってもグラフィカルな画面(画面⑤)でコントロールできる。
▲画面⑤ 外部VGAモニターでのミキサー画面。フェーダー・モジュールの情報が16トラックの各チャンネル分、アナログライクに確認できて、すべてのパラメーターが変更可能になっているほか、ここでは本体よりも細かく各チャンネルのメーター・ブリッジの役割も果たしている 各インプット・チャンネルのモジュール構成はフェイズ、トリム、ダイナミクスと、パラメトリック、バンドパス、シェルビングの切り替え可能な3バンドEQ、そしてパン、バス・アサインなどのほかにCUEレベルおよびパンも装備されており、外部VGAモニターにも分かりやすく表示可能だ(画面⑥)。また、用途によりコンプとEQを組み替え可能なのもミソだろう。エフェクトのリターン・チャンネルも同じ内容のモジュールの仕様となっている。これはもう40インプットと言い切っても良いのではないだろうか?
▲画面⑥ 外部VGAモニターでのミキサー・ファット・チャンネル画面。各チャンネルの全パラメーターの細かいエディットが統合して行える。左上のプルダウン・メニューから、各チャンネルの呼び出しができる。ダイナミクス、EQについてはグラフィカルに表示され視認性は良く、ライブラリーも書き込み/呼び出し可能 今回チャンネル・モジュールに触れてみて感じたのは、以前、同社DM24をレビューしたとき(本誌2002年1月号掲載)よりもEQの効きが良いのと、音の変化とムービング・フェーダーの動きが非常に滑らかだということ。開発の方にお伺いしたところ、基本的にはDM24とは同じものを使用しているらしいが、違いが考えられるとしたらOS(BeOS)を積んでいることによる変化かも、ということだった。恐るべしBeOS。また、SX-1のみでMIDIの制御、HDR、デジタル・ミキサーをすべて集約しているため外部インターフェースやワイアリングが一切ないので、極めてレイテンシーが低いということも特筆すべきだろう。アナログ入力からアナログ・モニター間のディレイはデータ上1.5msec以下になっている。この辺もマルチタスク・サポートのBeOSのおかげなのだろう。SX-1のデジタル・ミキサーはさまざまなやり方でエディットを行えるが、個人的に非常に気に入ったエディット方法がある。チャンネル・フェーダー上部にあるLED内蔵のロータリー・エンコーダーのパンつまみを用いたバーチャル・チャンネル機能で、視認性の良い16チャンネル分のパンつまみが1つのチャンネル・モジュールの3バンドEQ、1〜6までのAUXセンド・レベル、パンのコントロールが横1列で設定可能になるのだ。また、SX-1本体のメイン・ディスプレイをダイナミクスにしておけばポッドつまみによってダイナミクスの設定も可能だ。

優れた操作性を持つ
オートメーション機能


非常に簡単なSX-1のオートメーションは以下の各種パラメーターをコントロールすることができる。フェーダー・レベル、ミュートのオン/オフ、パン、EQ、バス・アサイン、AUXセンド・レベル、入力トリムとディレイ、ダイナミクス、エフェクトなどのライブラリーのリコールなど、何も考えずに“これをやりたいな”と思ったさまざまなパラメーターのほとんどを記録することが可能だ。また、オートメーションをするための設定や実際の操作も分かりやすかった。モジュールのほぼすべてのパラメーター・コントローラーが立ち上がることになり、極めてフィジカルなコントロールが可能。操作性については良い意味でいろんな選択肢が用意されていると言えるだろう。初期設定状態ではあるが、オートメーションのGlobalページでDYNAMICS Automationをオンにして、writeボタンを押すだけで準備は完了する。あとはSX-1を走行させ、任意のポイントでミュートやフェーダーなどを書き込むだけといった簡単さだ。また、これから新しいミックス・データを作成するときにオートメーション画面でNEWを選択すると、現在のミキサーの状況を初期値とするので、改めてシーン・メモリーをしておく必要も無い。もちろん、いろんな音色で試したいときはシーン・メモリーを活用すべきだろう。フェーダー・エディットにはwrite(ABS)という絶対値を可変していくパターンと、相対値でエディットを行うトリム・モードがあるので、必要に応じて切り替えて使う。また、ミックス・ダウンする曲の最後をフェード・アウトしたいような場合、あらかじめ設定した時間(Auto Fade Time)をかけてマスター・フェーダーのレベルが下がるオート・フェード機能も非常に便利だ。実際の操作も任意のポイントがきたら、シフトを押しながら、REVERTキーを押すといったパンチ・イン的な感覚で扱いやすい。気に入ったミックスはKEEPボタンを押し、どんどんアップデートしていく。初心者でも扱える簡単さだ。

2ミックス・データを容易に作成できる
マスタリング機能


素晴らしいファイナリング機能で、SX-1ではその名も“ミックスダウン”と呼んでいる。この機能は内部HDRが16トラックすべて使っている場合でも、ファイナリングされた2ミックスのデータをオーディオ・ファイルに記録してくれるという大変に便利なものだ。これも操作方法は非常に簡単で、各チャンネルにアサインされているバスのアサインをL/Rに選択し、トラック画面のGlobalウィンドウのMIXDOWN Enableボックスをチェック(クリック)するだけで準備はOK。後はRECボタンを押しながらPLAYキーを押せば実行される。驚かされるのは、実行し終わった後、全くといっていいほどデータ処理にかかる時間がないことだ。本当に2ミックスで録れてるの?と心配になるほどだった。さらに出来上がった2ミックスのオーディオ・ファイルをCD-R/RWドライブによってオーディオCD(RED BOOK)に焼くことも可能で、焼き付けにかかる時間も非常に高速だった。このことからマスター・デッキ用にAES/EBUが装備されていない意味が何となく分かる気がした。今回のレビューの流れで分かると思うが、SX-1は1台でスタジオ機能のほとんどを集約している。単純に高価なミキサー一体型HDRではなく、非常に高性能なオーディオ&MIDIワークステーションだ。また、完全に本機を使いこなしたいのであれば、外部モニターとキーボードとマウスはぜひ一緒に購入したい。机の上がパソコンと各種インターフェースと数々のワイアリングによって散らかってしまっている人にはもちろんお勧めだが、MIDI/HDR/デジタル・ミキサーが非常に高いレスポンスで三位一体となって動作するSX-1は、シンク・マニア(?)必見である。

▲リア・パネルにはオプションのTDIF-1インターフェースIF-TD/DM(26,000円)、AES/EBUインターフェースIF-AE/DM(30,000円)、ADATインタフェースIF-AD/DM(30,000円)、アナログ・インターフェースIF-AN/DM(60,000円)が装着可能

TASCAM
SX-1
950,000円

SPECIFICATIONS

■サンプリング周波数/48/44.1kHz(96/88.2はバージョン・アップで対応予定)
■量子化ビット数/24/16ビット
■AD/DA変換/24ビット
■ダイナミック・レンジ/110dB(A-WTD)
■内部処理/32ビット浮動小数点演算
■周波数特性/20Hz〜25kHz+0.5dB/−1.5dB(マイク/ライン→インサート・センド)、20Hz〜20kHz+0.5dB/−1.0dB(ライン→ステレオ・アウト/バス/AUXアウト)、20Hz〜20kHz+0.5dB/−1.0dB(2トラック・イン/CD-R/RW→モニター・アウト)
■全高調波歪率/0.1%以下(20Hz〜20kHz、ライン→インサート・センド)、0.013%以下(1kHz、ライン・イン→ステレオ・アウト)
■規定入力レベル/+4dBu(ライン)、−10dBV(2TR IN)
■規定出力レベル/+4dBu(ステレオ・アウト/バランス)
■最大出力レベル/+20dBu
■入力インピーダンス/2.2kΩ(マイク)、10kΩ(ライン)
■出力インピーダンス/100Ω
■ハード・ディスク容量/40GB
■同時録音再生トラック数/16トラック+6サラウンド・トラック
■バーチャル・トラック数/無制限
■接続端子/マイク・イン(XLR)×16、ライン・イン(TRSフォーン)×16、2TR IN(RCAピン)、ステレオ・アウト(XLR)×2、ステレオ・アウト(RCAピン)×2、AUXアウト(TRSフォーン)×4、ラージ・モニター・アウト(TRSフォーン)×2、スモール・モニター・アウト(TRSフォーン)×2、スタジオ・モニター・アウト(TRSフォーン)×2、ヘッドフォン(ステレオ標準)×2、デジタル・イン/アウト(コアキシャル)×2、ADATイン/アウト(オプティカル)、ADAT Syncアウト(D-sub 9ピン)、カスケード端子(D-sub 37ピン)、WordSync IN/OUT/THRU、SMPTEタイム・コード・イン(TRSフォーン)、MIDI OUT×4、MIDI IN、MTC IN、ビデオIN/THRU(BNC)、RS-422(D-sub 9ピン)、フット・スイッチ、VGAアウト(D-sub 15ピン)、Ethernet端子、SCSI端子、USB端子×2
■MIDIシーケンサー/トラック数=128、分解能=960
■外形寸法/954(W)×261(H)×760(D)mm
■重量/40kg