古今東西の製品をシミュレートしたスタジオ仕様のフィルター・マシン

LINE6Filter Pro

デジタル・ソフトウェア・モデリング技術のパイオニアLINE6の注目すべき新ラインナップStudio Modelerは、1Uサイズのラック・マウント型エフェクターのシリーズだ。これは同社のフット・タイプ・エフェクターStomp Boxシリーズのラック・マウント型/スペック・アップ・バージョンに当たるものだ。その中で、今回紹介するFilter Proは古今東西のビンテージ・フィルター、アナログ・シンセサイザーのVCF、ギター・シンセなどのマニアックなサウンド・モデルを網羅し、まさに“フィルターのマニア・ショップ”といった製品に仕上がっている。

シンプルな操作体系ながら
多彩なサウンドを演出


まずはリア・パネルの入出力から見ていこう。入力には+4dBuのバランス型XLRがL/Rの2系統、そして通常の楽器用にライン・インが−10dBVのアンバランス型TRSフォーンで2系統用意されている。出力側もこれに準じて+4dBuのバランス型XLR、−10dBVのアンバランス型TRSフォーンが2系統ずつ用意され、モノラルで使用する際にはRチャンネルを使用することになる。さらにMIDI INと切り替え式のTHRU/OUTが1系統ずつ、各パラメーターを自由にアサインしリアルタイムに制御できるEX-1エクスプレッション・ペダル(別売り)を接続する端子が用意されている。接続端子のパーツには一見して分かるが、しっかりとした造りのプロ・スペックなもので、これは好印象。特に付属の電源コードには太く丈夫なものが使用されていて、耐久性だけでなく音質の向上効果も期待できそうだ。気になるモデリング・ソースは大別してHAZ LABORATORIES Mu-Tron III、OBERHEIMのVCFといった銘機ビンテージ・フィルター、ペダル・ワウ、トーキング・モジュレーター、タッチ・ワウ等のギター・エフェクター、ROLAND GR-700、KORG X911といったギター・シンセ、さらにはELECTRIX Filter Factory、Z-VEX Seek Wahといった最新の飛び道具系エフェクター、それらを複合したオリジナル・エフェクトの5系統、合計16種類のエフェクト・プログラムが用意されている。プログラムによってアクセスできるパラメーターは異なるのだが、基本的な操作法はフロント・パネルに用意されたPROGRAM SELECTでエフェクトを選び、FREQUENCY(フィルターの周波数設定)、TWEAK(Q/レゾナンス/ピーク等の設定)、TWEEZ(シンセ系の波形やピッチ、タッチ・ワウのUP/DOWN等の設定)の3種類のツマミでサウンドを設定していくというものだ。これは得られるサウンドが多彩な割に非常にシンプルな設計であると言えよう。これならば“フィルターを使うのは初めて”というビギナーでもマニュアル無しで感覚的に操作できるだろう。また本機にはあらかじめ99種類のファクトリー・プリセットが用意されており、自作のパラメーター設定はプリセットに上書きする形で保存することも可能となっている。

効果的なエフェクト・プログラム類
レンジの広いサウンドが魅力


実際のサウンド・チェックには、リズム・マシン、同社のギター・アンプ・シミュレーターPodを通したエレキギター、鍵盤系各種の3種類のソースを使用した。ソースによって各プログラムとの相性があるのだが、フィルターというエフェクターの特性上、やはり鍵盤系の音色、特にクラビネットなどアタックの強い音色がかかり具合も良く効果的だった。さらにパッド系の音色はギター・シンセのモデリング・プログラムに通して隠し味的に使ったりするのもなかなか面白いだろう。中でも筆者が気に入ったプログラムは、周波数特性の設定の異なる2台のフィルターが左右にパンニングするSpin Cycleで、リズム・マシンは通すだけでハットとキックがスムーズにスイープしながらパンニングし、凡庸なプリセット・リズムがいきなり立体的になった。これはなかなか使えそうだ。さらにこれらのエフェクティブなプログラムばかりでなくQ Filterプログラムにアクセスすれば、ハイパス/バンド・パス/ローパスの中から1種類のフィルター・タイプが選べ、通常のレコーディングで使用される音質補正/EQ的な使い方も可能だ。ギター向けのプリセットも“ワウの半止め”感など丁寧にシミュレートされている。残念ながら今回は試奏できなかったのだが、エクスプレッション・ペダルを使用すればライブ演奏などでいろいろなワウ・アプローチが楽しめるだろう。また、Seek Wahのような8ステップのシーケンス・オート・ワウのテンポを楽曲に合わせたいときには、全音符から16分音符まで(3連符/付点符を含む)のBPMボタン1つで選択できる。またボタンの抵抗が硬いのが難点だったが、TAPボタンをテンポに合わせてたたいて、フィルターの開閉速度等を自動的に設定できる機能はDJミックスでの併用などに便利だろう。さらに、これらのパラメーターの動きや曲中のプログラム・チェンジは、外部MIDIシーケンサーなどで制御できるようにもなっている。筆者宅のモニター環境においてチェックした限りでは、特に音やせなどのロスも見受けられず、24ビットのAD/DA、サンプリング・レート46.8kHzのスペックは、重低音から超高音まで各フィルターの特性を再現していた。全体的な音質/キャラクターは上品な印象で、オリジナルの単体機の暴走する感じなどはあまり無かった。しかしその分制御しやすく、楽曲中での使い方が難しいビンテージ・フィルター製品系のクセの強いサウンドもかえってオケに溶け込ませやすいのではと感じた。何よりもこの価格でこれだけの数のビンテージ/現行フィルター製品群を網羅し、ノイズレスな高音質、イージー・オペレーション&メインテナンス・フリー、さらにMIDI制御も可能となると、オリジナルのコレクター以外にはやはりこういった製品の方が選択肢として現実的なのではないかという印象を受けた。ギタリスト/キーボーディストのステージ・ラックにはもちろん、自宅録音やDJプレイの秘密兵器としても推薦したい1台だ。

▲リア・パネルの接続端子類。左からMIDI IN/OUT、Expression Pedal、ステレオ・ライン・アウト(XLR、TRSフォーン)、ステレオ・ライン・イン(XLR、TRSフォーン)が並ぶ

LINE6
Filter Pro
オープン・プライス(市場予想価格:70,000円前後)

SPECIFICATIONS

■エフェクト数/16
■ユーザー・プログラマブル・プリセット数/99
■AD/DA/24ビット
■サンプリング・レート/46.8kHz
■内部処理/24ビット
■SN比/105dB
■入力インピーダンス/1M Ω
■外形寸法/482(W)×153(D)×43(H)mm
■重量/1.92kg
※オプション:エクスプレッション・ペダルEX-1(9,800円)