強力DSPパワー&優れた操作性を併せ持つ新鋭Zシリーズ・サンプラー

AKAI PROFESSIONALZ8

S612からの歴史ある“S”という屋号を取り払ったAKAI PROFESSIONALの新しいサンプラー、Z8/Z4がリリースされるという話題は、何とも不思議な温度感でもってユーザーの間で受け止められているのではないでしょうか。“このソフト時代にまだハード・サンプラー?”とか“24ビット/96kHzになったからって言っても、基本的にもう従来以上の機能はサンプラーにはあり得ないんじゃないの?”なんて冷ややかな声もあるこの時代。個人的にも驚愕の出会いだったS900以来、同社のサンプラーを乗り継いできた歴史はあるものの、限られた用途でしかハード・サンプラーを使用しなくなってきている現状は確かにあったりで、複雑な気持ちも抱えてのチェックでもあります。果たしてハード・サンプラーはさらに進化できるのか。ここでは上位モデルのZ8をじっくりとチェックしながら、その実力を検証していきたいと思います。

カスタムDSPの搭載により
抜群のレスポンスを実現


送られてきたZ8をあらためて見ると、“従来のSシリーズとは全くコンセプトが違う”という意気込みが伝わってくるかのようなルックスに驚かされます。S6000でこれでもかと4Uサイズに広がったワイド・スクリーンとは好対照に、Z8ではディスプレイは小さくまとまり、伝統のテンキーやワンタッチ・ボタン等もすっかりシンプルに、代わりに8つのツマミがどんと鎮座しているのが印象的です。接続端子もフォーンのメイン・アウトがステレオで1系統(オプションで8パラアウトの拡張カードIB-48Pも用意/写真①)、同じくRECインがステレオ1系統、ワード・クロック・インやデジタルI/O(S/P DIF)、2系統のMIDI IN&OUT/THRU、さらにSCSIも残しつつ(これは大事でしょう!)、前後のパネルそれぞれにUSBポートを備えているのもイマドキ仕様になっています(図①)。

▲写真① 拡張カードのIB-48P(40,000円)。これを装備することで、さらに8つのパラレル出力端子をプラスすることが可能だ
▲図① Z8と他の機材との接続例。前面のUSB端子は主にハード・ディスクやCD-ROMドライブなどをつなげてサンプルの読み込み/書き出し時に使用し、背面のUSB端子はコンピューターとの接続用 それではマニュアルをひもときながら、この新型サンプラー、Z8の特徴を一気に紹介していきましょう。●ハイスピード・カスタムDSP“Js-LSI”搭載
この専用DSPによりCPUに依存しないダイレクト・パラメーター・ローディングが可能となり、最短6fsでの64ボイス発音、Direct Memory Access転送レートも40MB/sec以上を実現。要するにこれまでとは比べられないほどの素早いレスポンスが期待できるということです。ちなみにメモリーは標準で16MB、PC100/133(CL2)256MB DIMMを2枚増設することによって最大512MBまで拡張可能となっています。●入出力はリニア24ビット/96kHzに対応
24ビット/96kHzもハード・サンプラー界初でしょうが、何と16ビット・データも混在可能。なかなかほかでは聞かない実用的な機能ですね。●3連2ポールのマルチモード・フィルター搭載
この辺りはもう同社の十八番って感じになってきましたね。●Q-Linkノブでのリアルタイム・コントロール
本体から着脱可能なコントロール部には、8個のQ-Linkノブを搭載。細かなサンプル・エディットからライブ時の直感的な操作まで対応してくれます。このQ-Linkノブにより、アンプ、パン、ピッチ、LFOレート/ディレイ/デップス、カットオフ、レゾナンス、3基のエンベロープ、エフェクト・センド……等の多彩なパラメーターを自在にコントロールすることが可能です。●Quick FXで音作りの自由度が倍増
4系統のエフェクト(FX)のほかにQuick FXと呼ばれるサウンド・エディット・プログラムが用意され、“POWER”“RUMBLE”“DISTORTION”“MASSIVE”“WHIRL”“COSMO”“UNDERSEA”等、イメージ通りのサウンドを創造可能。フォト・エディターをほうふつさせる直感的なコマンドも便利です。●サンプルのアサインに便利な機能を搭載
録音したサンプルをそのままプログラムにアサインするダイレクト・アサイン機能や、ドラムやフレーズ・サンプリングに最適なDRUMプログラム等の機能をサポートしています。こうしてZ8の機能を挙げてみると、僕にもこのサンプラーのコンセプトのようなものが見えてきますね。このサンプラーは“クイック&ダイレクト”を基本的使命とし、細かなエディットは例えば付属のデスクトップ・コントロール・ソフトAK.Sys. For Z4/8(Macintosh&Windows対応/画面①)を使用してコンピューターならではの大モニターで行い、本体では素早いサンプリング〜編集〜プログラム作りをサポート。さらに抜群のレスポンスを生かし、多くのパラメーターをフレキシブルに、リアルタイムにいじり倒すことによって今日的なライブ感を与えてくれる機材だと言えるでしょう。
▲画面① 専用エディター・ソフト、Ak.Sys.(画面はZ4用)。視認性の良いコンピューターのディスプレイでプログラム編集を行えば作業効率も大幅にアップ 

Q-Linkノブをはじめ
使い勝手を重視した作り


さて、実際にZ8をいじっていきたいと思います。何といってもパネルに用意された8つのQ-Linkノブをまっ先に試したくなるのが心情でしょう。それぞれのノブには前述したように想像できるあらゆるエディット・パラメーターがアサイン可能となっており、実際にブレイクビーツをループさせながらしばし遊んでみました。1人ライブを果てしなく堪能できたのは言うまでも無いですが、新鮮だったのはカットオフやレゾナンスを変化させた音は想像通りでも(変化値が大きいのでアッという間に無音になっちゃったり発振したりともちろん素晴らしいフィルターでした)、同時にピッチやアンプ等を変えていけるので、全く新しい音作りができたことです。“カットオフを絞りながらピッチは上げる”、または“ピッチを下げながらLFOのレートを上げつつその深さをコントロール(ちょっと音響系)してみる”などなど、これらのパラメーターを同時にいじる機会はあまり無いだけに新鮮な感じです。ブレイクビーツだけでなく、ピアノ、ストリングス、キックやスネアのワンショット・サンプルでも効果的な変化が得られ、新たな発想へのきっかけが生まれそうです。うーん僕自身もまだまだ頭脳の活性化、フレキシビリティってもんが足りなかったんだなあとも考えさせられました。また各Q-Linkノブのコントロール・レンジも±100まで細かく設定できたり、パラメーターのオリジナル設定に対して相関的に動かすかどうかの設定や、はっちゃけすぎて収拾がつかなくなったとき(僕だけ?)に便利なすべてを元の設定値にもどすRESET機能など(これもライブ的な使用に便利)、細かくかつ使えるパラメーターが用意され、同社の本気具合も分かるというもの。そうやって使っているうちに、これはサンプラーのアナログ・シンセ化なのでは?と思ってしまいました。前述のフィルター系とともにエンベロープやLFO関係をノブで細かく相互エディットしていけるので、あたかもアナログ・シンセをエディットしているような気持ちになってきます。単純に音を追い込みやすく、同時に奇抜な発想も生まれてきそうな感じです。そうした使い勝手の良さは同社の伝統(?)であるジョグ・ダイアルにも表れていて、今回のものはダイアルと十字カーソルが一体化したような(ちょっとゲーム・コントローラー的?)ものになっています。これも初めこそ戸惑いますが、慣れてくると実に使いやすく納得のいくものでした。こうしたユーザー・フレンドリーな新機能をあちこちで見ることができ、例えばサンプルやプログラムをクリップ・ボードに一時的に保存することが可能だったり、ディスプレイ表示も見やすく(画面②)、エディット可能なパラメーターには“:”、不可能のものには“=”マークが付くなど便利です。そのほかサンプリング後にレベルを自動的に最適な値に補正してくれるオート・ノーマライズ機能、プログラムに新たなサンプルを追加する際に便利なアド・トゥ・プログラム機能、内部エフェクトをかけながらのサンプリング/リサンプリングなど、使える機能があちらこちらにあります。中でも個人的に好きだったのが、サンプルの長さからビート・クロックを自動検出&表示してくれる機能で、サンプル・エディットやタイム・ストレッチ時のレングス設定等、BPMを基準としたエディットが簡単にできるようになっています。
▲画面② 本体パネルでは波形表示ももちろん可能。ズーム機能も付いているので細かい編集作業もできる 

24ビット/96kHz対応&
エフェクト・クオリティの向上


24ビット/96kHzの音質については、今回は直接アコースティック楽器をサンプリングできるような機会が無かったので、ここで大きくピック・アップしては語れませんが、少なくとも従来のサンプルを鳴らしただけでも、明瞭度の高いサウンドになっているのがはっきりと分かりました。これは新しいDSPのD/Aの変化によるものかとも思われます。こうなると24ビット/96kHz対応の本格的なライブラリーのリリースも期待されるところです。また、エフェクトの質感がぐっと向上したのも特筆すべき点です。リバーブは切れ際まで鮮やかな印象でしたし、ほかにもテープ・エコーやオート・チューン、ピッチ・コレクターなどナチュラル〜エグイ系まで多くの種類のエフェクトが用意されています。中にはフェイザー/パンやフランジャー/ディレイなど、複合プログラムがあるのも便利。ちなみにエフェクトは4系統の同時使用が可能です。イマドキの仕様を満載し、かつハードという特性を生かした操作性。しかし、どんなに優れた機能も結局僕らの使い方次第なわけで、そのためのクリエイティビティの手助けをしてくれるZ8は、ハード・サンプラーの正しい進化形という手ごたえを感じました。

▲リア・パネル。ステレオ・イン/アウト、2系統のMIDI入出力、SCSI、USB端子などを用意。左上の拡張スロット部にはオプションの拡張カードを挿すことができる

AKAI PROFESSIONAL
Z8
190,000円

SPECIFICATIONS

■サンプリング・データ・フォーマット/24/16ビット・リニア(WAV形式)
■サンプリング・レート/44.1kHz(20Hz〜20kHz)/48kHz(20Hz〜22kHz)/96kHz(20Hz〜40kHz)
■内部メモリー/16MB(512MBまで拡張可能)
■最大同時発音数/64(96kHz時は32)
■エフェクト/QUICK FX、マルチ×4系統
■接続端子/RECイン×2(フォーン)、メイン・アウト×2(フォーン)、S/P DIF(コアキシャル)×1系統、MIDI IN&OUT/THRU×2系統、SCSI×1、ワード・クロック・イン×1、USB×2(ホスト/スレーブ)、ヘッドフォン
■ディスプレイ/248×60ドットLCD(バックライト付き)
■外形寸法/483(W)×415(D)×92(H)mm
■重量/6.4kg