24ch入出力に対応し記録媒体がHDに移行したADATレコーダー最新機種

ALESISADAT HD24

今回のチェック製品は、S-VHSテープを使用したADATレコーダー・シリーズでレコーディング・スタイルや宅録の在り方を変えたメーカーALESISの新製品、ADAT HD24である。最近ではレコーディングに必要なさまざまな機器をリリースしている同社が、ADATレコーダーの大幅なリニューアルに踏み切ったのだ。24トラックのHDレコーダーである本製品は、記録媒体がテープ・ベースからハード・ディスク(以下HD)に移行し、さらにドライブ2台搭載可能というから、いったいどのように進化したのか、注目したいところである。では、早速紹介してみよう。

アナログ入出力端子24chを装備
視認性の優れたディスプレイ


本機は3Uサイズの24トラック/24ビット対応デジタル・レコーダーである。サンプリング周波数は44.1kHz/48kHzの2種類をインターナル・クロックおよび外部ワード・クロックでサポート(fs:48kHz時、−16%〜+6%のバリスピード対応)している。さらに、現在開発中のオプション・ボードでは88.2/96kHzのサンプリング周波数にも対応する予定だ。アナログ入出力端子はTRSバランスでそれぞれ24ch分ずつ(!)、デジタル入出力はADATオプティカル端子(8ch入出力)が3系統ずつ用意されている。さらに同期用のSYNC端子と、MMC/MTCをサポートするためのMIDI端子、付属の簡易リモコン用端子(LCR)やワード・クロック・イン、パンチ・イン用の端子、10Base-TのEthernet端子など、豪華絢爛な入出力が装備されている。


同時録音トラック数は2、4、6、8、12、16、24trから自由に選択可能で、ADATオプティカルの入出力に限り96kHzがサポートされており、この際のトラック数は半分の12トラックとなってしまう。トラック数に関してはADAT HD24を複数台同期させることでまかなうことができるので問題は無いだろう。


フロント・パネルはブラックを基調とし、左上側にFL管採用の自発光型レベル・メーター、その下に2台分のHDドライブ・ベイが装備されている。トランスポート・コントロールなどのメインの操作パネルは右側に集約されており、スイッチ・レイアウト等は比較的使い勝手の良さそうな感じだ。またタイムやステイタスを表示する画面もレベル・メーターと同様にFL管タイプが使用され、非常に見やすく好感が持てる。これは同社の他製品にも言えることだが、ディスプレイの視認性の善し悪しで作業効率やオペレートの速度に雲泥の差が出るのだ。やはり見やすいということは非常に大事である。


IDEタイプのHD採用で
ユーザー側での増設が可能


本機には記録媒体としてHDを2台装備することができ、HDにはパソコンなどで一般的なIDEタイプを採用している。高価なDAWなどでは一般的にSCSIタイプのHDが多いが、容量当たりのコスト・パフォーマンスが優れているので、IDEタイプを採用したのだろう。ちなみに最近ではIDEタイプのHDは転送速度や回転数も改善/向上しており、まず問題は無いと思われる。このHDは電源が入っている状態でも簡単に脱着可能になっており、ほかのADAT HD24とのやりとりはもちろん、ワーク用スレーブ・ドライブの作成や、ドライブを交換しながらの長時間録音も可能である。なお概算だが、標準装備の20GB HDでは24ビット/48kHz、24tr相当で約90分収録できる計算になる。これならば通常のライブ収録でセーフティを考えても20GBのHD2台で十分ということになる。またライブの同期用として使う場合には、スレーブ・ディスクをあらかじめ作成しておけば、突然のHDトラブルが起きても被害を最小限に食い止めることができ大変便利である。


ちなみに本機で採用しているHDのフォーマット形式は、ADAT FSTという独自フォーマットであるため、パソコン用ディスク・フォーマットとは互換性が無いので注意が必要である。なお自分でHDドライブを増設するためのキャディがオプションで発売されており、IDEタイプのHDを自分で取り付けることもできる。対応する最大容量は1ドライブ当たり理論値で2,000GBまでなので、何ら問題は無いだろう。


ADAT Sync端子も装備
従来のADATシステムにも柔軟に対応


ちょうどMAスタジオで作業しているところに本機がやってきたので、作業終了後に簡単にサウンド・チェックをしてみた。ソースをパラアウトして片方をコンソールに立ち上げ、もう一方を本機に入力し、AB切り替えでモニタリングできるようにしてチェックした。


まず、ニアフィールド・モニターでのパッと聴きでは悪い感じはしなかった。しかし、ラージ・モニターである程度の音量で聴くと、中低域から低域にかけてアタック感が薄く音痩せする傾向があると感じた。逆に高域は若干ハイ上がりな傾向のサウンドであると感じた。サウンド面に関してはこの価格で24chものAD/DAを装備しているのでまずまずの音質と言えるだろう。AD/DAコンバーターやADATオプティカルを装備したデジタル・コンソールと接続して使う方法もあるので(こっちの方が多いかもしれない)、システムを組む上で、いろいろと検討する価値はあるのではないだろうか。


例えば、従来のADATシステムと組み合わせ、テープ・ベースとHDベースのハイブリッド・システムで運用することが考えられる。これはHDでのデータ保管に不安がある場合など、テープにバックアップを作成することができるメリットなどがある。接続は従来機のADATと本機をADAT Sync端子を介しデイジー・チェーン接続するだけだ。またADAT Sync端子を搭載した機器であれば、本機との連携も可能である。さらにADATシステムのコントローラーであるBRCを使えば、快適かつスムーズに作業することができる(専用コントローラーの発売もアナウンスされている)。つまり、ユーザーの環境に合ったシステムがフレキシブルに構築可能になっており、過去の資産を生かしつつ、さらに新システムへの移行も非常に楽に行えるのである。


ところで従来のシステム内でADAT HD24はどのように認識されるのか?という点だが、単にADAT3台分として認識されるとのことだ。ただし注意しなければいけないのは、テープ・ディバイスのADATでは使用できるサーチ機能などの固有機能が本機では無効になることだ。さらにリニア/ノンリニアの特性上の問題で、アドレスが離れたところにロケートした場合はテープがそのアドレスにロケートするまで音が出なくなったりするのだ。しかし通常のオペレーションに関しては問題無く使うことができるだろう。


ADATシンクやMTCで
他機との連携も簡単


実際に同期関係のセッティングをしてみたが、非常に簡単に行うことができた。同期用のMIDIケーブルをシーケンサー側のMIDI端子へ接続し、コンソールとADAT HD24の入出力を接続すれば終わりだ。もし、デジタル・コンソール側にADATオプティカルI/Oがあれば、ほんのわずかな時間でセッティングできそうだ。しかし、セッティングに関して若干の不満もあった。それはコンシューマー用として割り切れば問題ないのだが、業務用であればアナログ入出力を以前のADATのようにELCO等のマルチコネクターにしてほしかったことだ。これだけコンパクトなボディに大量のケーブルを全部立ち上げたとしたら、少しブルーになりそうだ。


次にMTC同期のチェックをしてみた。ここで初めて気付いたのは本機が単独でMTCのスレーブとして動作しないことである。さらにフレーム・レートも30fpsのみしか対応していない。つまり映像関係の同期ができないのだ。なので、私の中で音楽専用機という位置付けが確定した。しかし、BRCなどをシステムに組み込んだり周辺機器を組み合わせればできるだろう。


実際の操作感は悪くはなかった。さすがHDレコーダーだけあってロケートも瞬間に決まるし、重い感じがしないのは良い。また、パンチ・インなども本体のみだと厳しかったが、付属のロケーターを使えば問題なく行うことができた。専用リモート・コントローラーを開発中ということなので、そちらにも期待が高まるところだ。


Ethern
ファイル管理も可能


本機を眺めていて驚いたのがEthernet端子が装備されていることだ。"いったいこれは何をするためなのか?"と最初は疑問であったが、取扱説明書をよく読むと便利なインターフェースであるということが分かった。ADAT HD24は録音されているトラックをEthernet経由で読み込み/書き出しできるFTPサーバー機能があるのだ。そのため、パソコンに搭載されているEthernet端子からアクセスが自由にでき、コンピューター・ベースのDAWなどと素材をWAV/AIFFファイルでやりとりできるようになっている。パソコン側でファイルを転送/管理するソフトは何と!通常のWebブラウザーまたは、FTPクライアント・ソフトなのである。専用ソフトウェア等を使用しない点と、プラットフォームを選ばないというのはとてもありがたいことである。


ここでも幾つか注意点がある。FTPサーバー・モード時はレコーダー機能が一切使用できなくなってしまうことと、Ethernetのデータ転送速度が10Mbpsの10Base-Tであることだ。現在販売されているハブであれば、ほとんどの製品で10/100Mbpsをサポートしているので問題ないが、一昔前の製品であればどちらか一方という場合もあるので注意が必要だろう。しかし、このEthernet端子があると便利なことには変わりない。PCベースのDAWとのファイルの交換や、波形編集、DSPなど高度な処理が必要な際には非常に役立つだろう。さらにEthernet経由でインターネットにも接続することができるのも用途を広げることになる。しかし、その際には、転送に時間がかかることは覚悟が必要かもしれない。


以上、ADAT HD24を駆け足でレビューしてみた。ノンリニアになることで、さまざまな新機能を採り入れつつも従来のADATシステムとの互換性も併せ持つ本機は、ある意味バランスの取れたレコーダーである。現在ADATベースでシステムを組んでいるユーザーにとって非常に有効な拡張ソリューションになるのは言うまでもないだろう。また、新規にシステムを構築するのであれば、ADATオプティカル対応のデジタル・コンソールとの組み合わせでグッドだろう。IDEタイプHDを使用することでランニング・コストも比較的安価に済むことも重要だ。従来機からの移行組、PCベースのDAWで今ひとつと感じている人までをターゲットにした、守備範囲の広い製品である。


ただ、最後に問題を提起するのであれば、プロ現場からすると接続端子類などで少し中途半端な感じがするところがあった。これは一ユーザー・サイドからの提案であるが、入出力などをすべて拡張ボードにした方がよいと思うのである。つまり基本入出力はADATオプティカルのみにして、AD/DAは最初からオプションで、タイム・コードもMTCだけでなくLTCやビデオ・シンク等もサポートすれば無駄が無いのでは......と思うのは私だけではないはずだ。しかし、これだけのパフォーマンスと可能性を持つレコーダーであるので、周辺機器も含め今後のシステム・ラインナップの展開を大いに期待したい。



▲ADAT HD24とテープ・デバイスのADATを用いたシステム構築例。コントローラーのBRCからLTC/MTC信号をMIDIシーケンサーに送り、MIDI機器を中心としたレコーディング環境が実現できる



▲リア・パネルの接続端子類。下段左からEthernet、WORD IN、LRC、MIDI IN/OUT、PUNCH、デジタル入出力のADAT OPTICAL IN/OUT×3系統、ADAT Sync IN/OUT。上段にはアナログ入力および、出力用のTRSフォーン端子が24ch分ずらりと並んでいる


ALESIS
ADAT HD24
500,000円

SPECIFICATIONS

■同時録音トラック数/2、4、6、8、12、16、24(切り替え式)
■量子化数/24ビット
■サンプリング周波数/44.1/48kHz
■AD/24ビット、128倍オーバー・サンプリング
■DA/24ビット、128倍オーバー・サンプリング
■周波数特性/22Hz〜22kHz(±0.05dB)
■ダイナミック・レンジ/144dB(デジタル入出力)、103dB(アナログ入出力)
■SN比/103dB(A-Weighted)
■全高調波歪率/0.003%未満
■外形寸法/113(H)×483(W)×342(D)mm
■重量/9.6kg