安定した定位と素直な音色のモニター/トロイダル・トランス搭載のパワー・アンプ

ARTSLM-1/SLA-1

ARTというメーカーは、サンレコ読者にはもうおなじみの名前でしょう。ART Tube MPは低価格ながら、高信頼管の12AX7Aを使用した甘くスウィートな音色と、コンデンサー・マイクに必須のファンタム48V電源も供給できる点で宅録ミュージシャンには非常に重宝がられています。上位機種Tube MP Studioには、ユーザーの声にこたえてアナログVUメーターとリミッターが装備され、さらに使用しやすくなっているようです。これらユーザーの声を製品に反映させるメーカーの新製品は、プロのエンジニアも見過ごすわけにはいきません。

さて、そのARTからスタジオ・リニア・モニターとうたったSLM-1という製品が発売されました。今、業界では次なるスタンダード・モニターを確立しようとたくさんのスタジオ用モニターを聴いてはテストを重ね、実験に余念がありません。メーカー側も次々に新製品を送り出しているのは皆さんもご存じの通り。今回はSLM-1とのマッチングに適したSLA-1というアンプと組み合わせて、メーカー推奨の状態でチェックしてみます。

ボーカルの定位感が良く
音を作りやすいモニター

まず、新品の状態で送られてきた本機を、エージングのためにピンク・ノイズを小さい音で鳴らしたままスタジオに一晩置いてから使用しました。SLA-1には、インプットにTRSフォーン(バランス/アンバランス)端子だけでなくXLR(バランス)端子が用意されています。XLRへの変換ケーブルを用意しなくても接続できるのは非常にうれしいですね。また電源は3Pのケーブルが用意されていますが、2Pへの変換プラグは付属していないので、自宅ユーザーは別途用意しておきましょう。ところでパワー・アンプの電源はアメリカ製ですので、本来は120V/60Hz仕様のはずですが、日本向けにトロイダル・トランスを載せ替え100V仕様になっています。豪華にも特別仕様なわけですが、内部の機器が定格電圧で動かないとやはり音質が保てないと踏んだのでしょう。これは素晴らしい選択だと思います。そして、スピーカー・ケーブル端子にはマルチウェイ・バインディング・ポストが用意されています。要は、バナナ・プラグでも、裸ケーブルでも接続できるわけですね。ただし、4mm程度の穴なので、裸ケーブルだと極端に太いケーブルは接続に工夫が要るのでご参考に。アンプからのスピーカー・ケーブルで音が変わるのは皆さんご存じだと思いますので、好みに合わせて用意しましょう。今回は、CANAREが余っていたのでそれを使うことにしました。

さて、期待の音の方ですが、ボーカルの定位が素晴らしいです。奥行き感が非常によく見えます。つやもあり、上の帯域がよく伸びているため、ユニット同士のつながりも素晴らしく、非常に良くできた設計です。色付けも少ない感じがします。ローエンドもバスレフの効果でとてもよく伸びています。しかし、アコースティックものを聴いてみて気付いたのですが、ボーカルの胸辺りの低めの響きが少々濁っています。セッティングに問題があるのかと思い、いろいろと試してみましたが、どうやらバスレフ・ポートから出る音がウーファー・ユニットに影響を及ぼしボーカルの胸辺りの帯域を濁らせてしまっていたようです。バスレフ・ポートをスポンジで閉じると濁りが取れたので間違いないでしょう。ところで、ポートを閉じたとき面白かったのは、上の鳴り方がYAMAHA NS-10Mに似ていたことです。今月、楽器屋さんでバスレフ・ポートを押さえるユーザーが増えそうなのが目に見えてきそうです(笑)。

歪みが非常に少なく
再生に忠実なパワー・アンプ

スピーカーSLM-1の最大許容入力が70Wなので、大きい音を出すには、アンプSLA-1の出力が100W(8Ω)では力不足かと思いましたが、このアンプSLA-1は結構いい感じです。ほかのパッシブ・モニターを聴くチャンスが無かったのが残念ですが、歪みが非常に少ないと感じました。1Uながら、潜在能力は非常に高そうです。パワー・アンプを探している方は一度トライしてはいかがでしょうか?。確かな駆動(音)には確かなエンジン(アンプ)と奇麗なガソリン(電源)が必要ですからね。お薦めです。

最後に、モニターで困っている皆さん、色付けされた分かりにくいモニターで果たしてどれだけの満足できる音楽をスタジオで作り出せるでしょうか? リニアでフラットな、楽しむ音楽を作るための全く色付けの無いモニター。そんなモニターがそろそろ必要なのでないかと筆者は考えます。色を付けるのは私たちなのです。特にスタジオ・モニターには、録音内容を正しく判断することのできる、全く色付けの無い周波数レンジの広いモニターが必要とされています。スタジオ作業は、すべてに影響を与えるモニターをまず整えることから始めるのだということを、よく心に留めておいてください。


ART
SLM-1/SLA-1
55,000円(SLM-1/ペア)
39,800円(SLA-1)

SPECIFICATIONS

●SLM-1
■形式/2ウェイ・パッシブ・タイプ
■最大許容入力/70W
■周波数特性/40Hz〜20kHz
■外形寸法/250(W)×230(D)×410(H)mm
■重量/9.0kg
●SLA-1
■接続端子/XLR(バランス)、TRSフォーン(バランス/アンバランス)、マルチウェイ・バインディング・ポスト
■周波数特性/10Hz〜40kHz(±5dB)
■外形寸法/483(W)×241(D)×44(H)mm
■重量/6.0kg