高速なインパルス応答とフラットな特性を誇るパッシブ・モニター

EARTHWORKSΣ6.2

以前本誌記事でモニター・スピーカー試聴会に参加したことがありますが、その記事は非常に反響があったと聞いています。このことはモニター・スピーカーが数あるレコーディング機材の中でも、最もエンジニアやミュージシャンの好みが反映される機材の1つと言えるからではないでしょうか。今回はEARTHWORKSからの新製品、パッシブ・タイプのモニター・スピーカーΣ6.2をチェックしてみたいと思います。

可聴帯域をはるかに超える
驚異的な周波数特性

資料によれば、EARTHWORKSは、自社のマイクが本来とらえているはずの情報を完全に再現するモニターを作ろうと、並々ならぬ思い入れをもってこのΣ6.2を開発したそうです。6.5インチ・ウーファーとツィーターの2ウェイで構成される本機は、まずそのルックスにインパクトがあります。写真では分かりにくいかもしれませんが、ツィーターが1枚の板状になっている面に埋め込まれ、さらにその上部にバスレフ・ポートが開いていて、見た目からしてひと味違う感じを醸し出しています。使用されているユニットはVIFA社製のもので、特にツィーターはメーカーが今まで測定した中で最高のものであると評しています。さらに、これらの特性をペアごとに合わせ、自社のマイクと同様に時間特性の正確さを目指したとあり、タイム・コヒーレント・モニター、という通称が本機に与えられているほどです。今後サラウンド・ミックス用に5本で特性をそろえたセットの発売も検討しているようです。

これらのこだわりを持った作りから、超高速で応答しても歪まないインパルス特性と、可聴範囲外の超高域までフラットな特性を実現しているそうです。45Hz〜40kHz超(!)までを±2dBに収めた周波数特性には、非常に興味をそそられます。

超高速で応答しても歪まない
インパルス特性

筆者がモニター・スピーカーに求めるのは、音源をなるべく色付けすることなく、忠実に再現してくれることです。もちろん位相、周波数特性ともに、モニターしている部屋に大きく左右されるものですが、スピーカー本来の持つ特性が何より重要であることには違いありません。では、本機の実力のほどはいかがなものでしょうか。

実際に聴いてみてまず特筆すべきは、やはりその位相特性でしょう。前述のようにペアで特性を合わせてあるというツィーターは、非常にシャープに音像を結びます。そして中域から高音域、そして超高域にかけてスムーズにつながる周波数特性も、位相の向上に貢献しています。センターの音像がはっきり見え、ステレオの音像もその広さ、奥行きを忠実に再現し、特にリバーブなどの空間系エフェクトのモニタリングをとても正確に行うことができます。

モニターの位相が正確なことは、ミックス・ダウンや録音時に楽器等の配置を確認することだけでなく、その音源が正確に録音されているかの確認のためにも重要です。国内代理店では特にアコースティック/クラシックに最適なモニターだと位置付けているようですが、確かにそれもうなずけます。もちろんモニターであるためには、あらゆる音源に対してモニタリングできなければならないわけですが、本機はあらゆるジャンルの音楽にもその能力を発揮すると思われます。

初めは高域が少し控えめに感じたのですが、モニターの音量を上げていくと、今まであまり経験したことの無いような高域の再現性を持っていることに気付きました。これは、高音域の量が少ないのではなく、超高速で応答しても歪まない本機のインパルス特性によるもののようです。あたかもその音源の録音時に聴いていたアタック感がよみがえるような、そんな印象を持ちました。これは本機ならではの特色に挙げられるでしょう。スタジオで一般に使われるスピーカーよりも多少能率が低めなので、音量を上げるまでこの感触には気が付きませんでしたが、本機のレスポンスの速さは新しいモニタリングの概念をもたらしてくれるのではないかとさえ感じました。

唯一気になった点は、低域から超高域まで広い範囲においてフラットな特性を持ち、豊かな表現力を発揮する本機であっても、50〜60Hz以下の超低域においては、その表現力が少し足りないように感じたことです。ウーファーやキャビネット・サイズによる限界なのかとも思いますが、それ以外の性能が優れている分、気になってしまいました。ケーブルの交換やセッティングによって詰めていけるところかもしれないので、今後もぜひチェックしたいと思っています。

このΣ6.2は、その斬新なルックスだけでなく、新しいモニタリングの感覚という強烈なインパクトを与えてくれました。今現在使っているスピーカーでのモニタリングよりも、一歩進んだところを目指す方には、ぜひ試していただきたいモニターです。


EARTHWORKS
Σ6.2
600,000円/ペア

SPECIFICATIONS

■周波数特性/45Hz〜40kHz(±2dB)、40Hz〜50kHz(+2/−3dB)
■入力端子/NEUTRIK製スピコン、WBT製金メッキ・バインディング・ポスト
■インピーダンス/8Ω
■連続入力/150W
■最大ピーク入力/400W
■能率/87dB(1W/1m)
■外形寸法/250(W)×380(D)×400(H)mm(1本)
■重量/14.5kg(1本)