エンハンスから大胆な加工にまで対応する画期的ボーカル・プロセッサー

TC・HELICONVoice Prism Plus

私事で恐縮ですが、筆者は音楽も作るしSEも作る、場合によってはMAまでと“音関係なんでも屋”です。必要(すなわち予算!)にかられてのことなのですが、ディレクターにセリフの加工を依頼されることも意外に多いのです。ハード/ソフト問わずエフェクター大集合!で何とかしのいでいますが、やはり同じようなパターンに陥りやすく“何か画期的なネタはないかな”と思っているところでした。で、このTC・HELICONのVoice Prism Plus。“ヒューマン・ボイス・モデリング/フォルマント・プロセッサー”ということで期待大です。早速チェックしてみましょう。

音楽家寄りのパラメーターが用意された
ボイス・モデリング機能

Voice Prism Plusは、既発売のVoice Prismに新開発のVoiceCraftボードを組み込んだもので、Voice PrismにVoiceCraftボード(85,000円)を入れてVoice Prism Plusにすることも可能です。そこで、Voice Prismの機能をザッとおさらいすると
●4ボイス・ハーモニー生成
それぞれのボイスごとに、ジェンダー(性別)、ビブラート、タイミング、ランダマイズ、スクープ(歌い始めを実際の音符よりやや低く音程を出す。細かい!)などのパラメーターを設定可能
●マイク・プリアンプを搭載
48Vファンタム電源も供給可能
●プリエフェクトとして、コンプレッサーとデュアル・パラメトリックEQ を搭載
●ポストエフェクト用にコーラス、フランジャー、ディレイ、リバーブの空間系エフェクトを2系統搭載
と、ボーカルの録音/処理に必要なものはすべてそろっています。マイクプリ、エフェクターも当然高品質。この辺はさすがTC・HELICONです。で、肝心の4ボイス・ハーモニー生成ですが
●先にスケールを選んでおいて、入力に対して自動的に追従させる
●MIDIキーボードやシーケンサーで4ボイスの情報を送る
●コードをメモリーしておいてフット・スイッチで切り替えていく
という3つの方法が用意されています。では、期待のVoiceCraftボードの機能を探ってみましょう。ボイス・モデリングはリアルタイムに入力をリシンセシス/リシェイプするのですが
●VM SPECTRAL(トーン・コントロール)
17種のスタイルを選択可能
●VM WARP(声帯サイズの変更)
25種のスタイルを選択可能
●VM GLOTTAL(音程感の無い複雑な要素の追加)
息っぽさ、喉の擦れ、唸りを加えられる
●VM INFLECT(次の音程への“しゃくり”)
しゃくりの方向(上下)、速度、頻度の組み合わせを選択できる
●VM VIBRATO(ビブラート)
36種のスタイルを選択可能
という、5パラメーターが用意されています。複数のボーカリストの特性をモデリングしたデータベースからスタイルが作られているようで、極力ジャンル名で選択できる(見当がつく)ようになっているのが、音楽家寄りで好印象です。

処理はすべてリアルタイムで
ライブ用途にも向いている

手元にあった女性ボーカルもので試してみます。まずはピアノの弾き語り。“こ、これはスゴイ!”。名称に偽りなく、声帯サイズを変えて別人の声にしたり、ハスキーにしたりビブラートをかけたりすることができました。ただ、ザラザラした質感がやや気になります。狙いでやるのは別ですが、元音の補正という面ではマイナスでしょう。別なキャラクターにしようと思うほどその感じは大きくなるので、各パラメーターの調節が、かなり微妙になりそうです。次に同じ女性ボーカルで、バックがラウドな感じのロックで試してみましたが、バックのオケにマスキングされて、先ほどの違和感はだいぶん減りました。一般的には、極端な使い方よりも、“サビのところだけちょっとハスキーな感じにしよう”とか、“歌がフラット(平板)すぎるので、ビブラートとしゃくりを加えて抑揚をつけよう”という用途が良いと思います(というか、これはVoicePrism Plusが出るまでできなかったことなので、発想もできなかったのですが……)。全パラメーターをMIDIメッセージでやりとりできるので、DAWと組み合わせた声のキャラクターのオートメーションも可能です。もちろん、アマウントを豪快に上げて“新次元のデジ声”を作るのも当然アリです。

ボイス・モデリングにハーモナイザー機能、エフェクトを組み合わせるとものすごい数のボイス・メイキングが可能になるわけで、いやすごいです。なおかつリアルタイムですべて処理されるのでライブでの使用も可能という、まさに21世紀的な画期的ボーカル・プロセッサーと言えるでしょう。

▲リア部。上段がデジタルI/O部で、左からAES/EBU、S/P DIF。下段は左からライン・イン(TRSフォーン)、AUXイン(TRSフォーン)、ライン・アウト×2(TRSフォーン)、デジタル・アウト(S/P DIF)、フット・スイッチ、MIDI IN、OUT、THRUの各端子


TC・HELICON
Voice Prism Plus
250,000円

SPECIFICATIONS

■サンプリング周波数/44.1/48kHz
■AD/DA変換/24ビット
■入力インピーダンス(ライン)/28kΩ
■出力インピーダンス/680Ω(ステレオ)、340Ω(モノラル)
■最大入力レベル(ライン)/+21dBu
■最大出力レベル/+21dBu
■周波数特性(アナログI/O)/10Hz〜12kHz±0.8dB、−2dB@20kHz
■周波数特性(デジタルI/O)/DC〜23.9kHz±0.01dB@48kHz
■外形寸法/483(W)×89(H)×208(D)mm
■重量/3.54kg