充実の入出力端子群を装備した10Uラック・マウント型PAミキサー

CREST AUDIOXR20

手元にあるオーディオ・カタログに掲載されている米国CREST AUDIO社の製品は、そのほとんどが大型ミキサーやパワー・アンプだ。もちろん実際にはそれ以外の製品も存在するのだろうが、個人的に同社のラック・マウント・ミキサーには今回のレビューまでお目にかかったことはなかった。ミキサー界でもダウンサイジングが進み、競合する製品が多い中、本機XR20はどのような位置づけとなるのだろうか。

充実したアナログ・ルーティングと
効きの良い4バンドEQを装備


まずは概要を説明しよう。本機の入出力は12モノラル・チャンネル・イン、4ステレオ・チャンネル・イン、6AUXアウト、4グループ、L/Rアウト、モノラル・アウトとなっていて、それらが写真でも分かるように19インチ/10U、つまり約48×44cmのパネルに、ギッチリと詰め込まれている。いかにも"仕事できそう!"みたいな印象を受けた。モノラル・アウトの装備からも分かるように、本機はPA用途を強く意識したミキサーである。筆者自身はレコーディング・エンジニアでありPAに関するノウハウは乏しいが、ベーシックなサウンド・クオリティなど、なるべくレコーディング/PA両方の用途を想定してレポートしてみよう。


ではモノラル・インプット・チャンネルの方から詳しく見ていくことにしよう。一番上にあるのがMIC/LINE切り替えスイッチ(以下SW)だ。まずここにシカケがある。本機には過大入力を防ぐマイク用パッドSWが見当たらないが、リア・パネルのマイク入力のみが使用されているときはこのSWがパッドSWとなり、マイク入力に加えライン入力にもプラグが挿されていれば本来のMIC/LINE切り替えSWとして機能する。つまり、ライン入力をパッチ・ベイに立ち上げた場合はパッドは使えなくなるので注意が必要だ。


最大ゲインは72dBと小レベルのマイクにも十分対応でき、不要な低音域をカットする70Hzハイパス・フィルターは−18dB/オクターブとなっている。EQはロー/80Hz、ロー・ミッド/80Hz〜2kHz、ハイ・ミッド/400Hz〜8kHz、ハイ/12kHzという4バンド構成で、それぞれセンター・クリック付きのゲイン・ツマミで±15dBのブースト/カットが行える。標準的な構成ながら、ハイを上げればヌケが良くなりローを下げればダブツキが取れる、そんな感じの大変使いやすいEQだ。もちろんEQのオン/オフも行えるので比較もワンタッチで行える。


独立6系統の十分なAUX
フェーダーは100mmタイプを搭載


AUXは独立6系統。ほかのラック・マウント・ミキサーでは4系統だったり、6系統でも切り替え式のことが多いことを考えると、本機ではAUXをかなり重視しているようだ。AUX1と2はレベルとパンで調節するステレオ・ペアなので、メイン・ミックスとは別のミュージシャン用ステレオ・モニターやステレオ・エフェクターへの送り出しが簡単に行える。さらに2系統ずつプリ/ポストの選択も可能だ。


そしてパン、ミュートSW、100mmのチャンネル・フェーダー、バス・アサインSW、ソロSWがある。バス・アサインSWはMONO、L/R、G1/2、G3/4の4つ。MONOバスというのはPAミキサーでよく見られるもので、L/Rバスを会場PA用とし、MONOバスは楽屋などへ会場の進行を流したりする、らしい。


ステレオ・インプット・チャンネルは4本で、2つのチャンネルを同時にコントロールする以外は基本的にモノラル・チャンネルと同仕様だが、ハイパス・フィルターSWの代わりに2つのチャンネルを混ぜるSUM("合計する"の意)SWがある。このSWを入れて、ステレオ・チャンネルをモノラル・チャンネルとして使えば、本機は16モノ・インプットのミキサーとして機能するわけだ。


一番右端のマスター・セクション最上部にはヘッドフォン・モニター部、L/Rメーター、ライト用直流12VのBNCコネクターが用意されている。その下にはTAPE INのレベル、AUXマスター、4本のグループ・フェーダーが、さらに最下部には2系統のモニター用レベル、モノラル・フェーダー、L/Rフェーダーがあるという構成だ。


ここでもカルチャー・ショック! 一般的な録音用のミキサーではモニター・アウトをアンプにつないでマスター・フェーダーを絞ればスピーカーから音は出ない。ところが本機ではマスター・フェーダーとは関係なく音が出る。会場へ音を流すことなくモニターしたい状況がゴマンとあるであろうPAの現場を考えて納得がいったが、"こんなところも違うんだな"という実感だ。なお、録音用ミキサーには必需品のトークバック・システムは装備されていない。


抜群に豊富な入出力端子群を装備
非常に素直な音質もグッド!


リア・パネルもなかなかすごい。モノラル・チャンネルには独立したファンタム電源SW、XLRマイク・イン(ロック機構は無し)、TRS(3極フォーン・ジャック)バランス・ライン・イン、インサーション、ダイレクト・アウトと端子類が並ぶ。一方、ステレオ・チャンネルにはインサーション、ダイレクト・アウトは用意されていない。また他のすべてのアウトプット系にはインサーション端子が装備されている。AUXアウトはXLRとTRSの2セット! 他にはTRSグループ・アウト/イン、RCAピン/TRS両端子のテープ・イン、同じく両端子の"モニター/オルタネイト"と名付けられたモニター・アウト、XLRメイン・アウト/インとなっており、メイン・アウトはライン/マイク・レベルの切り替えが可能となっている。そして電源SW。これ以上何の要求があろうか!


なおアウト系のうちメイン・アウトはバランスだが、その他は特殊な"アンバランス"になっている。送り出しはバランスと同じ3極ジャックで、接続先の機器がバランス受けならば通常のアンバランスよりもノイズに強い仕組みだ。


音質については、今回はスタジオ内でチェックしたのみだが、その印象では、ボーカル、エレキギター、サンプル音などどれもが素直としか言いようのない音で、ダイナミック・マイクでもほんの少しハイを上げれば目の前で歌い、演奏しているようだった。今回はチャンスが無かったが、ぜひ生ドラムでも試してみたい。また、随所で使われているセンター・クリック付きのツマミ、軽すぎず重すぎないフェーダー、これらが合理的に配置されているので直感的な操作が可能だ。


小規模PAの現場はもちろん
練習スタジオへの導入もオススメ


さて一通り仕様や機能を見てきたが、実は性能には納得しつつも気になることが1つあった。異常とも言える入出力関係の充実に対し、ラック・マウントが前提であるにもかかわらず、実際にマウントしてみると使いにくくなってしまうリア・パネルにファンタムSWが装備されていることにちぐはぐな印象を受けたのだ。初めは単にスペース上の制約かとも思ったのだが、何か意図があるのではとよ〜く考えてみると、普段は忘れていた大切なことに思い当たった。


例を挙げよう。ミキサーを操作するのはPAや録音関係など、いわゆるエンジニア志向を持った人だけではない。ある小さなナイト・クラブではホール係のニイチャンが酒のグラスを運ぶ片手間にちょっとした歌のバランスを調節している。コンデンサー・マイクは使わないのでファンタム電源は不要だ。もしファンタムSWがフロント・パネルにあれば、何かのはずみでONになってしまうかもしれない。48Vという高電圧のファンタム電源は取り扱いには細心の注意が必要で、やたらにいじられたくないSWナンバーワンなのだ。


ところが熱心なファンがいてショウを録音してくれと言ってきたとしよう。そこでマネージャーは近所の録音に少し詳しい奴に本機を見せて何とかしてくれと頼んだ。本機の豊富な入出力を駆使して、彼は普段と同様にショウをこなしつつ、最適なバランスで録音するシステムを組み上げた。


つまり本機は、ある状況では深刻なアクシデントを回避する環境を、また別の状況では大型コンソール並みの自由度の高い環境を提供する、極端に言い換えてしまえば"人の役に立つ"という機械本来のポリシーを持つ設計なのだ(思い込みの可能性もアリ)。


とは言うものの、すべての状況で使いやすい機械などないワケで、本機もラック・マウントが前提、トークバックや位相反転SWが無いなど録音システムのメイン・ミキサーとしてはやはり使いにくい感は否めない。オススメは例で挙げたような、録音が絡むかもしれない小規模PAだが、練習スタジオに置いてみても面白いと思う。もちろんボーカル・ミキサーとしても使えるし、お客さんにレコーダーの持参をお願いして本機の簡単な使い方を教えて自由に録音してもらえば、ラジカセ一発録りとは比べものにならない高いクオリティのテープができると思うよ。



▲入出力端子群が整然と並ぶXR20のリア・パネル。最上段はインプット・セクションで左にバス・イン、ステレオ・チャンネル×4(XLR)、右にモノラル・チャンネル×12(XLR/フォーン)、各チャンネルに独立してファンタム電源が装備されている。中段はステレオ側がライン・イン(フォーン)、モノ側がチャンネル・インサートとダイレクト・アウト(ともにフォーン)。最終段は左からメイン・アウト(XLR)、メイン・インサート(フォーン)、モニター・アウト、オルタネイト・アウト、テープ・イン(すべてRCAピン/フォーン)、グループ・アウト/インサート×4(フォーン)、AUXアウト×6(XLR/フォーン)、AUXインサート×6(フォーン)


CREST AUDIO
XR20
380,000円

SPECIFICATIONS

■周波数特性/20Hz〜20kHz@1kHz(+0/−1dB)
■全高調波歪率/0.01%以下、20Hz〜20kHz@+15dBuアウト
■クロストーク/チャンネル・ミュート:>90dB、チャンネル・ルーティング:>80dB、チャンネル・フェーダー・アッテネーション:>90dB
■マイク入力(XLR)/4kΩバランス(最大ボルテージ・ゲイン:98dB)
■ライン入力(XLR/TRS)/>10kΩバランス
■RCAテープ入力/>10kΩアンバランス
■バス入力/>10kΩバランス
■L/R/Mアウト(XLR)/100Ωバランス
■グループ/ダイレクト・アウト(TRS)/50Ω
■AUXアウト(XLR/TRS)/50Ω
■外形寸法/482.6(W)×444.5(H)×114.3(D)mm
■重量/14kg