ソースに積極的な味付けが可能なステレオ・トーン・プロセッサー2機種

TMDVolcano/Volcano Tube

音の世界で非常にユニークな存在であるメーカーTMDからVolcanoとVolcano Tubeの2機種が発表された。本機はマイクプリ/3バンドEQ/リミッター付きのステレオ・プリアンプに分類されるだろうが、実は単純には位置付けできない総合サウンド・マシンだ。TMDの代表である畑野さんの本誌連載セミナーやBBSから大いに学ばせてもらっている身としては、TMD製品にはそれらのノウハウが十分に盛り込まれているのではないかと期待に胸踊る思いである……。

ステレオ仕様で
ハイインピーダンスの入力端子も装備

この2機種を一般的なマイクプリ/ライン・アンプとして紹介してよいのかどうか迷うところである。その性格があまりに楽器的であるからだ。MARSHALLとLes Paulギターの組み合わせで、“だれもがスーパー・ギタリストになれるとは限らない”のと同様に、本機もまた、使う側の技量次第というところが大きいと思われる。

まず、ステレオ仕様である点はとても高く評価できる。マスタリングにも容易に使えそうでうれしいところだ。入力端子はマイク入力がXLR、ライン入力がTRSフォーンでラインの信号が優先するように設計されている。ラインの出力端子はTRSフォーンのみ。何かの思惑でこのようにしていると思うのだが、ラインのイン/アウトには、バランスのXLRもあった方がより柔軟に使える気がする。ラインの入力インピーダンスは1MΩと高く設定されており、パッシブのギターやベースを直接接続するのに全く支障が無い。反面、ノイズを引きやすいところでの使用には十分注意を払ってもらいたい。

パラメーターが複雑に絡み合い
多彩かつ積極的な音作りが可能

今回のチェックはマイクとギター、ベース、2ミックス素材を通して行った。まず、Volcanoを試してみると、サウンドは10個のツマミの変化で千変万化の表情を見せていた。まずこの機種の特徴は、その“デフォルメのされ方”にあるように思う。まるでギター・アンプのようなEQのかかり方や、INPUT/OUTPUT GAINのあり方、ENHANCERやEDGEのあり方、さらにはDISTORTIONのあり方。そのすべてが守りではなく攻撃型の存在に見える。おとなしく整合性を取るというよりは、もっと前向きなサウンド構築を見据えているように思われてならない。10個のツマミの効果は、劇的な変化を見せるモノ、隠し味的な効果を見せるモノなどさまざまであるが、それぞれの存在意義は大きいようだ。

例えば、“高域にフックが欲しいときTREBLEで設定するのか、EDGEで行うのか”“サウンドにシャドウのようなものをかけたいとき、DISTORTIONを上げるのか、INPUT GAINを調整するのか”“ミッド・レンジをいじりたいとき触るべきなのは、ENHANCERなのか、MIDなのか”。一応、ENHANCERはミッド・ブースト的な効果であり、EDGEはプレゼンス・コントロール的な効果ではある。しかし、“このツマミがこのように効く”と言いきれれば楽なのだが、そうもいかない。歪みを得たいとき単純に“DISTORTIONを上げれば……”と考えがちだが、それで得られる歪みは、穏やかな隠し味的なものであり、一方、INPUT GAINをつっ込んで作られる歪みは、過激かつ圧倒的なサウンドである。EQに関してもそれぞれのツマミが、ほかの帯域に大きく食い込んで動作するので、個別の事象ではなく、あくまで“全体としてどう持っていくか”という決断がなくてはならない。

オプティカル回路のLIMITERは、あるときは素直に、あるときはエフェクティブにサウンドを演出してくれる。これもまた、幾つかのツマミの状態と相関関係にあって、事情は複雑である。つまりベストな選択は使用者に委ねられているのである。何度もこう言わなければならないほど本機の音作りの幅は非常に広く、なおかつどんなセッティングでも納得させられてしまうサウンドを持っている。

ファットなサウンドの
真空管タイプVolcano Tube

Volcano Tubeは、同じコンセプトに見えながら趣を異にしている。フロント・パネルは同一で、各ツマミの役割も全く同じものである。しかし、出てくる音はVolcanoとは全く異なって感じられる。チューブだからだろうか? いや、それ以外にも何か基本的な部分でキャラクター付けが行われているような気がする。一言で言えば、“ファットな傾向の別の機種”といったところだろう。ギターやベースでは、こちらの方が僕の好みに合っている。だがボーカルに関しては、どちらとも言えない。目指すもの次第で、より適したものが変わってくるだろう。2ミックス素材でも目指すもの次第というところはあるが、Volcanoの方がコントロールしやすかった。

2機種のテスト期間が短かったため、そのすべてを理解したとは言い難い。“どうしてこうなるのか”と、謎とも思える部分が多々あったからだ。それには畑野さんのこだわりからくる“技”も各所にちりばめられているのだろう。それらを1つ1つ探っていくのもまた楽しみなことである。“謎の数だけ魅力がある”。しかし、究めれば楽しいことこの上ない機材であることは間違い無い。

▲Volcano Tube。フロント/リア・パネルのパラメーター、接続端子類はVolcanoと同一のスペックとなっている


TMD
Volcano/Volcano Tube
185,000円(Volcano)
298,000円(Volcano Tube)

SPECIFICATIONS

【Volcano/Volcano Tube共通仕様】
■周波数特性/10Hz〜50kHz(−/+3dB)
■ゲイン/−10dB〜+40dB
■入力インピーダンス/300Ω(マイク)、1MΩ(ライン、ギター)
■外形寸法/482(W)×245(D)×88(H)mm
■重量/3kg
※Volcano Tubeの増幅素子/12AU7(真空管)、BB OPA-2604
【Volcano Tube付属の電源ユニット】
■消費電力/2A以下
■外形寸法/430(W)×200(D)×66(H)mm
■重量/約7kg