エフェクトやサンプラーを搭載したデジタル入出力付き4ch DJミキサー

TASCAMX-9

最近DJの現場で思うこと。"CD使う人、増えたなー"。DJ用CDプレーヤーの設置が当たり前になりその性能も上がったとなれば、クソ重いレコードを持って行く必然性は薄れる。しかもCD-Rで必殺Myコンピも容易に作れる。ってことはそれを20枚持っていけばDJできちゃう? いやいやMP3プレーヤー1台でOK? 数年後のカジュアルなDJスタイルが目に浮かぶ。そんな中、TASCAMから国内初のデジタルDJミキサーが登場! 未来型DJスタイルにマッチしたDJミキサーの歴史がここから始まるのか。その性能やいかに。

デジタルを含む多彩な入出力と
アイソレーターにもなる過激なEQ


まずは入力系を見てみよう。チャンネル数は4で、INPUT1〜4がそれぞれラインとフォノ端子を持ちPGM1〜4に立ち上がる。面白いのはINPUT1と2をPGM4と3にアサインできる点。クロスフェーダーの左右にも任意のPGMを設定できるので、ソースの順番のやりくりがかなり楽になる。さらにINPUT1のソースをPGM1と4から同時に出して、異なるエフェクトやEQを施してガシガシミックス、という荒技も可能だ。これはかなり遊べる。またフルデジタル回路を生かすべく、デジタル入力も2系統装備。これらはPGM1と2にアサイン可能で、CD等から音源をデジタル信号のまま入力できる。入力があれば当然出力にもデジタル端子が用意されている。つまりX-9を使用すれば、CDをソースとしたマスター・ミックス作業をフルデジタルで行う環境が整うわけだ。


PGM1〜4の各chに付いている3バンドEQにも特徴がある。通常のカット/ブーストのツマミに加えて帯域設定のツマミ付き、さらにブースト幅は+12dBと普通だが、カット幅が−40dB! もはやアイソレーターの世界である。そしてEQの設定は100パターンまで保存可能。また、クロスフェーダーの後にもHI/MID/LOWの−40dBカット・スイッチが付いており、これはまんまアイソレーターとして使える。


サンプラーも2基装備。最大サンプリング時間は最大8秒。長い。4小節ループも夢じゃない。しかもツマミ操作1つでリバース・ループもOK。これまた遊べる。この2基のサンプラーには別々のエフェクトをかけることもできる。


2系統のエフェクトと
2つのディスプレイがユニーク


今時エフェクト内蔵のDJミキサーなんて別に珍しくない。タップ・ボタンでBPMを検出して表示するディスプレイも然り。このX-9がユニークなのは、それらが2つずつ付いている点だ。これによりエフェクトは任意の2系統に同時に別のものをかけることができ、例えば曲から曲へつなぐときに、前の曲に使ったのとは別のエフェクトを次の曲の頭から使うことができるのである。これだけでミックス時のバリエーションは飛躍的にアップするだろう。またディスプレイが2つあることで、細かい設定を変えるときの混乱が大幅に緩和される。今かかっている曲と次にかける曲を整理してとらえることができるわけだから。


エフェクトの種類は、リバーブ、ディレイ、フランジャー、ローパス・フィルターなど、実戦的なものが8種類。もちろん細かい設定は変更可能で、これまた30パターンまでセーブしておける。別系統で外部エフェクトをつなぐこともできる。ただ、ここでSEND/RETURNのツマミを装備していないのはちょっと残念。


さて、X-9は冒頭で触れた未来型DJミキサーなのだろうか。私の感想では、その第一歩を踏み出した、といったところだ。デジタル入出力やソースのマルチアサインという概念は今後の進化に大きな期待を抱かせる。将来は音源ファイルをメモリーに蓄積してからチャンネルに振り分けて再生、ということも考えられ、そうなったあかつきにはX-9の設計思想は必ず生きてくるだろう。


では現状はどうか。クラブ現場で必要とされるポイントはしっかり押さえられ、ユニークな機能を使ったギミック・プレイも強力な武器だ。しかしX-9がそれ以上に威力を発揮するのはスタジオ・ワーク(もしくはオタクDJミックス)においてだろう。デジタルならではの高音質やVCAフェーダー採用によるガリ防止、キメ細かいEQ/エフェクト。マスター・ミックスを作るもよし、DJ風ラジオ・プログラムを作るもよし。DJ感覚を導入したい制作現場の心強い味方となるだろう。



TASCAM
X-9
118,000円

SPECIFICATIONS

■周波数特性/20Hz〜20kHz(±2dB)
■SN比/84dB(Line)、77dB(Phono)、70dB(Mic)
■クロストーク/70dB以上(1kHz)
■入力端子/ライン×4(RCAピン)、フォノ×4(RCAピン)、S/P DIF×2(コアキシャル)、マイク(XLR)、リターン(フォーン)
■出力端子/マスター(XLR、RCAピン)、S/P DIF(コアキシャル)、ブース(RCAピン)、センド(フォーン)、ヘッドフォン×2
■外形寸法/320(W)×87(H)×354(D)mm
■重量/7.0kg