バランスの良い特性を持ち幅広い用途に向いたBLUEのエントリー・モデル

Blue MicrophonesBaby Bottle

最近のコンデンサー・マイクは、本当に安くて良質なものが増えてきたとつくづく感心しています。今回紹介するのは、ユニークなレトロ・デザインのコンデンサー・マイクで有名なBLUE社から、エントリー・モデルとしてラインナップに加わったBaby Bottleです。同社の製品はダイアフラムからネジ1本まで完全自社生産で、生産設備はラトビア(旧バルト3国の1つ)にあるとのこと。一体どのような音がするのでしょうか?

周波数特性のクセが少ない
専用の振動板ユニットを採用

まずは見た目/外観から。シンプルに、カプセル・ユニット部分とアンプ・ボディ部分に分かれたビンテージ・スタイルのマイクです(真空管のビンテージ・マイクで、この形に似たものがあります)。同社のBottleやKiwiと似たデザインですが、サイズは一回り小さく、一般的なコンデンサー・マイクのサイズと比べるとやや細身といったところでしょうか。振動板のカプセルが収められているのは、つや消しシルバーの球状ユニット・ボックス。ウィンド・スクリーンのメッシュは丁寧に加工され、ユニットがうっすらと透けて見えます。アンプ部分のボディ・カラーは印象的な黒。ざらついた手触りは、上位機種と同じ仕上げとのこと。そんなマイク本体は、豪華ローズウッドの木箱に収められています。一見、首の長い“こけし”型ですが、全体的なデザイン/手触りも含めると、思いのほかシックで高級感があります。

アンプ部は完全A級動作のフルディスクリート仕様。ICは一切使用されておらず、組み立てももちろんハンドメイドとのことですから驚きです。振動板ユニットは専用のものを使用。同社の他の製品が穴開きタイプ(NEUMANN型)であるのに対し、Baby Bottleはフロントがフラットなタイプ(AKG CK-12のような形態)で、フロント全体で音を拾うタイプです。一般的なダイアフラムと違ってカプセル中央に電極ポイントが無いため、周波数特性のクセが少ない設計となっています。指向性は単一指向性のみで、パッドやローカットなどのスイッチは一切無し。オプションで専用ポップガードなどが用意されています。

音楽的スムーズさを感じさせる
ふくよかで滑らかなサウンド

さて、実際に音を聴いてみましょう。今回は比較対象としてNEUMANN U87を用意し、マイク・アンプおよびファンタム電源はSSLのJシリーズ・コンソールのものを使用しました。

まずS/Nですが、これは全く問題無し。個体差や経年変化もあるので一概には言えませんが、Baby Bottleの方が良いと感じました。音量はBaby Bottleの方が若干大きく(1〜2dB程度)、指向性は、U87が真後ろに向かってだんだん高域のバランスが小さくなるのに対し、Baby Bottleは中低域のバランスが小さくなってくるという正反対の結果になりました。正面での特性は思ったほど差が少なかったですが、センター・ポジションからずれていくと、両者の差が出てきます。

近接効果はU87と同じくらいです。つまり結構影響が出るので、かなりのオンセッティングでは注意が必要かもしれません。高域は、最近の製品によく見られるエンハンスされたような不自然さは無く、U87よりも倍音の伸びが感じられます。打楽器/金管楽器やシャウトしたボーカルのオンセッティングなどのように音圧の高い録音時でも、ダイアフラム自体は平気でした(マイク・アンプなどで歪まなければOK)。逆に、ウイスパー・ボーカルなどの小さな音のときも、マイクによっては子音がすごく強調されることがあるのですが、Baby Bottleではしっかり実体のある音でとらえることができます。帯域的な個性としては、中高域と中低域に少しだけ粘りがあるというか、音楽的にスムーズというか、ふくよかで滑らかな印象がありました。特に女性ボーカルで使うととても良い結果が出そうです。

全体的には、割とどの楽器にも無理なく使える、オールマイティな用途を考えて設計されたマイクと言えるでしょうか。この価格帯のマイクは、何種類もそろえて楽器ごとに……なんて使い方ではなく、ボーカル、アコギ、エレキギター、ドラムやパーカッションなど、1本でいろいろな録音に使うユーザーが多いですから。

従来のマイクの場合、デザインやカラーリングは後回しにされてきたというか、機能/スペック第一主義的な考え方が主流でしたが、マイクは歌い手やミュージシャンが直接対峙する物ですから、かっこいい方が良いに決まってます。Baby Bottleの個性的なフォルムは好き嫌いがハッキリするかもしれませんが、どこで収音しているか、どこを向いているかが一目瞭然で、無駄の無い機能的なデザインだと思います。肝心の中身の方も、十分な実力を備えたバランスの良いマイクで、上位機種にも興味がわくような今回のチェックとなりました。マイクの定番の形にとらわれない、自由な発想や感覚が反映された、レトロ・キッチュでいてハイスペックなこのマイクは、殺風景な録音現場に一石を投じてくれそうです。こういう方向性や考え方は実に将来が楽しみだと思うのですが、皆さんはどう思われますか?


Blue Microphones
Baby Bottle
オープン・プライス(市場実勢価格79,800円前後)

SPECIFICATIONS

■指向性/単一指向
■周波数特性/20Hz〜20kHz
■出力インピーダンス/50Ω
■推奨負荷インピーダンス/>1kΩ
■感度/33.5mV/Pa(@1kHz)
■最大入力レベル/133dB(0.5%THD)
■外形寸法/45φ×222(H)mm
■重量/350g