ビンテージ・シンセの“太い音”を追求したSHシリーズ最新機種

ROLANDSH-32

PCM音源系のXVシリーズやFantom、ダンス・ミュージック向けのMCシリーズ、話題沸騰のバリフレーズ・プロセッサーVP-9000など話題に事欠かないROLAND製品だが、今度はROLANDのアナログ・シンセの代表的な型番、SHの名を冠したモデルの登場である。純粋なアナログ・シンセ系の音源は実にJP-8080以来となるが、コンパクトな白いボディに大量のツマミやボタンがところ狭しと配置され、非常に“いじり甲斐”のある製品のようだ。

小さなボディに詰め込まれた
多彩なパラメーター群

本機の基本的な音源構成は、2オシレーター、1フィルター、1アンプ、2LFO、3エンベロープ(ピッチに対してはA/Rのみ)。音源部には、最近流行のビンテージ・シンセ・サウンドを研究して開発された新音源、WA(Wave Acceleration)方式を採用。“太い音”“抜けのいい音”を徹底的に追求しているとのことだ。また、TR-909、TR-808などのダンス系リズムの波形も63種類用意し、さらにはエフェクトも内蔵。SHシリーズの最新機種にふさわしい構成と言えるだろう。

では音源部を細かく見ていこう。パネルには、左からオシレーター→フィルター→アンプと信号の流れがはっきり分かるようにボタン類が配列され、しかもフィルターはロータリー式ツマミ、エンベロープにはスライダーを採用するなど、使いやすさを最優先した仕様が見逃せない。

オシレーター部で特筆すべき点は、オシレーター・バリエーションの豊富さだ。ウェーブ・フォームは7種類をボタンで切り替えて使うのだが、それぞれにバリエーションが用意されており、合計67種類もの波形の中からセレクトできる。ちなみにオシレーター1/2の設定は同じボタン類を兼用しているが、OSC 1とOSC 2のボタン1つで切り替えが可能になっている。

次にフィルター部だが、ローパス/バンドパス/ハイパスという一般的なタイプに加え、ピーキング・フィルターというものが用意されている。これはバンドパスに多少近いが、カットオフ周波数付近の倍音を、他の帯域をカットすることなしに強調するというもの。また、ダイレクトにオシレーターのサウンドを出力したいときには、フィルターをOFFにすることも可能だ。

さらにアンプ部だが、ここは実にシンプル。このアンプ部の上にはインサーション・エフェクト用のツマミとON/OFFボタンが用意されており、より細かいエフェクト・パラメーターはパネル右側にあるツマミで設定する。このインサーション・エフェクトはコンプ/リミッターなど一般的なものから、ローファイやアイソレーターまで35種類。これとは別にディレイ/リバーブといったループ・エフェクト(こちらは10種類用意)も同時にかけられる。いずれもワンタッチでON/OFFができるようになっているのは、実際の使い勝手をちゃんと考慮して開発された証拠だ。

アルペジエイターも搭載し
音作りの幅も飛躍的にアップ

MCシリーズなどと同様に、当然このマシンにも単なる音源にはとどまらない機能が満載されている。その最大の魅力はアルペジエイターだ。アルペジオ・スタイルとリズム・スタイル(各64種類)は、すべてユーザーによって書き替えが可能で、リアルタイム/ステップで入力することができる。さらにコード・メモリー機能を組み合わせれば、パターン・シーケンサーとしても使用可能だ。そのほか、ソロ/ユニゾン、オシレーターにわずかな揺れを出すANALOG FEELボタンや、アルペジエイターのテンポやLFOの周期を手動で入力できるTAPボタンもあり、非常に豊富な機能を備えている。

さらにPREVIEWボタンを押せば、下段13個のボタンが点灯し仮想鍵盤になるプレビュー機能も装備。外部MIDI機器をつなげることなく、本機だけで音が出せる。ホールドや上下4オクターブ切り替えもできるので、音のチェックにとどまらず本体だけで演奏までできてしまう。しかもうれしいことに、プレビュー・モードで演奏している情報は、アルペジエイター情報も含んだ状態でMIDIアウトから送信することができる。外部音源をユニゾン演奏させれば、さらに複雑なサウンドを作ることもできるだろう。

音の印象はかなり現代的、というか流行を意識したもので、ローファイ系が得意な印象が強かった。特に幾つかのパートがレイヤーさたサウンドや、内蔵エフェクトを施した音は非常に強烈な印象。低域をより増幅させるローブースト機能も搭載されており、オシレーターにサブソニックも加えると素晴らしい重低域が体験できた。

また最初にも述べたが、コンパクトなボディに驚くほど豊富な機能を満載している点も秀逸。ただ、設定状態の際にランプ付きボタンの点灯/点滅が別の意味を持っていたり、モードによって1つのボタンに複数の機能が搭載されているので、完全に使いこなすにはこの辺りの理解を深める必要がある。だが、アナログ・シンセ・サウンドを追求したいユーザーにとっては、今まで高価だった高機能シンセが驚くほどのコスト・パフォーマンスで手に入れられるチャンス。クラブ系サウンドを意識した製品としても素晴らしい出来だと思う。


ROLAND
SH-32
55,000円

SPECIFICATIONS

■パート数/4(3+1リズムに切り替え可能)
■最大同時発音数/32音
■シンセ・オシレーター原波形/7グループ、67種類(SAW=12、SQUARE=10、PULSE=9、PWM=1、TRIANGLE/SINE=5、SPECTRUM=20、NOISE=10)
■リズム・セット用波形/63種類
■エフェクト/2系統(インサーション・エフェクト=35、リバーブ/ディレイ=10)
■外形寸法/303(W)×228(D)×91.5(H)mm
■重量/1.9kg