真空管/ソリッド・ステート回路を切り替え可能な一体型シグナル・プロセッサー

MILLENNIASTT-1"Origin"

今回紹介するMILLENNIAのSTT-1は、ヘッド・アンプ/コンプレッサー/イコライザーが一体になったモノラルのシグナル・プロセッサーです。こういった一体型シグナル・プロセッサーの便利なところは、セッティングが楽なことや、単体機を組み合わせたときよりも信号のロスが少ないことなどが挙げられますが、ヘッド・アンプ/コンプレッサー/イコライザーのすべてが自分の好みのものを見つけるのは、なかなか難しいでしょう。最近はこの手の製品が続々とリリースされており、ユーザーにとっては選択肢が増えてうれしいことです。先日マスタリングに行ったスタジオでは、このSTT-1をステレオ・リンクして使っていました(マスタリング仕様に改造されていたようですが)。そのときの印象が良く、個人的に気になっていたので、今回実際にチェックできるのはとても楽しみです。

HA/コンプ/EQの各セクションで
きめ細かい調整が可能

本機の一番の特徴は、ヘッド・アンプ/コンプレッサー/イコライザーの各セクションをチューブとソリッド・ステートで切り替えられる“Twin Topology”でしょう。各セクションごとにチューブとソリッド・ステートを組み合わせた製品は今までにもあり、実際に使用したこともありますが、それぞれを切り替えられるという製品をチェックするのは本機が初めてです。構成としては同社のコンプレッサーTCL-2およびイコライザーSEQ-2と同等の回路にヘッド・アンプ・セクションを組み込んだ形になっているようです。

まずフロント・パネルから見ていきましょう。2Uのパネルに大きめで操作しやすいツマミやスイッチがうまく配列され、操作性はかなり良い印象です。

一番左がヘッド・アンプ・セクションです。一通りのパラメーターが装備されていますが、ここにあるINPUT TTがヘッド・アンプのVT(チューブ)とSS(ソリッド・ステート)を切り替えるスイッチです。その右横にあるVACUUM TUBE GAINとSOLID STATE GAINでそれぞれのゲインを調整します。また、Hi-Zインプットが装備されているので、ベースやギターを直接入力可能です。

イコライザーはLF/LM/HM/HFの4バンド構成になっています。LF/HFはシェルビングとピーキングを切り替えられるタイプで、LM/HMはパラメトリック・タイプです。LM/HMには周波数を10倍にシフトする×10のスイッチがあり、幅広い帯域へのイコライジングが行えます。各バンドごとにバイパス・スイッチがあるのも便利です。

コンプレッサーはTHRESH/ATTACK/RELEASE/RATIOの他にDE-ESSERというツマミがありますが、これは指定した周波数をブーストした信号をコンプレッサーのサイド・チェインとして入力し、ディエッサー効果を得るものです。このコンプレッサー・セクションはイコライザーのプリ/ポストでインサート・ポイントを選択できます。

イコライザーとコンプレッサーのVTとSSの切り替えはEQ/COMP TTで行いますが、残念ながらイコライザーとコンプレッサーで別々に切り替えることはできません。

リア・パネルにはMIC/LINEのインプットと3系統のアウトプットがあります。DIR OUTはHA直後の信号、その左がアンバランスのMASTER OUTとバランスのMASTER OUTになっています。アンバランスのMASTER OUTにはフォーンとXLRの両方が装備されていますが、XLRもアンバランス出力となっているので、セッティングには注意が必要です。その他に本機を複数使用するときのDYNAMICS LINKの端子があります。

音源やマイクの種類に合わせて
バリエーションの広い音作りを

では注目の音を聴いてみましょう。まずヘッド・アンプですが、VTではボーカルが太く粘りがあり、音が前に出てくる感じです。ドラムのオーバーヘッド・マイクを若干オーバーロードさせた際も力強く、気持ち良い歪みが得られます。SSでは音にスピード感があり、特にアコースティック・ギターやピアノとの相性が良く感じられました。音源やマイクに合わせて両者を切り替えれば、ほとんどの場合に対応できそうです。フロントのHi-Zインプットはギターやベースだけでなく、シンセに使うと適度な太さが加わり、生楽器との混ざりが良くなるように感じました。

イコライザーは、VTのときはLF/HFの伸び方が、SSのときはHMをブーストした際の音の張りが印象的でした。VTでのLF/HFはチューブらしい緩やかなカーブで気持ち良く伸びてくれます。またSSでは狙ったポイントをしっかりイコライジングできるので、両者の使い分けとしては、録りでざっくりとEQしたい場合はVT、ミックスで細かく追い込みたい場合はSSといった感じでしょうか。

コンプレッサーはVTとSSでかなりキャラクターが変化するように感じました。特にRATIOを上げていくとその差が分かりやすいと思います。VTのときはかなり深めにかけても自然なのに対し、SSではかかっているときとかかっていないときの差が割とはっきり出てきます。また、同じATTACK/RELEASEでもSSの方が音源に対する追従が速いようです。個人的には、ボーカルを自然に太く録りたいときはVT、ドラムやパーカッションにはSSという組み合わせが良いかなと思いました。しかしこうなってくると、イコライザーとコンプレッサーで別々に選択できないのが余計残念な気がします。実際に使ってみると、EQはVTでコンプはSSにしたいと思うこともけっこう多かったのです。

チューブとソリッド・ステートを使い分けるTwin Topologyの効果は想像以上に大きく、作り出せる音のバリエーションはかなり広いと思います。1台で何でもこなせる万能機と言えるでしょう。


MILLENNIA
STT-1"Origin"
オープン・プライス
市場予想価格380,000円前後(ブラック・フィニッシュ)
写真のプラチナ・フィニッシュは39,000円高

SPECIFICATIONS

■周波数特性/3Hz〜200kHz(−3dB)、10Hz〜100kHz(±0.5dB)
■全高調波歪率(20Hz〜30kHz)/0.005%(SS)、0.05%(VT)
■最大出力レベル/+32dBu(バランス出力)
■最大システム・ゲイン/60dB(バランス出力)
■真空管/12AT7、12AX7、12AU7
■外形寸法/482(W)×89(H)×393(D)mm
■重量/約12.25kg