24ビット/96kHz対応の高音質・多機能なデジタル・ミキサー

TASCAMDM-24

コンピューター・ベースのDAWやミキサー一体型HDRが流行する中でも、音質やフェーダーでの直感的な操作、さまざまな付加機能という点で、まだまだデジタル・ミキサーから目を離せない。以前、本誌でTM-D8000とTM-D4000をレビューしたことのある私は、TASCAMのデジタル・ミキサーの歴史を追っている1人と自負(!?)しているが、期待の新機種、DM-24の実力はどれほどのものだろうか?

充実した入出力端子と
使い勝手の良いレイアウト


24ビット対応の本機は、32入力/8バス/6AUX構成。88.2kHz/96kHzのハイサンプリング・レートにも対応している(この場合は16入力/8バス/4AUX)。単体でのフルオートメーションが可能な上、目玉機能としてTC|WORKSのリバーブ、ANTARESのモデリング・エフェクトを標準搭載しているのもポイントだ。サイズはYAMAHA 02Rより一回り小さめな感じ。トップ・パネル上にはアナログ入出力端子、リアにはあまりケーブルを抜き挿しする必要の無いデジタルや同期関係の入出力端子が並び、一度セッティングしたらほとんどコンソールを動かさなくても良いレイアウトになっている。これらの入出力関係は非常に充実していて、ホーム・レコーディングではもちろんのこと、プロダクション・スタジオ・レベルで求められるような“穴という穴”が、すべて装備されている感じだ。デジタル端子から見ていくと、TASCAMの独自フォーマットであるTDIF-1を3系統、ADAT IN/OUTが1系統、S/P DIFとAES/EBUの切り替えが可能な入出力を2系統装備。このほかにMIDI IN/OUT/THRU、ワード・クロック入出力、DTRS機器を本機でコントロールするためのリモート・コントロール端子なども備えられている。また、ADAT、AES/EBU、アナログ入出力などのオプション・カード用スロットも2つあり、自分のシステムに応じたセットアップが組めるというわけだ。アナログ入出力周りも気が利いている。まず入力端子はXLRとTRSフォーン(バランス/アンバランス兼用)に加え、外部アウトボードを使用するときに必要なインサート端子が16系統のアナログ入力すべてに装備されている。このクラスのデジタル・ミキサーだと8ch分くらいしかインサート端子が用意されていないものが多く、外部アウトボードをインサートしたいときはわざわざチャンネルをずらしたりしていたが、本機ではその手間は考えなくて良いのだ。また、このインサート端子はマスターのステレオ・アウトにも装備されているので、外部アウトボードでマスター・エフェクトをかけることもできる。ヘッドフォン・アウトも2系統あり、宅録でボーカル録りをするときなど、複数人数で作業する際には非常に便利だろう。こういう細かいところまでの配慮が、TASCAMの設計思想の好きなところで、アナログとデジタルの良い融合の仕方と言って良いだろう。また、アナログ入力へ4ch単位で48Vファンタム電源を供給することも可能だ。アナログ入出力としてはこのほかに、4系統のアサイナブル・センド/リターン(バランス)、2TRインが装備されている。

内部32ビット処理の高音質と
つまみによる良好な操作性


では、実際にチェックしていこう。内部処理32ビットのおかげか音質は非常に良く、つややかで重量感のある印象だ。マスター・アウトはもちろんのこと、コントロール・ルーム・アウトの音質も非常に良い。各入力チャンネルには、デジタルのトリムやチャンネル・ディレイ(0〜371.5msec)、EQ、コンプ/リミッターなどが備えられている(画面①)。またアナログ入力に対応する1〜16chには、ドラムなどの生楽器を録音する際に重宝するゲート/エキスパンダーも装備されている。これらダイナミクス系のパラメーターやセンド・レベル、バスの選択、パンなどのコントロールは非常に簡単だ。まずMODULEボタンを押し、次に任意のチャンネルのSELECTボタンを押せば、そのチャンネルの状況がディスプレイ上で確認できる。各セクションの詳細なエディットは、ディスプレイ下の4つのボタンと“PODつまみ”というロータリー・エンコーダーで行っていく。例えばDYNAMICSボタンを押せばコンプ/リミッターのエディット画面に変わり、ディスプレイ右下にあるカーソル・キーで変更したいパラメーターに合わせて、PODつまみでエディットするわけだ。ちなみにこのコンプ/リミッターのかかりは非常に良く、ややウォーミーな感じを受けた。EQもPODつまみでエディットすることもできるが、ディスプレイ左下にある4つの“リング・エンコーダー”と、その上にあるEQUALIZERセクションのバンド・セレクト・ボタンとの組み合わせでのエディットも可能だ。このリング・エンコーダーを使った場合、LEDがツマミの位置を示し、どのポイントをブースト/カットしているかが視認できるので非常に便利だ。また、このリング・エンコーダーは、EQの設定以外にもAUX1〜6のセンド・レベルにも使用することができ、EQと同様にLEDでレベルを確認できるのはうれしい。MODULE画面を表示していないときでも、任意のチャンネルのセレクト・ボタンを押せば、リング・エンコーダーでエディットできるので、操作に慣れてくればかなり早くエディット作業ができるだろう。

TC|WORKSとANTARESの
高品位エフェクトを標準装備


内蔵のエフェクトは2系統を同時に使うことができ、それぞれのルーティングをシリアル/パラレルに設定することも可能だ。エフェクトへの送りはAUX1〜6の中から選択し、戻りはch25〜32の任意のチャンネルに立ち上げる。プリセットは、TC|WORKSのリバーブとANTARESのモデリング・エフェクトが用意されているプリセット群(P1)、TASCAM製のディレイ、リバーブ、ピッチ・シフトなど127種類のプリセット群(P2)と、128種類登録可能なユーザー用のバンク(U)の3バンクに分かれている。TC|WORKSのリバーブ(画面②)は、“さすが!”としか言いようがない。少ない文字数では表現しきれないが、その臨場感は素晴らしいものがあった。音質はもちろんのことだが、さまざまな状況に合わせたプリセットが用意され、さらに細かいエディットも可能になっている。個人的にはルーム系のリバーブが気に入った。
▲画面② TC|WORKSからプログラム供給を受けたリバーブの画面。部屋の大きさや形状もパラメーターとして用意されており、細かなエディットが可能だ 一方、ANTARESのモデリング・エフェクトはマイク・シミュレーターとスピーカー・シミュレーターが用意されている。特にマイク・シミュレーターは古今東西の83種類のマイクを精巧にシミュレートしたプログラムがあり、TELEFUNKEN U47やCOLESのリボン・マイクなどの珍しいマイクまでを網羅している。特にNEUMANN U47やU87の重量感とつやのある感じは良く再現できていると思う。

100mmタッチセンス・フェーダーと
オンボード・オートメーションを搭載


このモデルからオンボード・オートメーションを搭載し、ホスト・コンピューターを持たずともオート・ミックスが可能になったのもポイントだ。外部機器からのタイム・コード・アウトと本機のタイム・コード・インをつないでおけば、シンク・ソースを“TC IN”にして、ディスプレイをオートメーション画面に切り替え、Automation Engineをオンにするだけで準備は完了する。書き込みは非常に簡単で、レコーダーなどの外部機器を走らせると、ディスプレイ内右上のロケーション・カウンターが動き出し、タイム・コードを受けているのが確認できる。WRITEモードではパラメーターの絶対値を書き込んでいくのだが、2回目以降はコントロールを動かした部分のみ上書きされる。また、WRITEモードで書き込んだ値からどれだけ増減するかを書き込むTRIMモードもあり、一度ミックス・バランスを決めた後で修正していくときに活用するといいだろう(画面③)。
▲画面③ オートメーションの設定画面。フェーダーだけでなく、ダイナミクス・セクションやエフェクトなどもオートメーションに対応している 実際にフェーダー・オートメーションをやってみたが、タッチセンス・ムービング・フェーダーの感じは非常に扱いやすく、フェーダーに触れた時点で書き込みが開始されるので、集中して作業が行える。ストロークは100mmの長さがあり、フェーダーの抵抗感もちょうどいい感じで、細かいエディットも問題ない。同時に複数本のフェーダー情報を書き込んでみたが、それについても何のストレスも感じなかった。今紹介したオートメーションの方法は本機がスレーブとなった場合だが、バージョン・アップで本機をマスターにもできるようになるそうだ。デジタル・ミキサー・マニアの私としては、今回のDM-24には大きな期待をしていたが、実際に触れてみた感じは期待以上の性能だった。音質、操作性、エフェクトや オートメーションなどの性能は、従来のこのクラスの製品を十分に上回っていて、非常に高く評価できるデジタル・ミキサーと言っていいだろう。定価で40万円を切るコスト・パフォーマンスの高い製品と言うことで、これからデジタル・ミキサーの購入を考えている方にはぜひお薦めしたい。

▲画面① MODULE/SETUP画面では、そのチャンネルのダイナミクス・セクションやEQ、ルーティングなどが一望できる



▲リア・パネルにはデジタル入出力と同期/コントロール関係の端子が並ぶ。左上から、オプションのメーター・ブリッジへの接続端子、ADAT IN/OUT、ワード・クロックOUT/THRU、IN、TDIF-1×3。2段目はMIDI IN/OUT/THRU、フット・スイッチの入力、タイム・コードの入力、DTRS機器のコントロール端子が備えられている。最下段にはAES/EBUとS/P DIFコアキシャルの入出力と、外部機器をコントロールするためのGPI、RS-422の各端子も用意されている

TASCAM
DM-24
398,000円

SPECIFICATIONS

●アナログ・オーディオ特性
■入力インピーダンス/2.2kΩ(マイク)
■入力レベル/−56dBu〜−2dBu(マイク)、−42dBu〜+12dBu(ライン)
■歪率/0.1%以下@20Hz〜20kHz(マイク・イン→インサート)、0.013%以下@1kHz(ライン・イン→ステレオ・アウト)
■周波数特性/20Hz〜25kHz、+0.5dB/−1.5dB(マイク/ライン・イン→インサート)
●デジタル入出力
■入出力端子/TDIF-1×3、ADAT IN/OUT、AES/EBU(またはS/P DIFコアキシャル)IN/OUT×2
■サンプリング周波数/44.1kHz、48kHz、88.2kHz、96kHz
●その他
■外形寸法/582(W)×198(H)×657(D)mm
■重量/20.5kg