新開発アルゴリズムと豊富なプリセットを搭載したM・Oneの上位機種

T.C. ELECTRONICM・One XL

T.C. ELECTRONIC M・Oneは、高級スタジオ用エフェクター・メーカーとして定評ある同社のサウンドを、低価格で手に入れることのできる魅力的な機種だ。リバーブやコーラスを中心にした空間系エフェクトが中心の比較的シンプルなマルチエフェクターだが、その質の高さと使いやすさから、プロの現場でのサブ機としても十分活躍できる素性を持っている。今回はその上位機種とも言えるM・One XLが登場。新規アルゴリズムを追加し、PA現場でのより積極的な使用も視野に入れた製品になっているようだ。

内部演算量の増加により
より豊かなリバーブ成分を実現


M・One XLはM・Oneの上級機ということで今回チェックに臨んだが、最初どこが変わったのか一向にピンとこなかった。外見はほとんど変わらず、中身の方もリバーブのバリエーションが1つ増えたぐらいで、基本的にはM・Oneとほぼ同じ仕様のようだ。そこでまず資料を見ながら従来のM・Oneからの変更点を挙げてみた。
・I/Oがフォーン端子からXLR端子に変更
・新開発のスモール・ルーム・リバーブを追加
・ファクトリー・プリセット数が200に倍増
・より密度の高いリバーブを実現
・初期反射音および余韻成分のエンハンス
・アルゴリズムが25に増加
といったところだ。


またメーカーの話によると、本機では内部処理の演算量が増えることで初期反射のステレオ感が向上し、リバーブ成分などもより複雑になったとのこと。ユーザーには見えにくい部分でも確実に改良がなされているようだ。実際にM・Oneと聴き比べていないので、どれほど音が変わったのかは判断できなかったが、本機のプリセット・サウンドはやはり"さすがにTCだな"と感じるもの。特にリバーブ音のテール・エンドは、とても10万円未満の製品とは思えないほどのスムーズさだ。


M・Oneから受け継がれた
洗練された機能と操作性


では、従来のM・Oneと重複してしまうが、ざっと本機の主な仕様を見ていこう。エフェクト・エンジンは2つで、そこへ任意のアルゴリズムをアサイン可能。この内訳が読者には最も気になるだろうから全部挙げておく。リバーブがHall、Room、Small、Plate1&2、Spring、Live、Ambience。ディレイがOne-Tap Delay、Two-Tap Delay、PingPong Delay。コーラス系がClassic Chorus、4Voice Chorus、Classic Flanger、4Voice Flanger。ピッチ・シフトがDetune Pitcher、Tremolo Pitcher。EQはParametric EQ。ダイナミクス系がCompressor、Limiter、Gate/Expander、De-Esser。その他Soft Tremolo、Hard Tremolo、Vintage Phaser、Smooth Phaserの全25種類が用意されている。


これらのアルゴリズムの中から2つ(重複可)を選んで、並列、直列などルーティングを決めて組み合わせる。プログラムにはこのルーティング情報も含まれるので、プリセットを切り替えていくとディスプレイのルーティング図も変化して、常に現在の状況が把握可能だ。さらにルーティング状態だけを固定して、プリセットを変更してゆく"ルーティング・ロック"機能も便利。音作りにさほど時間をかけられない現場では、限定した接続方法でサウンドを探し始めるケースが多いので、この機能が大変有効となる。


またフロント・パネルのEFFECT BAL.ツマミでは2エンジン間のエフェクトの割合を瞬時に調整可能(このツマミこそがプロの現場、特にPAでM・Oneが重宝されている大きな要因だと思う)。パネル中央のTAPボタンでは、ディレイ・タイムなどを簡単に入力可能だ。また、リア・パネルに用意されたペダル端子を利用すれば、各エンジンのバイパスやプログラムの変更はもちろん、上記のTAP関連の値も操作することができる。


そのほか、ディスプレイにはインプットとは別にダイナミクス専用のメーター表示がされたり、MIDIはTHRU端子も用意。当然MIDIコントロールやバルク・ダンプにも対応していて、通常必要になる機能は漏らさずに装備していると思ってよい。また、どの機能もシンプルだが使いやすく、実際オペレートする手順までがしっかり考慮された設計だ。XLになってもこの操作系にほとんど手が加えられなかったのは、最初からM・Oneの完成度がかなり高かったということでもあろう。


多彩な楽器音/状況に対応した
プリセットを200種類用意


実際に試聴してみると、リバーブやコーラス系の良さは言うまでもないが、コンプなどダイナミクス系アルゴリズムも単体機ならではのクオリティだ。ダビング時に録り用のコンプ&EQとして本機をメインに使っても全く問題無い(この場合本機のデジタル・アウトからHDRにデジタル入力すれば、かなりの高音質が期待できそうだ)。


また本機の最大の魅力は、200に倍増された幅広く実用的なプリセット群だろう(ユーザー・メモリー数は別に100用意されており、これは従来と変わらず)。ボーカルやギター用に始まってドラムやソロ・パートなど、さまざまな楽器を対象に微調整済みのエフェクトが満載されている。デチューンされたディレイやディエッシングされたリバーブなど、デュアル・エンジンならではの複合エフェクトも実においしい。


ただし本機は入出力がXLR端子のみなので、自宅録音用にはちょっと不便かもしれない。この点ではPAや本格的スタジオ向きということになるだろうか。とはいえ内部設定の変更でアウトプット・レベルを細かく調整可能なので、変換ケーブルさえ用意すれば、使用環境を選ばないという柔軟性が本機にはある。さらにデジタルI/O(S/P DIF)を使った場合でも、アナログとは別に入出力レベルの設定が可能と大変便利だ。


本機の価格はM・Oneよりも1万円高くなった程度なので、予算に余裕があれば本機を選んでおいて損は無いだろう。何と言っても100種類も増えたプリセットは大きな魅力だ。ぜひ店頭でそのサウンドを試聴してみてほしい。



T.C. ELECTRONIC
M・One XL
98,000円

SPECIFICATIONS

■周波数特性/20Hz〜20kHz(+0/−0.1dB@48kHz/入力)、20Hz〜20kHz(+0/−0.5dB@48kHz/出力)
■最大入力レベル/+24dBu
■最大出力レベル/+20dBu
■AD/DA変換/24ビット、128倍オーバー・サンプリング
■サンプル・レート/44.1kHz、48kHz
■処理遅延/0.1msec@48kHz
■外形寸法/483(W)×44(H)×195(D)mm
■重量/1.85kg