CD-R/RWドライブの内蔵やPCとの連携も可能にした16トラックHDR

FOSTEXVF160

FOSTEXのミキサー一体型HDレコーダー・シリーズのVF08やVF16が、驚異のコスト・パフォーマンスと充実した機能で話題を呼んだのはまだ記憶に新しい。今回さらに進化をとげたVF160が新たに発売された。基本的にはVF16のバージョン・アップだが、さらなるコスト・パフォーマンスと使い勝手が実現されているようで、進化したワークステーションの新旗手と言っても差しつかえないだろう。PCによるデジタル・レコーディング・システムが普及する中、このようなローコストで強力な単体機の登場はビギナーのみならず、すでにDAWソフトなどを使った デジタル・レコーディングの渦にハマっている諸兄にとっても、新たな音楽/制作スタイルを見いだせるチャンスかもしれない......。

ローコストながら
進化したワークステーション


FOSTEXのHDレコーダーは、古くはDMTシリーズに発してVF08やVF16に至るまで、常にコスト・パフォーマンスや充実した機能が売りで、デジタルMTRによる音楽制作スタイルをグッと身近なモノにしてくれてきた。今回発売されたVF160は先行のVF16の基本性能を受け継ぎ、さらに進化した単体のHDレコーダーだ。16トラックのレコーダー部に加え、ミキサーやエフェクター/EQなどによるハイクオリティなミキシングが気軽に堪能できる。そもそも単体型のHDレコーダーはPCによるデジタル・レコーディング・システムと違って安価で気軽に使えるのが最大の利点だ。加えて使い勝手も良く、トラブルも少ないのであらゆるシーンで活用することができる。VF160はそんな利点だけでなくさらなる使い勝手を約束して登場した。今回のバージョン・アップによる大きなポイントは、大容量のHDやCD-R/CD-RWドライブの内蔵が可能になったことで、ワークステーションとしてのポテンシャルが飛躍に向上したことである。レコーディングから最終ミックスまで一貫して単体で行える便利さは想像以上に大きいのだ。


ベーシック・モデルはHD非搭載だが、3.5インチのE-IDEタイプ60GBという超大容量のHDを内蔵したモデルも用意される(オープン・プライス)。その場合16トラックをフルに使って約12時間ものレコーディングが可能なのだ! これならどんなに長い曲を書く人でも、空き容量を気にすることなく作業に集中できる。そしてオプションの内蔵型CD-R/RWドライブによっていつでも気軽にオーディオCDを焼くことができるため、本格的なミックスからデモのメモ録りまで、実に小回りの利く制作が可能になっている。さらにこの内蔵ドライブはデータのバックアップ用としても威力を発揮する。


HDRとしての高い基本性能
さらにマルチエフェクターも搭載


総合的なワークステーションとしてのポテンシャルもさることながら、16トラック・ハード・ディスクMTRとしての基本性能の高さも特筆に値すると言えるだろう。


16トラック仕様のレコーダー部は16ビット/44.1kHzの非圧縮録音/再生というスペックで、CDに匹敵するクオリティを持っている。安価な単体型HDレコーダーの中には圧縮技術を用いた機器も多々あるが、シンセ系のみで録音するならともかく、生楽器やボーカルなどを録音する場合は微妙に音質の差が出てくるのだ。音質重視の本機の設計はとてもうれしい。また実際の再生/録音16トラックに加えて8つのアディショナル・トラックが用意されており、余裕ある作業ができるのもありがたい。


アナログ入力部は8chの同時録音が可能で、ADATモードではデジタル入力を併用することで、最大16トラックの同時録音も可能となる。端子はアナログch1〜6のフォーンに加え、ch7/8にはファンタム電源付きのXLRとインサートI/Oも装備している。さらにリア・パネルには外部のアウトボード用などに2系統のAUXアウトまで用意されており、かなりの充実ぶりである。また、デジタル入出力はS/P DIFとADATオプティカルを切り替えて使えるので、CDやMDからの取り込みはもちろん、ADATインターフェースを備えた機器との連携も完璧だ。


トラック・フェーダーはキッチリ16本用意されているので、切り替えなどの操作が不要なのは大変良い。16チャンネルすべてに効きの良い3バンドのデジタルEQと、マルチエフェクター2系統を装備。加えてch13〜16およびマスター・チャンネルには独立したコンプレッサーが用意されるなど、本格的な音作りができる仕様になっている。その中でも本機の売りとなるのは、プロ機にせまるほど高品位な2系統DSPマルチエフェクターだ。EFF1には28種類の豊富なバリエーションを持つリバーブを、EFF2には、EFF1にコーラス/フランジャーや、テンポ・マップに追従可能なBPMディレイなど10種類を加えた、合計38種類用意されている。それらすべては1系統または2系統で自由に組み合わせることができる。


ミキサー部のバス・モードは、入力チャンネル数がそのままレコード・トラック数として録音されるDIRECTモードに加え、ピンポンや内蔵のエフェクター、コンプなどをかけながら、任意のトラックに録音できる BUSSモードが用意されている。またミックス・ダウン時にはインターナル・ミックス・モードの活用によって、空きトラックが無くても新規ソングに2ミックスを作成できるようになっている。これらストレスを全く感じさせない機能群は、クラスを越えた操作性を感じさせてくれる。


HDレコーダーならではの多彩な編集機能や、スピーディでストレスの無い操作性はモチロン健在。マーク・ポイントによるロケート機能やコピー/ムーブ/ペースト/イレースといった編集機能、オート・リターン、オート・パンチ、アンドゥ機能などなど、考えられるほとんどの機能は用意されており、快適かつ自由な作業が約束されているのは言うまでもない。


新機能ADATミキサー・モードで
PCとの連携も緊密


VF160は単独で使用するほかに、PCによるデジタル・レコーディング・システムなどと連携して使える工夫も施されている。ADATオプティカルをフル活用したADATミキサー・モードがそれだ。このモードはch1〜8のアナログ入力とADATオプティカル8chの相互連携によって、本機をPCシステムのメイン・コンソールとしても使えるという画期的なものである。例えば、PCからのADAT出力8chとMIDI楽器等のアナログ入力8chを同時に立ち上げてVF160側でミックスしたり、またPCにレコーディングする際のゲイン調整に利用したりと、その活用の幅は広い。PC側にADATオプティカルI/O端子さえ装備されていれば、VF160がデジタル・ミキサー付きのアナログI/Oボードとして威力を発揮するということになる。PCシステムの便利な編集機能やMIDI機能はそのままに、最終的な音作りとマスターCD落としをVF160側で行うという一歩進んだ活用法でもある。これならプラグイン・エフェクトで余計なCPUパワーを食いすぎてフリーズする......などのトラブルも少なくなって作業効率もぐんとアップすることは間違いない。さらにPC側でオーディオ・データ編集がフィックスしてしまえば、そのまま全チャンネルがVF160側に録音できてしまうというオマケ付き。後は100Vの電源がある場所ならどこだろうがCD制作まで簡単にできるというわけである。


SCSIを標準装備し
高い拡張性を確保


VF160には標準でSCSI端子が装備されている。これは音声録音用としてではなく、あくまでSCSI機器へのストレージを目的としている。内蔵CD-R/RWドライブへの保存以外に、外付けのMOやZip、HDにも素速いバックアップが可能なのだ。しかしVF160のSCSI機能は単純なセーブ/ロードのみならず、さらに違った活用法を見いだしていたのである。それは、パソコンではおなじみのオーディオ・フォーマットであるWAVファイルのセーブ/ロードができることだ。これによって、VF160で作り込んだサウンドをPCにそのまま移植したり、その逆もできたりする。市販のサンプル素材CD等からお気に入りのサウンドやループをMOなどにWAVファイルとして集めておけば、好きなときに取り込みができるわけだ(オプションの内蔵型CD-R/RWドライブではWAVファイルは扱えないが、オーディオを直で取り込むことは可能だ)。単体HDレコーダーと言えども、PCやサンプラー的な活用もできるところがこのVF160の真骨頂なのである。


つい2〜3年前までは、この種のHDレコーダーのレビューを書くに当たって、2ページというスペースは十分なように感じていた。今やその特徴の半分もお伝えできるかどうかというほど進化が速いということを痛感している。しかも高品質/ローコストとあればなおさらである。これだけ手軽に安価に充実したHDレコーディングが利用できるとなれば、PCシステムには無い利便性、機動性を生かした使用法がユーザーごとに発見、カスタマイズできると思う。


ビギナーがメインのデジタルMTRとして、レコーディングやオリジナルCDを制作するも良し、ベテランがPCのサブとして連携させるも良し、はたまた現場レコーディングで活躍させるも良し......。どんな人に向いている機種かと言うよりは、制作に携わる人間すべてが多彩な活用法を見いだせる機種だ。



▲ADATミキサー・モードによるVF160と、ADATサウンド・ボード搭載コンピューターの連携システム例。VF160に接続したマイクやギターをADコンバートしADATオプティカル経由でコンピューターに送ることができる。それと同時に、本体経由でのローレイテンシー・モニタリング行うことできる。



▲リア・パネルの接続端子類。左からAUXセンド(TRSフォーン)、ライン・アウト(RCAピン)、MIDI イン/アウト、デジタル・イン/アウト(S/P DIFオプティカル/ADATオプティカル切替え式)、フット・スイッチ、SCSI(D-SUBハーフピッチ50ピン)


FOSTEX
VF160
74,800円

SPECIFICATIONS

■トラック数/16リアル・トラック+8フィジカル・トラック
■同時録音トラック数/16
■AD/20ビット64倍オーバー・サンプリング
■DA/20ビット128倍オーバー・サンプリング
■量子化数/16ビット(非圧縮)
■サンプリング周波数/44.1kHz
■記録/再生周波数/20Hz〜20kHz(44.1kHz時)
■接続端子/インプット1〜6(フォーン)、インプット7〜8(XLR/ フォーン)、インサート7〜8(TRSフォーン)、AUXセンド1/2(TRSフォーン)、ライン・アウト(RCAピン)、モニター・アウト(フォーン)、ヘッドフォン(ステレオ・フォーン)、デジタル・イン/アウト(S/P DIFオプティカル/ADATオプティカル切替え式)、フット・スイッチ(フォーン)、MIDI IN/OUT、SCSI(D-SUB ハーフピッチ50)
■外形寸法/402(W)×110(H)×370(D)mm(最大突起含む)
■重量/約6kg
※オプション:内蔵用CD-R/RWドライブCD-1A(オープン・プライス)