多機能&イージー・オペレーションのステレオ・コンプレッサー

SAMSONS・Com Plus

思えば、筆者が高校生でエレキギターを始めたころは、下手な演奏をごまかすためにコンプをかけっぱなしにしていたものだった(音の粒立ちが良くなるからね)。それから早20年(!)このようなコンプレッサーの百花繚乱時代が来るとは、いったい、だれが予想できただろう。いざ購入するにしても、どの機種を選べばいいか迷ってしまうほどだ。そんな中、低価格ながら他に類を見ない多機能を実現したステレオ・コンプレッサー/リミッターが登場した。早速その実力をチェックしてみたい。

視認性/操作性に優れた
パネル・レイアウト


メタリック・ブルーのフロント・パネルが現代的で洗練された印象の本機は、エキスパンダー/ゲート、コンプレッサー/リミッター、ディエッサー、ピーク・リミッターと4つのセクションから成っていて、ざっと見てもコンプレッションに必要なパラメーターはすべてそろっているようだ。L/Rチャンネルごとに調整が可能で、ステレオ・リンク機能を使用した際は、Lチャンネル側の設定が有効となる。1Uのステレオ・コンプレッサーとしては一般的なレイアウトと言えるだろう。コンプのオン/オフ・スイッチがL/Rチャンネルともに中央に配置され、元音と処理音を聴き比べるときこのレイアウトはとても便利だ。LEDも明るく、視認性は良い。つまみには細かくクリックがつき、回したときの感触もやや固めになっていて、これも使いやすいと感じた。


リア・パネルの接続端子は、入出力ともにフォーンとXLR両方を備えており、プッシュ・ボタンで+4dB/−10dBの切り替えも可能だ。さらに、キー・トリガー用のイン/アウト端子も装備している。この価格帯でXLR端子が付いているとは驚きだが、進化の著しい(?)日本の宅録ユーザーにとってはありがたく、まさに至れり尽せりといった感じだ。


音色変化の無い
自然なコンプレッション効果


さて気になる音の方だが、まずはドラムのサンプルを多数用意して、いろいろとチェックしてみた。バイパス時の音色は非常にナチュラルで、やや太めのキャラクターを持っている。他メーカーの同じ価格帯の製品と比べてみたが、その違いははっきりと確認できた。"音が太い方が良い"というセリフはよく聞くが、単に好みの問題だけではなく、"太い音は細く加工できるが、細い音は太くはできない"という事実がある。特にコンプやマイクプリで音やせしてしまうのは最悪で、その点を本機はクリアしているわけだ。さすがに高級機と比べると多少レンジの狭くなる感は否定できないが、ホーム・ユースではほとんど問題無いだろう。


次に、実際にコンプをかけてみたが、バイパスのときと音色が全く変わらない。これはなかなか好印象だ。いろいろなセッティングを試してみたが、つまみをどの位置にしても自然なコンプレッションが簡単に得られる。強めにコンプレッションしても大きくサウンドが崩れることが無いので、音色を変化させずにコンプやリミッターをかけたい場合には最適だ。試しにスネアだけやや強めのコンプをかけて、キックやハットと一緒にリズム・パターンを鳴らしてみたが、スネアが浮き過ぎることなく適度に前に出てきて、イメージ通りのサウンドを作ることができた。


さらに今度はドラム・キット全体にコンプをかけて、ビートルズ風のハード・コンプ・ドラム・サウンドを狙ってみた。スレッショルド−10〜15dB、レシオ5:1、アタック100msec、リリース2secでコンプレッションしてグルーブの良いところへ微調整していったが、音がつぶれ過ぎずにいい感じの効果が得られた。もっとも全体的にナチュラル・テイストのサウンドなので、劇的な音色の変化は望めない。よってエグイ効果が欲しい場合などは、"それは別の機種で"ということになるだろう。


次に、録音済みのボーカル・トラックにかけてみたが、やはりナチュラルでスムーズな印象だった。録りのときにピークを抑えたり、ミックスで軽くリミッティングするのには向いていると言えるだろう。ここではディエッサーを試してみた。わざとボーカル・トラックのハイの成分を持ち上げてからディエッサーをかけてみたが、音がこもったり不自然になったりせずに、"サ行"の子音だけが抑えられた。オケの中で聴いてみるとハイの"チリチリ"成分が無くなるにつれて、ヌケが良くなるのが分かった。派手に効くエフェクターではないが、ボーカルものにはぜひ使ってみたい機能だ。


オート・モード、エンハンサー
ゲートなどの機能も搭載


ほかにも、本機にはいろいろと便利な機能が付いている。アタックとリリースのオート・モードもその1つで、これは文字通りアタック/リリース・タイムを自動的に設定してくれるものだ。今度はエレキベースにコンプのかけ録りを試してみた。設定はスレッショルド−10dB、レシオ4:1にして、後はAUTOボタンを押すだけである。結果は音の粒立ちが良くなり、太くてウォームなサウンドが得られた。音が太いと後から加工するのにも適しているし、何よりも演奏していて気持ちがいいのだ。自分でギターやベースを演奏する宅録派なら、(特にこだわりが無ければ)常にオート・モードのコンプかけ録りでも良いのではないだろうか。


最後にゲート機能とエンハンサー機能についてもレポートしておこう。ゲート・サウンドを作るには、エキスパンダー/ゲート・セクションにあるプッシュ・ボタンを押すだけ。リリース・タイムの変化幅がかなり大きいので、スネアの派手なゲート・サウンドから、不要なノイズのカットまで、何にでも使えそうだ。エンハンサーはコンプレッションでロスしてしまった高域を補正してくれるもので、音の輪郭をハッキリさせたいときなどに便利な機能だ。


あらためて考えてみると本機のコスト・パフォーマンスには驚きだ。何と言ってもダイナミクス系のパラメーターがひと通りそろっているところが大きな魅力だろう。しかもこれだけ多機能ながらイージー・オペレーションである点も見逃せない。ビギナーにはもちろん、ミックス時にあともう1台アウトボードが欲しい人にもお薦めだ。



SAMSON
S・Com Plus
27,000円

SPECIFICATIONS

■インプット/XLR、TRSフォーン、キー・トリガー
■アウトプット/XLR、TRSフォーン、キー・トリガー
■周波数特性/20〜20KHz(±0.5dB)
■ダイナミック・レンジ/95dBu(22〜22KHz)
■全高調波歪率/0.008%(@+4dBu、1kHz)
■クロストーク/90dB(22Hz〜22kHz)
■外形寸法/482(W)×197(D)×44(H)mm
■重量/2.3kg