コンパクト・エフェクター仕様のアコースティック・ギター用プリアンプ

YAMAHAAG-Stomp

自宅レコーディングにおいてアコースティック・ギターのマイキングと録音方法は難しい問題点を抱えている。大きな理由に、マイクを立てて録音をする場合に、マイクがスピーカーの音を拾ってしまうためフィードバックを起こしスピーカーからのモニターができないことがある。よってヘッドフォンのみのサウンド・チェックになってしまうため、思った通りの音色になかなかたどり着かない。ライブの現場での問題も多く、弾き語り程度の音量であれば大体の音響処理はできるが、大音量のバンド編成でのアコースティック・ギターの音響処理は、そのバンドの音量にアコースティック・ギターのレベルを合わせるためにハウリングやフィードバックとの戦いを余儀なくされ、非常に扱いにくい楽器とされている。

現在ではピエゾ・ピックアップやプリアンプなどを内蔵しているアコースティック・ギターもかなり進化を遂げ、ギター本体にイコライザーやリバーブまでも装備し、いとも簡単に良い音を演出することが可能になってきているが、やはり大音量のステージ上ではハウリングやフィードバックの問題は"付き物"となっているのが現状だ。

今回紹介するYAMAHA AG-Stompはレコーディング、ライブ両方の現場でそれらを解消するアコースティック・ギター専用のプリアンプだ。

多様な音色/セッティングの
8種類のマイキング・シミュレートを搭載


本機を使う際にはアコースティック・ギターにピックアップが装着されていることが必要だ。これは内蔵型に限らず、何も装備していないギターでも汎用の外付けピックアップを装着すれば良い。できればピエゾ・タイプの物が良いだろう。入出力端子はTRSフォーン型の入力端子、同形状のバランス式ステレオ・アウト(モノでの使用可)、ヘッドフォン・アウト、エクスプレッション・ペダル用入力端子、コアキシャル型のS/P DIFデジタル・アウト(44.1kHz固定)、MIDIイン/アウトとなっている。最近のアコースティック・ギターの流れでは電源が外部供給可能なモデルが登場してきているが、今回チェックに使用した同社のギター、CPX-8も外部電源供給が可能になっていて、付属のTRSフォーン型ステレオ・ケーブルで接続すると本機から+9Vの供給が可能になっている。個体差はあるがプリアンプ内蔵のアコースティック・ギターは電池の消耗が早く、またプリアンプの電源スイッチはギターのジャックにケーブルを入れたときにオンになる。そのためうっかりケーブルを挿しっぱなしにしてしまい、次の日に電池がすっかり消耗されて音が出なくなってしまったという経験のある人は多いと思うが、これで電池の心配はしなくて済むハズだ。


本機の基本機能はエフェクター内蔵のプログラマブル・プリアンプだが、素晴らしい付加機能が装備されている。筆頭に挙げるべきはMIC TYPEという機能だろう。エレキギターのアンプ・シミュレーターに当たるセクションで、本機ではさまざまなマイキングのシミュレーションを設定できる。セッティングはブライトな音色のコンデンサー・マイクで近めに拾ったオンマイクと、離れた場所にマイクを置いて部屋の残響も拾った状態のオフマイク、ソリッドな音色のダイナミック・マイクのオン/オフ、温かみのある音色のチューブ・マイクのオン/オフ、コンデンサー・マイクでナイロン弦のギター用にセットされたオン/オフと8種類の設定が用意されている。また、MIC TYPEの横にあるBLENDツマミでギターのダイレクト音とマイク・シミュレーションされた音の調整が可能になっているのでいろいろなシチュエーションを作れる。個人的にはチューブ・マイクでオフのシミュレーションが特に気に入っている。


ツマミでコントロール可能な
操作性の高いエフェクト部


2つ目の素晴らしい機能としてAUTO FEEDBACK REDUCTIONを紹介したい。ライブなどでは活躍すること間違いナシ!とも言えるこの機能は、ハウリングやフィードバックを起こしてしまったときに自動的にそのポイントの周波数をカットしてフィードバックを抑えてくれるものだ。操作もいたって簡単で、フィードバックが発生した際に本体最右のフット・スイッチを一瞬踏むだけで完了。実際に試してみたが、効果は1秒足らずで確認できた。マニュアルでの設定も可能だ。またポイントは5つまで同時に設定することができるが、設定するたびにポイントの周波数をカットしていくので、使うごとに音が細くなっていくことには注意。


内蔵のチューナーは5セグメントの大型LEDで非常に見やすい。内蔵エフェクトのリミッターはかなり利きが良く、扱いもLEVEL(スレッショルド)のみのコントロールで非常に使いやすい。ザクザクしたカッティングなどに効果を発揮するだろう。


このほかにも空間系のエフェクトとしてコーラス・ディレイ(どちらかを選択)、リバーブ(HALL、ROOM、PLATE)も装備している。これらエフェクトのコントロールは非常にアナログライクで、本体上のツマミにより可変設定を行いエフェクトすべての設定をプリセット可能になっている。非常に簡単にセッティングされたイコライザーも気の利いた仕様になっていて、BASS、MIDDLE、TREBLE、PRESENCEの各中心周波数が任意に設定可能なので、自分のギターに合った音色を設定することができる。設定した各パッチ(プログラム)は合計30までストアが可能で、0〜9のバンクに1バンク当たり3つのパッチが振り分けられる。それらを切り替えるフット・スイッチのモードも非常に使いやすく、バンクの選択、パッチの切り替えはもちろん、リミッター、コーラス・ディレイ、リバーブのエフェクトの単独オン/オフでの使用も可能なので、コンパクト・エフェクターを使っているような感覚でプレイすることもできる。


ライブで今までアコースティック・ギターではなかなか音響的にいいプレイができなかった人や、自宅レコーディングで好みの音色がなかなか作れなかった人、これからアコースティック・ギター用にプリアンプの購入を希望している人ならなおお薦めと言っていいだろう。


YAMAHA
AG-Stomp
50,000円

SPECIFICATIONS

■入力インピーダンス/1MΩ(INPUT)
■AD/DAコンバート/20ビット/44.1kHz
■メモリー数/30(プリセット)、30(ユーザー)
■外形寸法/280(W)×184(D)×70(H)mm
■重量/2.2kg