インサート端子を利用した柔軟な使用が可能なADコンバーター

MINDPRINTAN/DI Pro

自宅録音派の読者にはご存じの方も多いかと思いますが、MINDPRINTはコンプレッサーのT-Compやボイス・プロセッサーのEn-Voiceなどの真空管機器をリリースする一方、DI-Port等のAD/DAコンバーターもラインナップしているドイツの音響機器ブランドです。今回は同社から新たに発表されたADコンバーター、AN/DI Proを紹介したいと思います。

多彩なデジタル出力と
ワード・クロック端子を装備


AN/DI Proは24ビット/44.1kHz、48kHzはもちろん、96kHzのサンプリング周波数にも対応した2chのADコンバーターです。本機はライン入力のほかにマイク入力も装備しており、直接マイクを接続することが可能になっています。また48Vのファンタム電源も備えているため、コンデンサー・マイクの使用も可能で、ファンタム電源の供給は各ch独立してオン/オフできるようになっています。入力端子はマイク入力がXLR、ライン入力がTRSフォーンでバランス入力も受けることができます。これらのアナログ入力端子は頻繁につなぎ変えることを考慮して、フロント・パネルにまとめて配置されており、わざわざリア・パネルまで回り込まなくても手軽に配線換えができるため、作業中のストレスを軽減してくれるでしょう。また、リア・パネル右側にあるアナログ・セクションには、TRSフォーンのインサート端子も2ch分用意されており、これもバランスでやりとりが行えるようになっています。このインサート端子の活用法については、後ほど触れることにしましょう。


一方、デジタル出力にはAES/EBU、S/P DIFのコアキシャルとオプティカルを用意しており、ほどんどのデジタル機器との接続が可能となっています。さらにはワード・クロック端子、そしてデジタル・シンク用のAES/EBU、S/P DIF(コアキシャル)が設けられており、多くのデジタル機器のシステムの中でスレーブとして機能するように考えられています。特にワード・クロックはプロ用スタジオのシステムの中でも使用頻度が高く、新たに本機をシステムに加える際にもスムーズに組み込むことができるでしょう。


太い質感を与えてくれる
プリアンプ・セクション


早速、肝心の音をチェックするため、現在作業中のセッションで本機を使用してみることにしました。レコーダーはDIGIDESIGN Pro Toolsを使用し、DIGIDESIGN Universal Slave Driverからクロックを供給して本機をデジタル・スレーブとして使用してみます。接続の際の設定も分かりやすく、本機のフロント・パネルの右側にある2つのフリケンシー・スイッチ(44.1/48)がともに押されていない状態で外部クロックを受け取ると、自動的に周波数はマスターに合わせてセレクトされます。インターナル・クロックで使用する場合は任意のフリケンシー・スイッチを押すだけでOK、さらに96kHzにしたい場合は両方のスイッチを押すという仕組みで、セレクトした周波数は右側にあるインジケーターで確認ができます。なお、エクスターナル・クロックで動作させる場合にのみ88.2kHz、32kHzに対応可能となっています。


では本機に入力されたアナログ信号を24ビット/48kHzでADし、Pro Tools側で試聴していきたいと思います。まずはピアノ用に立てたマイクを直接本機に入力してチェックしてみると、その解像度は素晴らしく、ジャズ・ピアノの繊細なディテールを崩すことなくきちんと表現しています。デジタル特有のレイテンシーも1msec以内に抑えられており、プレイヤー側もほとんど気にならない範囲とのこと。このレイテンシーはサンプリング周波数によって多少変化はあるものの、特に問題になることは無いでしょう。


次にスネアに立てたマイクを入力して試聴してみると、パワー感のある音でこれがまた良い! 個人的に本機のプリアンプのキャラクターは、どちらかというとロック向きのような印象も受けました。ベース・アンプとも相性が良く、しっかりした低域と中域が特徴的な太い質感で、同社のEn-Voiceに近い音の感じがします。


ちなみに前述のインサート端子を使えば、外部エフェクトのかけ録りも行えます。さらにこの端子を利用して、リターン側に外部ヘッド・アンプなどを接続し、直接ADするという使用法も考えられます。特にプロ・スタジオでの作業の場合、すべての過程をオールインワン・タイプのヘッド・アンプ/コンプ1台で賄うケースは少なく、やはり録音する楽器や曲調によって機器を使い分けたいというのがエンジニアの心情。この辺もよく考えられた設計と言えます。外部ヘッド・アンプからADコンバーターに直接アクセスした場合のサウンドは素直かつクリアな印象で、先程感じたパワー感や太さといったキャラクターは内蔵プリアンプによるものだと思われます。逆にインサート・センド端子からアナログ出力を取れば、太く温かみのある音が得られる、単体のヘッド・アンプとして本機を活用することもできるでしょう。こういった使い方もぜひ活用したいところです。


なかなか好印象のAN/DI Pro、プロ・ユースとしてはもちろんですが、やはりその性能の恩恵に最もあやかれるのは2chのライブ収録時や自宅録音ユーザーではないでしょうか? 特にコンピューターを軸にした自宅録音の場合、デジタル・スレーブとして本機を組み込んでおけば、常にコンピューターをマスターにした安定したシステムを構築できるでしょう。


今回は24ビット/96kHzの録音環境が手元に無く、残念ながらフル・スペックでの試聴ができませんでしたが、上記のチェックでも十分可能性を感じさせる結果が得られました。やはり音の入り口として、非常に重要な位置を占めるのはヘッド・アンプとADコンバーターと言えます。ここはやはり信頼のおけるものを使用したいところです。AN/DI Proならば、過酷な環境でもデジタル経由で高品位な音質を保ったままサウンドを取り込むことができるでしょう。しかも、96kHz対応でこの価格は魅力です。



MINDPRINT
AN/DI Pro
108,000円

SPECIFICATIONS

■周波数特性(48kHz)/20Hz〜20kHz/−0.8dB(ライン・イン)、20Hz〜20kHz/−0.3dB(マイク・イン)、20Hz〜20kHz/−0.25dB(リターン)
■サンプリング周波数/32/44.1/48/88.2/96kHz
■リゾリューション/24ビット
■レイテンシー/0.997msec@44.1kHz、0.934msec@48kHz、0.512msec@88.2kHz、0.475msec@96kHz
■外形寸法/482(W)×44(H)×260(D)mm
■重量/3.4kg