ギター専用にデザインされた空間系デジタル・エフェクト・プロセッサー

T.C. ELECTRONICG・Major

現在、さまざまなPA/レコーディング用のローインピーダンス入力に対応したマルチエフェクターが存在する中で、なぜかギター専用というカテゴリーのマルチエフェクターは数えられるほどしか存在しない。確かに用途を集約する必要がないのが現在のスタイルなのかもしれないが、ここにきて以前より空間系エフェクトでは個性的な質感で定評のあるT.C. ELECTRONICからギター専用マルチエフェクターG・Majorが発売された。早速その実力を探ってみよう。

同時/単独使用可能な
6系統の空間系エフェクト


T.C. ELECTRONICはギター用のマルチエフェクターとして過去にG-Forceをリリースしていたが、G-Forceとの相違点はまずG・Majorはギター用でありながらディストーションとイコライザーを搭載していない点。本機はアンプ・シミュレーターではなくプリアンプやギター・アンプとの併用を考えてデザインされており、ギタリストの最大の個性とも言えるアンプのトーン・キャラクターやディストーションのチョイスはユーザー側に委ねられている。これは正しい設計思想だと思う。そして何よりも、今では廃番になってしまった同社の名機TC2290やコンパクト・エフェクターPhaser XII(フェイザー)やSCF(コーラス/フランジャー)の完璧とも言えるシミュレートが大きな特徴。24ビットでデジタル処理されているサウンドは非常に明瞭感があり、ギター・アンプの個性を決して損なわないのだ。


G・Majorの基本的なエフェクトは6系統(ノイズ・ゲートを含めれば7系統)で、コンプレッサー、フィルター/モジュレーション、コーラス/フランジャー、ピッチ・チェンジ、ディレイ、リバーブとなっている。各エフェクトはすべて同時に選択でき100個までプリセット可能。また、プリセットの中でコーラスのみをオフにしたりピッチ・チェンジだけをオンにしたりといったコンパクト・エフェクター的な活用法もOKだ。


個性的なプログラムを幾つか紹介しよう。T.C. ELECTRONICサウンドと言えばやはりSCFやTC2290等に代表されるコーラス/フランジャーだと思うが、特に私のようなニュー・ウェーブ出身のギタリストにとってこれは非常に重要なアイテムの1つである。G・MajorではCHO│FLAブロックでクラシック/アドバンス・コーラス、クラシック/アドバンス・フランジャーの4つの中から好みのタイプを選択できる。この中でも筆者が気に入ったのはクラシック・コーラス。本当にあのTC2290そのものという個性的な効きなのだ。さらに懐かしい系サウンドにこだわるなら、FILTER│MODのブロックのビンテージ・フェイザーもかなりいい感触。こちらは同社のPhaser XIIをシミュレートしたものではないだろうか。ここではフェイズ・リバースのオン/オフも可能になっていて、最近のフェイザーにないワイドな効果が得られる。そのほか、ワウ的な効果を生むレゾナンス・フィルターやトレモロ、ビブラート、オートパン等も用意されている。


DELAYブロックもピンポン、ダイナミック、デュアルの3種類から選択するのだが、中でもダイナミックはまたしてもTC2290のノウハウが生かされたプログラム。ディレイの出力レベルを入力レベルのダイナミクスに連動させる機能を持ち、演奏中はディレイの成分を抑え、演奏していないときにディレイ成分をより明確に聴かせるといったエフェクトが可能だ。つまり弾いているフレーズの隙間にディレイ成分が収まり、心地よくフレーズを表現することができる。PITCHブロックのピッチ・シフターも通常の機能はもちろん、オプションのMIDIフット・ペダルG・Minorを併用すればWhammyペダルのような効果も出せる。さらにREVERBブロックにはスプリング、ホール、ルーム、プレートの4種類があり、特にシミュレートの難しいビンテージ・ギター・アンプのスプリング・リバーブはかなり良い印象だ。


これらのエフェクトはエディットも非常にイージーですべて共通の方式だ。エディットは6ブロックに分かれた各エフェクト・ボタンをダブル・クリックして前面パネル右側にある2段式のコントロール・ホイールでパラメーターを調整する。基本的にホイールの外側がパラメーターの呼び出し、内側でその値を変化させる。そして気に入った音色ができたらSTOREボタンを押し任意のプログラム・ナンバーを選択してもう一度STOREを押すだけ。複数のエフェクトを同時使用した場合のルーティングも、プログラム別に直列/並列が選択できるなど自由度は非常に高い。


アナログ/デジタル入出力に加え
便利なSWITCH OUTも装備


本機のアナログ入出力はモノラル/ステレオ自動検知式のバランス・フォーン。さらにS/P DIF入出力に加えてSWITCH OUTというアナログ出力も装備されている。このSWITCH OUTはなかなかユニークかつ有益なポートで、G・Majorの1つのプログラムに対して前段にかました外部プリアンプ等のバッキング/リード・チャンネルをG・Major側から切り替えるというもの。このリレー・スイッチング機能により、G・Minorがあればプリアンプの設定を含めた本機のほとんどのコントロールが可能になるわけだ。


現在の私のエフェクターを含めたギター・アンプのセッティングは歪みとクリーンはアンプで調整、こだわりのある空間系は100V電源を必要とするアナログ・コーラスと、アンプのセンド/リターンでデジタル・ディレイ、ピッチ・シフター2台、スプリング・リバーブ内蔵のテープ・エコーをつなぐというもの。各機材の前後にはバッファー・アンプ等も接続しており、当然膨大な数のワイアーでセットアップにも時間がかかる。今回のテストではそのセットの空間系をすべて取り払い、G・Majorだけでどこまで普段の音に近づけるかがテーマでもあったが、本機は24ビット処理でハイファイなだけでなく往年のT.C. ELECTRONICサウンドの再現という感触も強く、その質感は私の趣味とするところであり、今のアナログ・システムから乗り換えるならこれかなとさえ思えた。また当然ライブでもフットワークは軽くなる。本機は潔くEQやディストーションを搭載していないが故に使い勝手が良く、現在使っているギター・アンプが気に入ってる人には特にお薦めだ。



T.C. ELECTRONIC
G・Major
88,000円

SPECIFICATIONS

■入出力端子/デジタル・イン/アウト(S/P DIF、コアキシャル)、アナログ・イン/アウトL(MONO)/R(フォーン、バランス)、スイッチ・アウト(TRSフォーン)、フット・ペダル・イン(フォーン)、MIDI IN/
OUT/THRU
■最大入力レベル/+24dBu
■最大出力レベル/+20dBu(バランス)
■サンプリング・レート/44.1/48kHz
■AD/DA変換/24ビット、128倍オーバー・サンプリング
■周波数特性/20Hz〜20kHz@48kHz
■外形寸法/483(W)×195(D)×44(H)mm
■重量/1.85kg